大野祥之(音楽ライター)

美丈夫である……。

デビュー時に初めて会った瞬間の印象は、意外にも静謐なものだった。
まだ、ヴィジュアル系という呼び方もない時代、ちょうど同時期にメジャー・デビューを飾ったXと競い合うようにして、彼らは独自のスタイルを確立し、音楽雑誌はそんな彼らを、新しいムーヴメントの始まりであると、熱狂的に伝えたものだった。

気がつけば、時代は彼らの後ろを走っていた。ライヴハウスが超満員になり、すぐに会場はホールになり、そして大きなフェスティバルの会場も観客で埋めつくされていったのである。
もちろん、そんな初期衝動だけで人気が続くほど、日本の音楽シーンは甘くはなかった。バンドの存続を揺るがしかねないほどのアクシデントに見舞われたこともあったし、新たな音楽性を模索して試行錯誤をくり返したこともあった。

しかし、そんな場面に直面するたびに、バンドとしての結束を強め、よりアグレッシヴに新たな地平へと、彼らは歩を進めてきた。しかも、沈着冷静に。
実際、彼らと同じようなアクシデントに見舞われたバンドもいたが、そのバンドがメンバー・チェンジを行って危機を回避したことに対して、BUCK-TICKはデビュー以来の不動のメンバーのまま、危険な氷河期を乗り越えたのだった。

ほかの誰にも代えられないメンバーだからこそ、バンドであることに意味がある。そのことを身をもって示すかのように、彼らは独自の音楽性を創り続けていった。

彼らの音楽は、その時代その時代の空気を体内に取り込んで、キチンと咀嚼したものだったからこそ、最新の響きをまとい、説得力を増して、ファンの耳を震わせたのだ。

気がつけば30年もの時間が流れている。コンスタントにアルバムを作り、ライヴのステージに立ち続けて、彼らはここに来た。そして、ここが終点ではないことを、誰もがわかっている。そんな30周年に置かれたマイルストーンを踏みながら、彼らの歴史は続いていくだろう。

リアルでスリリングで、そしてたまらなくセクシーなBUCK-TICKの姿は、まごうことなく“美丈夫”である……。