LOVE PSYCHEDELICO

Right now

　「Right now」。つまり「今だ！」という名の新作である。そういえば前のシングル「fantastic world」のとき、「もうストレートに“愛”って言っていかないと間に合わないんじゃないか」とか聞いたな。などと思いつつも、まずは音を聴いてみる。最初に出てきたのはシンセのシーケンス。つづいてドラムマシーンとシンセベース。いずれもテクノ的にむき出しなかんじの音色だ。あれー？　CD間違えたかあ、と思った矢先にKUMIの歌が入ってきた。サビではNAOKIのギターも加わりまぎれもないデリコの世界が広がった。うーん、これは！

　曲は再び打ち込みのみの世界にもどる。こちらも冷静さを取り戻してより多くのことが見えてきた。たとえばノリのこと。たしかに意表をつくオケではあるが、そこに身をゆだねてみるとえらいグルーヴィーなのだ。しかもKUMIの歌と見事にノリが一致している。「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー～」や「Your Song」をはじめ実は打ち込みドラムのナンバーはいろいろとある彼女たち。そこで培われたスキルがいま前面に浮上した感がある。まさに「Right now !」というかんじで。クラブ・ミュージックにもなりうる本作の質感とそれでもなお全く損なわれてない２人本来のグルーヴのことを考え合わせると、デリコの最良のリミキサーはデリコ自身、という形容も浮かんだ。

　それから詞。なにが“今”なのか？　という部分だ。ここでくり返し歌われているのは“Don't hide your way”と “running to the another world”というフレーズ。another worldは自分の中にあるとも歌われている。そして随所に “right now”という言葉が。自分を隠さないで。もうひとつの世界へ走ろう。今すぐに。そんな歌から始まる今回のシングルはクールに力のぬけたバンド・サウンドの「Brown-eyed joe」を経て、アルバム『Early Times』にも収められていたゴスペルな「Everyone,everyone」で終わる。

　「Right now」から「Everyone,everyone」へ。これは呼び掛けの作品だ。新たなサウンド・メイキングによってまず自分たちのanother worldをはっきりと見せた上で、聴き手の人たちにも覚醒を呼び掛ける。そこには口先だけのメッセージとは別次元の説得力と今のデリコの充実ぶりが力強く見えている。


今津　甲