デビューアルバム『SACRE BLEU』の日本盤CDジャケットにスーパーロボットのイラストを使ったり、2003年リリースの最新アルバム『CRUSING ATTITUDE』では、水木一郎をフィーチャーして往年のアニソン名曲「ぼくらのマジンガーZ」をカヴァーしたりと、日本アニメへの愛情を隠さないディミトリ・フロム・パリ。
 フランスで大ヒットした日本アニメというと、思い出される一つが『UFOロボ グレンダイザー』。日本では『マジンガーZ』『グレートマジンガー』に続いて放映された作品だが、前の2作ほどのパワーはなく、評価はそんなに高くはない。だが、彼の地の子供たちにとっては、熱狂するに足る作品だったわけで、ディミトリ氏も『グレンダイザー』の洗礼を受けた一人だった。
 そんな彼が、日本のTVアニメの主題歌を初めて手がけることに。それが10月から放映が始まる『月詠』のOP「Neko Mimi Mode」なのだが、『月詠』のことは後でじっくりと聞くことにして、まずは、彼の日本アニメに対する思いから尋ねてみることにした。


「フランスで放映された最初の日本アニメが『グレンダイザー』だった。僕はその時12歳で、もう子供という歳じゃなかったけど、すぐに夢中になってしまった。ストーリーもグラフィックも、今まで見てきたヨーロッパのアニメとは全然違っていて、衝撃的だったんだ。一番の違いは感情表現だね。ヨーロッパやアメリカのアニメでは、登場人物は人生に葛藤しない。でも日本のアニメでは、実際に生きている人のように、苦しんだり悩んだりする。『なんだ、これは!』と思ったよ」

 DJという人種は、過去の作品に敬意を払い、それらをとことん掘り下げて、自分の身体に取り込んでいく。日本のアニメに興味を抱いたディミトリが、後々、熱心なファンになっていったのも、当然の流れだ。
 しかし、彼の好みは、たとえば永井豪が描くような、ロボットやセクシーな女の子が活躍する作品。どちらかと言うと、往年の名作!という感じの、クラシカルな雰囲気を持った日本アニメなのだ。それに比べて『月詠』は、アニメ史的に見れば新興勢力の、美少女モノの流れに入るであろう作品。ディミトリは、『月詠』をどう感じたのか?


「僕はスーパーロボットが好きだけど、美少女アニメというスタイルが、今の日本のアニメの王道の一つであるということは知っている。しかも、ディープなファンを得ている、とてもロマンティックなスタイルだ。そんな美少女アニメの主題歌を手がけられるということは、日本のアニメを愛する僕としては、とてもやりがいのある仕事だった」

 インタビューを、ディミトリは英語で答えているのだが、「ビショウジョ」だけは日本語のまま。向こうではよほどディープなアニメファンしか知らない「ビショウジョ」という日本語を、さらりと使うあたりに、彼の日本アニメに対する造詣の深さが感じられる。

「ヒロインの葉月はとてもキュートだから、サウンドも女の子らしい感じにしたよ。個人的には、もっとセクシーなキューティーハニーのような女の子が好きなんだけどね(笑)」

 そうして、葉月役・斎藤千和のヴォイスをフィーチャーして出来上がったのが、今回の「Neko Mimi Mode」なのだが、ディミトリ・フロム・パリの作品を聴いてきた人なら、日本人の女の子のヴォイスを使った曲ということと、このタイトルでピンと来るはず。
 そう、日本語による甘い恋のささやきをキラキラしたトラックに乗せた「Love Love Mode」(前述のデビューアルバム『SACRE BLEU』日本盤CDに収録)と同じコンセプトで作られたのが、今回の「Neko Mimi Mode」なのだ。
 斎藤千和が演じる葉月が、ふわふわとした幻惑的なトラックと共に、あなたをバンパイアの世界へと誘う、『月詠』ファンの心を大いにくすぐりそうな曲がここに誕生した。


「最初のオファーは、『Love Love Mode』のようなイメージの曲で、僕の自由に作ってほしいという話だったんだ。僕はいろいろと注文がつく仕事は引き受けないことにしているので、日本のアニメのオープニングをやれるというチャンスを、いい形で得ることができて嬉しいよ。この曲では、自分のやりたいように自由な表現ができたし、『月詠』の世界にもマッチした曲が作れたと思っている。僕はこの仕事をとても楽しんだよ。仕事としては、すごく変わっていたしね(笑)」

 実は、最初のデモトラックを作った時は、斎藤千和の声ではなかったという。

「最初にインスピレーションを与えてくれたのが、デモトラックの時の声だったので、千和の声を聴いた時は、曲の雰囲気を少し変えてみようと思った。千和は、天然の天使という感じの声だね。『Neko Mimi Mode』と『Tsuku Yomi Mode』では全然雰囲気が違って、幅広い声を出せる役者だと思うよ」

 元気で明るい「Neko Mimi Mode」とは逆に、バンパイアとしての習性を前面に出して、エロティックな雰囲気を醸し出しているのが、EDの「Tsuku Yomi Mode」。メロディは同じなのだが、声に合わせてアレンジを変え、こちらは、ゾクゾクする女性的な妖しさを醸し出している。

「どちらかというと、僕は『Tsuku Yomi Mode』の千和の声が好きかな(笑)」 と、ダンディに微笑むディミトリ氏である。

 では、最後に、彼からの、『月詠』ファンへのメッセージを紹介しよう。


「日本のTVアニメのOPを作れたのは、僕にとって本当に光栄なことなんだ。僕の音楽を、日本のアニメファンのみなさんに楽しんでもらえると嬉しい。そして、みなさんからの反応が欲しい。アニメの世界にとっては、僕は参入したばかりの新米だからね(笑)」

 ディミトリ・フロム・パリの新たな世界。じっくりと楽しんでいただきたい。


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