なぜ、コミネリサの歌は僕らの心に届いてくるのか? 優しく包み込むふくよかな歌声と、長年の経験によって培われた高い表現力の持ち主だから……と言ってしまえば簡単だが、それ以上の何かがあるような気がして、本人に会えることを僕は心待ちにしていた。

 コミネリサは2004年、lisa名義で歌った「Will」でCDデビューした。これは『忘却の旋律』というアニメーションの主題歌として作られた楽曲。その後、アニメーション絡みのシングルを3枚リリース。それらシングル曲を全て含んだ14曲入りのアルバム「ニジイロノコトノハ」が、この度完成した。

 「今に至るまでの足跡みたいなアルバム」と、彼女は「ニジイロノコトノハ」を振り返る。「このアルバムには、表の顔の私と、内に秘めた私の両方が、入っています」
 表の顔とは、つまりはアニメーションのために作られた今までのシングル曲。そして内に秘めた自分とは、アルバムのために新たにレコーディングされた自作曲のことだ。
 「アニメーションの曲は壮大で美しいんですけど、その分、私という存在がどこか夢の中にいるみたいに感じられるんです。アルバムは、もうちょっと身近な私も知ってもらいたい、リスナーのみなさんのそばに寄りたいという思いで、自作曲を足していきました」

 届けられた「ニジイロノコトノハ」を一聴した時、そこに感じたのは奇妙な距離感だった。曲が変わるたびに、幻想的な世界と身近な日常を往還しているようなトリップ感が立ち上がってくる。彼岸と此岸が同時に存在しているような、不思議なアルバムだった。
 だが、その二つの世界は決して完全に分かたれてはいない。なぜなら、コミネリサの歌声があるから。彼女の優しい歌声は、僕がこのアルバムを聴いている部屋と、遙か高い星空の、その先に存在する別の世界を繋いでくれる、一本のラインのようだった。この歌声があるからこそ、僕は安心して日常と幻想を行き来することができる……。
 「アルバム全体の流れは、自分の心を外に解放して、そしてまた内なる世界に戻ってくるという感じかな。このアルバムに入っている〈コトノハ〉のどれか一つでも、聴いている人の心に届くものがあればいいなと思って歌いました。そして歌っている私も、現実に生きている人間なんだよということを、知ってもらえれば……」

 アルバム用の新曲のほとんどでは、彼女が自ら弾くピアノが静かに響く。それが息づかいに聞こえるくらい、「ニジイロノコトノハ」の中のコミネリサは、僕らの近くにいる。


アーティストパンフレットより


PROFILE
栃木県生まれ。小学生の頃からクラシックピアノを習い、高校では声楽を専攻する。その一方で、ジャズやポップスにも傾倒。作詞作曲を開始し、クラシックの譜面をなぞるよりも、自ら音楽を生み出すことにこそ、喜びを感じるようになっていく。
那須高原のホテルのロビーで、カバー曲や自作曲を弾き語りしていたところを、スカウトされデビュー。自らの世界を持ちながら、他の作り手による曲も「自分にはない世界を味わわせてくれるから、歌うのは大好き」と語る。「あなたの声はどんな薬よりも効く」と聴衆に絶賛されるほどの、深みのある声が最大の魅力。だが、本人いわく「一度ノドを潰したことで、偶然手に入れた声」なのだという。

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