Celtic Music In Cape Breton 〜隠されたケルトの秘宝〜
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ABOUT NATALIE MACMASTER
● ケルト最後の聖地とも言われるケープ・ブレトン島にて9歳のときにフィドル(バイオリン)を手にしたところから音楽キャリアをスタートした彼女のサウンドは、トラディショナルをベースにしながらも、ギター、ベース、ドラム、といったバンド編成にて創り上げられ、ポップ・フィーリングに溢れている。また、ナタリーはフィドル・プレイヤーとしてチーフタンズを始め、カルロス・サンタナ、ポール・サイモンからルチアーノ・パヴァロッティといった世界中のそうそうたるミュージシャンと共演している。さらにそれだけでなく、ステップダンスも超一流で、コンサート・パフォーマーとしても国際的な知名度の高さを誇る存在でもある。
● カナダのグラミー賞と言われているジュノー賞をこれまで2度獲得するなど数多くのアワードにて多くの賞を獲得。米ビルボード誌のワールド・チャートの常連でもある。常にツアーをしていることでもよく知られ、今年も年末まですでにかなりの本数のコンサートが予定されており、“カナダの音楽業界で最も忙しい女性”とまで言われるほど。これまでスコットランド、イタリア、ドイツといったヨーロッパでのツアーも行い、来日公演が待たれている。
 ケープ・ブレトン島の伝統音楽を広く世界のリスナーたちに知らしめた最大の功績者といえば、やはりアシュレイ・マックアイザックとナタリー・マクマスター。1990年代、この二人の若いフィドラーの登場によって、カナダ東南端の小さな島に、極めてコアなケルト音楽が綿々と受け継がれてきたことを我々は知ったのだった。
 ケープ・ブレトン島が属するノヴァ・スコシアは、その地名が表している通り、スコットランドからの移民が中心になって開かれた土地であり、ケープ・ブレトン島も、人口全体の3〜4割がスコットランド系(特に島の北側では7割以上)だ。当然、スコットランドの伝統文化が濃厚に継承され、場合よっては今やスコットランドでは見られなくなったような古い文化スタイルも残っているという。そして当然ながら、音楽も盛んで、特にフィドルの人気は高い。石を投げればフィドラーに当たると言われるほどである。
 「ケープ・ブレトンのミュージシャンにとっては、音楽=職業という概念はないんだ。音楽は純粋な楽しみ、娯楽であり、ミュージシャンは誰かに頼まれれば演奏し、後は酒の一杯でもおごってもらうという感じだった。70年代頃からはラウンダーやシャナキーなどのレーベルからレコードを出す人も現れたが、レコード産業が本格的に島に入ってきたのは80年代半ばからだ。ケープ・ブレトンでは、1コミュニティにつき最低一つはダンスホールやマチネーのためのクラブがあり、300人ほどのフィドラーが常にどこかで演奏している」と語るのは、つい先日素晴らしい新作『Ashley MacIsaac』を発表したばかりのアシュレイ・マックアイザック。
 そんなフィドラー天国でナタリー・マクマスターが生を受けたのは、1973年のこと。場所は、ケープ・ブレトン北東部のインヴァネス郡にあるトロイという小さな町だ。一族は代々音楽一家であり、中でも母親はステップ・ダンサーとして、叔父のバディ・マクマスターはフィドラーとして非常に有名だった。また件のアシュレイ・マックアイザックや、カナディアン・ケルト音楽界の大御所シンガー/ギタリストのジョン=アラン・キャメロンも従兄弟にあたる。ナタリーは5歳から母親にステップ・ダンス(スコットランド起源の足を跳ね上げるダンスで、「足がなかったらフィドルも弾けない」と言われるほど楽器演奏とも不可分である)を習い、9歳からフィドルを始めた。やがていっぱしのケープ・ブレトン・フィドラーとなったナタリーが初めてプロとしてレコーディングに臨んだのは16歳の時で、それはカセット・テープのみのアルバム『4 On The Floor』として89年に地元のインディ・レーベルからリリースされた。更に91年には2作目として、同じくカセット・アルバム『Road to the Isle 』を発表。これは、カナダの音楽賞の一つ、「East Coast Music Awards」の年間最優秀インストゥルメンタル・アーティスト部門、並びに、ルーツ/トラディショナル部門で受賞した。この頃から、ケープ・ブレトンの天才少女フィドラーとしてナタリー・マクマスターの名はカナダ中に急速に広まってゆく。
 そしてその活躍の場は、93年に、カナダだけで5万枚を売り上げてゴールド・ディスクに輝いた3rdアルバム『Fit As A Fiddle』をリリースしてからは、更にアメリカやアイルランド、スコットランドなど世界へと拡大していった。95年に、カルロス・サンタナのコンサートのオープニング・アクトとして8万人の大観衆の前で演奏した時は、フィドルの高弦2本を切りながらも、低弦2本だけで最後まで演奏しきり、大喝采を浴びたという。また、96年には、若い才能の発掘に熱心なアイルランドの音楽大使チーフタンズからも、当然のように共演を申し込まれ、共に4週間の全米ツアーを敢行した。そしてこの年に発表されたのが、4作目の『No Boundaries』。随所にロックやカントリー的な味付けを施した、異種格闘技的なこの傑作は、彼女の表現世界をぐっと押し広げ、より多くのリスナーを獲得する。これもまたゴールド・ディスクを獲得。98年にリリースされた次の『My Roots Are Showing』は、一転、ピアノとギターだけを伴奏に、ケープ・ブレトンのより古いフィドル・スタイルに挑戦したオーセンティックな作品で、カナダのグラミーにあたるジュノー賞ルーツ/トラディショナル部門の最優秀アルバムに輝いた。そんなルーツ再確認を経て、99年に発表されたのが、カントリー/ブルー・グラス界の天才マルチ・プレイヤー、マーク・オコナーの他、カナダやアイルランドから多くのゲストを招いて制作された6枚目の人気作『In My Hands』で、ここでは『No Boundaries』路線を更に追究してみせた。その飛躍をプロデューサーとして支えた最大の功績者は、ギタリスト/シンガー/作曲家として自身もアルバムがある、カナダの若き鬼才ゴーディ・サンプソンだった。サンプソンは、アシュレイ・マックアイザック&メアリー・ジェーン・ラモンドの大ヒッ曲「スリーピー・マギー」の作者としても有名だ。
 こうしたキャリアを経て今回リリースされたのが、スタジオ録音盤としては4年ぶりとなる(昨年2枚組ライヴ・アルバム『Live』を発表)、通算8作目の『Blueprint』である。カントリー/ブルーグラス界の大御所フィドラー、ダロール・アンガーとナタリー本人が共同プロデュースしたこれは、ケープ・ブレトンの伝統音楽と、ケルト音楽を源泉にしてカントリー/ブルーグラスにまで至ったアメリカン・トラッド/ルーツ・ミュージックの融合をコンセプトにした作品で、ベラ・フレック、ジェリー・ダグラス、サム・ブッシュ、エドガー・メイヤー、ブライアン・サットン、アリソン・ブラウン等々、カントリー/ブルーグラス界の実力者たちが一堂に会した、まさにスーパー・セッションとも呼ぶべき内容となっている。『No Boundaries』から『In My Hands』へと、ケープ・ブレトンの伝統音楽を核に表現の幅を広げてきたナタリー・マクマスターの果敢にして柔軟な冒険精神を改めて確認させてくれる傑作だ。
文・MATSUYAMA Shinya
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