英国ルネッサンス期に流行した歌や踊りの音楽。スタイリッシュなリビング空間にもピッタリ。
-
01
アルメイン(T.モーリー)
Alman -
02
オールド・スパニョレッタ(G.ファーナビー)
The old Spagnoletta -
03
フルートと太鼓~「戦争」(W.バード)より
The Flute and the Drum - The Battle -
04
ブルのおやすみなさい(J.ブル)
Bull's Goodnight -
05
ウィロビー卿のご帰館(W.バード)
Lord Willoughby's Welcome Home -
06
ガリアルド ト短調(J.ブル)
Galliard in g minor -
07
トレジャンのパヴァーヌ(W.バード)
Pavan:Ph.Tregian -
08
ガリアルド(W.バード)
Galliard -
09
鐘(W.バード)
The Bells -
10
グリーンスリーヴス(イギリス民謡/編曲:水永 牧子、神田 佳子)
Greensleeves -
11
私の宝物(J.ブル)
My Jewel -
12
ドイツ人のアルメイン(J.ブル)
Germain's Alman -
13
深い緑の森よ(W.バード)
The Woods so Wild -
14
ファンタジア イ短調(W.バード)
Fantasia in a minor -
15
イン・ノミネ No.12(J.ブル)
In Nomine -
16
ラヴォルタ(W.バード)
Lavolta -
17
涙のパヴァーヌ(J.ダウランド/編曲:W.バード)
Lachrymae Pavan
●イングリッシュ・スピネットという小型チェンバロとフレンチ・タイプのチェンバロを曲によって使い分け、さらに名曲「グリーンスリーブス」はじめ、3曲で東京とニューヨークで活躍中の打楽器奏者、神田佳子が参加。バラエイティ豊かなスタイリッシュな古楽。
●演奏:水永牧子(チェンバロ), 神田佳子(打楽器)*T-3,10,16
録音:2005年3月 山梨市はなかげホール
96KHz24bit Original Digital Recording
●水永牧子の音楽帖、または英国庭園へようこそ(音楽ライター 山尾敦史)
ウィリアム・バードが編纂して1590年代に完成した『ネヴェル夫人の曲集(My Ladye Nevells Booke)』という、一冊の鍵盤楽器作品アンソロジーがある。おそらくはバードの経済的な支援者であり、鍵盤楽器の生徒でもあったネヴェル夫人という人物へのプレゼントとして、バード自身が当時の人気作曲家による作品をチョイスしたものだろう。この曲集は出版されて現代にまで弾き継がれているが、作曲家もしくは楽譜出版業者がプロデューサー役になり、こうした曲集を構成・出版することは珍しいことではなかった。鍵盤楽器のための曲集では約300曲を収録した『フィッツウィリアムのヴァージナル曲集』というもうひとつの重要なアンソロジーがあり、この2つの曲集でエリザベス1世の治世(在位1558-1603)に活躍していた作曲家たちの概要がわかるし、当時どういったスタイルの器楽作品が人気を博していたかという疑問への回答にもなっている。
音楽だけでなく詩集や短編小説集などの場合も同様だが、アンソロジーの重要なポイントは選者の審美眼やセンスなのであり、ともすると素材よりも編集センスが作品の評価を左右してしまうことさえある。このディスクもまた水永牧子という、演奏者でもあり構成・編集者が選んだ選集であり、むしろ「Lady MAKIKOの音楽帖」といった副題が付いていてもおかしくないだろう。アルメインやガリヤルド、パヴァーヌといった舞曲、そしてこのアルバムにも収録されている「鐘」のようなグラウンドや変奏曲形式の意欲作、ファンタジアなど、種々の異なるスタイルを持つ小品を膨大なリストから選んで組み合わせていくのは、どこか色とりどりの花を構成していくイングリッシュ・ガーデンの創作に似ている。まだ冬の寒さが残った山梨県の山間にある音楽ホールで録音を行い、その気候・環境をして“イングランド的”だと笑ったときから、幾度となくディスカッションを重ねるうちに彼女がガーデニングを趣味とすることなどを知り、このアルバムのとらえ方が少しずつ明快になっていった。
チェンバロは多くの場合、ルネサンスやバロックの音楽を演奏する楽器という認識に支配されており、もちろん水永牧子も「ラ・フォンテーヌ」での活動を含む中で、そうした音楽を根底に演奏活動を続けている。しかしながら「それに囚われすぎて楽器としての広い可能性を閉ざしてしまったり、聴いていただけるリスナーを限定してしまうことがいいとは思えない」と彼女は言う。それを裏付けるような内容となったのが、バラエティ豊かな選曲でやや異彩を放った前アルバム『夢見る雨』ということになるのだが、今回のアルバムはチェンバロ奏者としてのホームグラウンドとも言えるルネサンス期の作品集であると同時に、ともすれば“マニア向けの音楽”となってしまいそうになる内容を、彼女なりの視点で提示してくれたものだ。それを読み解くキーワードはアルバムのタイトルにもなっている「イングリッシュ・ガーデン」であり、収録作品とは時代が異なるもののウィリアム・モリスの、植物などをモティーフにしたデザインなど。どちらも地道で繊細な作業を経て生み出された“アート”であり、それはイタリアやフランス、ドイツなどの地域から生まれる音楽と違って、素材の味わいを損なうことなく音を紡いでいくようなルネサンス期イングランドの音楽と、共通項があるようにも思える。
(ライナーノーツより抜粋)