大島 保克

東ぬ渡

1999.06.23
アルバム / VICG-60204
¥3,080(税込)
Victor

たくさんの人たちの心がほどけていく うた
沖縄・八重山の若き唄者大島保克の今を生きる島唄がここにある。

  1. 01

    島酒の唄 {島酒=しまざけ}

  2. 02

    赤ゆら

  3. 03

    夏花 {夏花=なつぃぱな}

  4. 04

    アヨウ「東ぬ渡」 {東=あーり/渡=とぅ}

  5. 05

    東ぬ渡 {東=あーり/渡=とぅ}

  6. 06

    真謝井・ぼすぽう節 {真謝井=まじゃんがー}

  7. 07

    月ぬ美しゃ {美=かい}

  8. 08

    まるまぶんさん・殿様節

  9. 09

    かりゆしぬ舟 {舟=ふに}

  10. 10

    山原路 {山原路=やんばるじ}

  11. 11

    揚古見の浦節 {揚古見=あげくん/浦=うら}

小さな島々に住む沖縄の人々は、昔から海の彼方に見果てぬ夢を求めてやまなかった。
大島保克が生まれ育った白保は石垣島東海岸に位置し、東の海の彼方を「東ぬ渡(あーりぬとぅ)」と呼び、「東ぬ渡」から宝船がやって来て弥勒世をもたらすという言い伝え、信仰がある。

大島保克:唄、三絃
武川雅寛:ヴァイオリン、フラットマンドリン、囃子
木津茂理:太鼓、鳴り物、唄、囃子
新良幸人:笛、三絃、囃子


 沖縄の「うた」は多くの人たちを惹きつけてきた。今や「伝統」や「民謡」が死語になってしまったこの国のなかではおそらく唯一、そうした言葉が意味を持って生き続けている場所だからだろうか。しかし、それは私たちの思い込みであるのかもしれない。もちろん、「沖縄」の「うた」も「伝統」もひとつではないのだ。むしろ、ひとつずつがそれぞれの貌と生命を持った無数の歌と声を持って生き続けている。そしてその生き方もまた一様ではない。
 「沖縄民謡」というカテゴリーを外して考えたとしても、同時代の歌手たちのなかで私がもっとも好きな歌い手・大島保克は、その一様ではない「うた」の生き方にいのちを吹き込み続けている稀有な存在だ。誇張ではなく、世界的なレベルの存在感を放っているといってもいい。その心地よい歌声が豊かに抱え込む意味や記憶の前で、いつも私は立ちすくんでしまう。そして、新作『東ぬ渡』でもまた私は心地よいまどろみと限りなく言葉が頭のなかを駆け巡りはじめる瞬間が同時に訪れてくるのを感じている。
 彼は今回のアルバムとはそれぞれが全く違う肌触りを持つ二枚のアルバムを既に発表している。また、三線だけを抱えて独りで歌うというスタイルを中心にしつつ、様々な共演者とのライブをも積極的にこなしている。録音にしろライブにしろ、その多様な声と音との取り組みにあっても、「大島保克」は自分以外の音や声と静かに調和する。しかし、彼はどこまでも「大島保克」であり続けている。これは実に驚異的なことなのだ。無理に合わすこともしなければ、負けることもない。「沖縄民謡」というカテゴリーからは一見遠くにあるような共演者=「他者」たちと不思議に溶け合い、響きあう魅力は、一見オーソドックスな「民謡」のスタイルを年齢の割りに固守しているイメージもなくはない彼の持つもうひとつの特質であると思う。同時にそれは彼が決して自然や伝統というスタティックなイメージで捉えられがちな八重山民謡の単なる保存者・伝承者としてふるまっているだけでもなければ、そうしたイメージからだけ私たちが耳を傾ける存在でもないことの証しなのだ。言い換えれば、「沖縄」に生まれなかった私たちとは異なる記憶を抱えつつも同じ現在を呼吸している歌い手であるというべきだろうか。
 大島は八重山・石垣島の白保で生まれ育ち、那覇へ東京へと流れていく。そして、現在の居場所は大阪・今里(1999年CD発売当時)。有名な鶴橋に隣接する在日コリアンの街から、世界で最も珊瑚が美しいことで知られる沖縄の片隅の村へと思いを馳せる一曲目から始まるこのアルバムでは、彼が祖父をはじめとした村の人たちから引き継いだ記憶が、彼のなかで新しい変容の時間を静かに過ごし、「大島保克」という個人と、集団の記憶が溶け合い始めていることが感じ取れる。故郷を離れて暮らした場所の記憶。今里と白保の往還。彼の前を歩いてきた人々の記憶が彼の方へと歩み寄り、彼の経験がその記憶を静かに彼にしか出来ないやり方でなぞりはじめたといってもいいだろうか。もともと歌手としてだけではなく、加藤登紀子がその曲「イラヨイ月夜浜」をカヴァーしていることでも知られているように、優れた歌・曲の作り手としても豊かな情感を誇る大島だが、ここでは彼のオリジナルと伝承曲が違和感なく地続きなものとして聴こえてくる。録音はたったの三人。それもあとの二人はネイティブなウチナーではない。ムーンライダーズの武川雅寛と邦楽奏者・木津茂理。この顔合わせによって、豊かに醸し出される静かな充実ぶりにはほんとうに驚かされる。曲によって加わる新良幸人もパーシャ・クラブの人気者としてではなく、あくまで大島の生まれ育った白保の記憶を共有する幼馴染みの唄仲間としてインティメイトな雰囲気を伝えてくれている。
 ウチナー・ポップ以後の「沖縄民謡」期待の若手?いや、ここではそっと単に「うた」として多くの人たちに聴いてほしい「声」がある。この時代にこれだけ贅沢な音楽が成立すること自体がまさに奇蹟なのだ。そして、私たちの時代にもこんな歌い手がいることが可能なことは希望でもある。

東 琢磨(1999年、CDライナーより)

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