妻 公子へ
木村信司(49歳)愛知県
貴女が天国に行ってからちょうど一年が経過しました。もうそちらの暮らしには慣れましたか?
暑がり屋でまた寒がり屋の体質の貴女のために、日頃使っていた扇子と靴下カバーを持参してもらいましたが、活用していますか?友達づきあいが上手とは言えない貴女ですが、どうしていますか?独りぼっちではないですか?私、充則そして礼子がそばにいなくても、寂しくないですか?
貴女のお骨はこの一年間、家に置いてあります。私たち家族が急に寂しくならないようにというお寺さんの配慮なのですが、本当は貴女がそうならないようにという意味もあるかも知れません。新しく準備したお墓に、一周忌を迎える明日納骨します。

こちらの一年は高速並みの速度で過ぎて行きました。この時間は悲しみを減らすと共に、貴女との想い出を一枚一枚はがしていこうとします。それに対し私たちが必死に抵抗していた、そのような一年でした。
充則にはバレーボールと友があり、寂しさを感じる時間が減った事でしょう。礼子にも吹奏楽と友があり、大変良かったです。でも、充則には、貴女の遺体を最初に発見した時の想い出、そして、礼子には、貴女に叱られた時の想い出が、それぞれの心に強烈に刻まれています。一生忘れないでしょう。貴女は二人の心の中に永遠にいます。ご安心下さい。
亡くなる2ヵ月前、私たち二人で旅行に行った沖縄守礼門前での写真を拡大して、仏壇に飾りました。そこに写った貴女のやわらかく、やさしい笑顔が大好きです。その遺影を見ながら飲むお酒の量が増えました。そして亡くなった人についての良い事しか思い出さないのは、あまりに深い悲しみから逃れるための人間の本能だと実感した、そのような一年でもありました。

さてこれからも私は、充則と礼子を貴女に恥ずかしくないように育て、きちんと世の中に送り出さねばなりません。その前に二人の受験があり、更にその前に日々の切り盛りがあります。
私はこのように大変忙しいのです。貴女が寂しいからと言ってすぐにお迎えに来ないで下さい。私もいつかはそちらに行きます。私がおじいさんになっても、貴女は変わらないでしょうから、私はすぐに貴女を見つけられます。逆に貴女は私を見つけられるでしょうか?逢ったらお互いいつものように、「ありがとう。苦労様」と言いましょう。
貴女に逢うのが待ち遠しい。20年前初めて貴女と出会った時のようにどきどきします。逢ったら力一杯抱きしめたい。その力だけはしっかり残して、これからの人生を送っていきます。その時まで元気でいると固く固くて約束してください。
夫信夫より

先立たれた妻に出すラブレターは、夫婦の想い出と子どもたちの成長を報告する手紙ともいえます。感謝する人への手紙は、時間を超越して書くことができるのです。
プロデューサー/太田空真(生活デザイン研究所所長)
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