進化するロック=ハイブリッド・ジャム
90年代後半、トランス系野外イベントに数多く出演。デジタルなサウンドにパーカッションなどのビートが絡む演奏は、時にハイパーであり、時にミスティックであった。聞く者の精神と、その場の環境によって多様に変化する音。野外パーティーに参加していた若きテクノフリークはもちろんヒッピー世代のオールド・デッドヘッズまで、その音の神秘性に魅了され、その音に次世代のサイケデリックを感じ取っていた。
また、テクノ系パーティーだけではなく、フジロック・フェスにも出演を果たしている。1999年、2000年、2002年と短期間での集中した出演は、フジロックでは珍しい記録だ。
そして2006年。strobo、3年振りの新作『CHAOSADDICTION』がリリースされる。新メンバーにMatsuda(b)を加え、5人組となっての初のアルバムになる。現在のメンバーはHiroki(g)、Ryudai(per)、 Talow(syn)、Linn(ds)、Matsuda(b)の5人。
ここ数年、メンバー個々の活動が多忙をきわめていたこともあって、 アルバムを作りたいという思いはあったものの、それがなかなか実現できなかったという。
stroboは、ライブのなかで自分たちで出す音を新たな自分たちのものに構築していく。曲としての原型はあるのものの、その場のエネルギー、 その場で行われるメンバーの意識交換によってサウンドは変化していく。その意味では、ジャムバンド的な要素も持っている。
「ライブでは、ジャムっぽくやっている。それをCDにパッケジするっていう作業があまイメージできなかったんですよね。今までずっと悩んで悩んで、打ち込みにしてみたりいろいろチャレンジしたんです。今回は開き直って『一発で録っちゃおうよ』っていうことになって。はじめて、みんなでスタジオに入っての一発録りだったんです」とHiroki。
「今のstroboのベストな状態が録れたと思います」とLinn。
「一発録りのほうが自分たちにあっているかも。CDはひとつの記録だとも思っているんです。作り込んだとしても、結果として変わらない。だったら、その瞬間のグルーブを出したほうが、自分たちのその時の音になるわけですし」とTalow。
何度もライブで練られてきた曲だっただけに、レコーディングはわずか2日間で終了したという。レコーディングまでには、何度もリハーサルが繰り返され、意思の疎通がはかられたものの、わずか2日間という驚異的なスピードで『CHAOS ADDICTION』は創造された。タイトルは直訳すれば混沌中毒。
「この世界というか、宇宙自体が全部カオスだと思うんです。エッジオブカオスという科学用語があるんすよ。宇宙はカオティックな流れだけれど、生命体だけはその中でも唯一秩序に向かっている。その先端がエッジオブカオス。 そこから出てきた言葉なんですよ」とMatsuda。
「ロックって誰がやっても何をやってもいいんじゃないですか。進化系をどんどん吸収していきたい。海外でこういうの流行ってるから、こういう感じどう?っていう思考は全くなくて、自分がいいと思える音をどんどん突き詰めていければいいなと。stroboは、自分がかっこいいと思う音楽、自分がずっとやっていきたい音楽をやる実験の場なんですよ。今回のアルバムは、いわばロウソクの光なんです。ロウソクの光は、街の明かりと比較すれば暗いかもしれない。だけど、その光だけを見ていたらものすごく明るく感じる瞬間もある。電気とは違う明るさ。 極限までそぎ落としていって、そこで盛り上がれる音楽を提示したかった。それが出せたかなって思っています」とHiroki。
「きっとこのアルバムの音も、ライブでは変わっていく。録音した時点での完成形ではあるけれど、それからまた違う、さらなる飛躍を曲にも持たせる。通過点としてアルバムを捉えてる部分もあるんですよ」とRyudai。
ロックが進化した先にあるもの。メンバーの意識の交換から創造されるサウンドとビジョン。ダンスとアンビエントの中間地点。そんな唯一無二の世界観をstroboは聞かせてくれる。5人の個性をハイブリッドした新しいジャムが提示されている。
菊地 崇(Lj)