「愛しき二人の娘へ」
池田洋子(57歳)三重県
このたび人生のフィナーレを迎えました。貴女たちのお陰で心安らかに終焉の幕を閉じることができました。ほんとうにありがとう。

人の命は現れては消えていく霧のようなもの。私も自然の一部に参加させてもらい、存分に生かさせて頂きました。
貴女たちの父、すなわち、夫と「海図なき航海」に出発したのは昭和四十年でした。
結婚という船に乗り移った瞬間から揺れました。夫は斗酒も辞さずの酒豪家で酒に翻弄された日々でした。年子で誕生した貴女たちまで怒濤の渦にまきこんでしまいました。
時化にあい幾たびも転覆しそうになり万策つき、あわや、というとき、機運に恵まれ断酒会に助けられ、夫は酒を断つことができました。
夫は生まれ変わったように思いやり深く円満な人になり、貴女たちの立派な父親になってくれました。夢のような明るい家庭になりました。夫は断酒と同時に生き方の路線変更を徐々に努め、それまで「命は自分のもの」という不遜な想いから脱却し、日々感謝の念が深まり、命は預かりものと感じるようになりました。
 私も借りた命ならばお返しの日まで、たとえ障害(幼児期に麻疹が因で右眼失明しています)があろうとも体を慈しみ、目、耳、体との折り合いをつけながら、体を存分に使わせて頂きました。幸せな暮らしのご恩のお礼に、毎月特別養護老人ホームでさせてもらうカット奉仕。美容の仕事をいかしながら、人との触れ合いを通して生き甲斐となり喜びが増えました。
趣味と仕事が渾然一体の私を、貴女たちは幼い頃からよく手伝ってくれました。私は家族皆に育ててもらったと感謝してます。
自立心の旺盛だった貴女たちとは心の行き違いもありましたが、絆は揺るぎなかったと確信してます。二人共、相思相愛の人と結ばれて仲睦まじい暮らしに嬉しさがこみ上げてきます。
平成十一年十一月、夫の還暦を貴女たち夫婦と孫らで祝ってくれて本当にありがとう。心のこもったもてなしに、夫は万感胸迫って声が涙でくもっていました。感激しました。
夫と縁があり、貴女たちを授かり、荒波をくぐりぬけ、穏やかな茫洋とした海原に導かれたのも天命の航路でした。海のような広い慈悲心を持つことがなかなかできなかった、至らないこんな私を、母と呼んで信頼し続けてくれてありがとう。充実した心で一杯です。
我人生を喜びと感謝の連続で過ごせたのは、誠実な夫と愛情深い貴女たちのお陰です。
いついかなるときも、心は貴女たちを懐に抱きしめ、黄泉の国からしっかりと見守り続けます。
満ち足りた日々をありがとう。

今の幸せは、人生の荒波から授かったもの。感謝の心が、素直に出ている人生最高のラブレターには、今の満ち足りた日々への感謝の言葉が散りばめられている。
プロデューサー/太田空真(生活デザイン研究所所長)
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