『36度5分』
2004.12.03 / アルバム / VICL-61517 / ¥3,045(税込)/ ¥2,900(税抜)
1.
カゲロウ
2.
駅ニテ
3.
アリジゴク
4.
負け犬の遠吠え
5.
マーメイド
6.
線香花火
7.
ワタシヲミツケテ
8.
人形ラプソディ
9.
ツギハギ
10.
あげるのに
11.
オルゴール
12.
うたかた
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荘野ジュリの歌声をはじめてきいたとき、ぼくは二十代後半の大人の女性を想像した。
すでにいくつか決定的な恋愛をして、男性のことをそれなりに理解している成熟した女性である。
だが、対談に指定されたバーにあらわれたのは、まだ少女のような雰囲気の人だった。まっすぐな黒髪とおおきくて力のある目。年齢をきいてみると、まだ二十一歳だという。
それでいて、たとえばこんな歌詞を書くのだ。
「ほら 昼間のワイドショーのね 無表情なレポーターになりたい誰かがそっと壊れていくのを あんなそばで感じられるから」(駅ニテ) 「さよなら いわないよ たとえ この腕をちぎられても 宝物じゃなくて いいよ 気まぐれで 抱いてください」(人形ラプソディ)
荘野ジュリの書く詞には、どこか深いあきらめがある。ぼくはそれが家族や恋人との実体験から生まれたものか知らない。だが、それはきっと経験というより、自分の心の領土を広く旅して見つけだしたものなのだろうと思う。創作というのは不思議なもので、無心になって書いているうちに、自分の未来を予見したりする。
ぼくは笑って話しながら、この人はこれからどんな恋をするのだろうかと考えていた。悲しく、厳しい恋愛。それを血のでるような言葉で、荘野ジュリは書き続けるのだろう。なにかをつくりながら生きるというのは、そういうことなのだ。
けれども、その熱をもった言葉を歌にのせるのは、独特のスモーキーで醒めた声なのである。悲しい血の言葉と冷たい水のような歌声。この温度差に彼女のすべての魅力があるとぼくは思う。
荘野ジュリはつぎの世代のリアルな歌をつくれる人だ。ぼくたちは今、その記念すべきデビューに立ち会っている。新しい才能にふれるのは、いつだって胸躍るものである。それが豊かな可能性をもった、うつくしい人ならなおさらのことだ。
ジュリさん、どこまでもすすんで、自分だけの歌の世界を広げてください。そうして、つぎの時代をみんなに見せてほしい。それこそがほんとうのアーティストの仕事なのだ。ぼくは期待しています。
石田衣良
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