非常に面白いコラボレーションである。10月19日にリリースされる坂本真綾のシングル「Buddy」は新進気鋭の4人組バンド、School Food Punishmentの作曲&演奏。アレンジャーも彼ら自身の楽曲と同じく江口亮を起用し、まさに坂本がバンドに飛び込んでいくような形でレコーディングが行われた。仕上がったのは極彩色のサウンドがスリリングかつアグレッシヴに渦巻くアップ・ナンバー。大きな興奮とドラマを生み出しながら躍動感いっぱいに響かせるヴォーカルは、まさに15周年記念イヤーを駆け抜けた坂本真綾が辿り着いた新境地。特に、この春行われた全国ツアー『LIVE TOUR 2011“You can’t catch me”』でバンドとオーディエンスとの熱いコミュニケーションを交わし続けたその感覚が、この曲にダイレクトに生かされている。
「School Food Punishmentさんはトリッキーなサウンドやアレンジが以前からカッコいいバンドだなと思っていたんです。特に今回はアニメ『ラストエグザイルー銀翼のファムー』のOPとしてのお話をいただいた時に、スピード感があって激しい楽曲がいいなと思ったので、ぴったりだと感じて彼らにお願いしました。歌詞に関しては、アニメの脚本を全部読ませていただいた上で私が書いたもの。主人公たちは飛行機乗りで、2人でバディを組むんですが、楽曲そのものにスピード感があるので歌詞でも〈私が行くわ!〉と攻めるのはトゥーマッチな気がしたので、今回はまさに〈相棒〉の視点で書いています。私はこれまで、自分が目標に向かって進んでいく上で誰かに支えられていることが多かったので、この曲みたいに誰かのことを後ろで見ながら支えている、そういう視点は自分でも新鮮でした。前回のツアー中に書いたこともあって〈はばたくたび 気づかされる/二度と出会えない空があること〉という部分などに、その時の私の、強く挑んでいくような気持ちも入っています。歌入れの時もSchool Food Punishmentさんのバンド・サウンドにすっと入っていくことができました。聴くだけで無条件にスイッチがオンになるようなテンションの上がる曲に仕上がって、とても気に入っています」
 そして更に、というか“遂に!”な共作となったのが「Buddy」リリースの翌週である10月26日に発売となるシングル「おかえりなさい」。この曲は、彼女が敬愛する松任谷由実による書き下ろし。昨年、アニメ『たまゆら』のオープニングテーマとして「やさしさに包まれたなら」をカバーしたことも記憶に新しいが、今年の10月から放送開始となる新シリーズ『たまゆら〜hitotose〜』のオープニングテーマを制作する際に坂本が「やっぱり松任谷さんに書いていただきたいな、と思いきって!」オファーし、実現したものだという。「おかえりなさい」というテーマで描かれたこの曲は、ゆったりとしたメロディの中に、森の緑や、風の音や、日差しの温もりなどが鮮やかに伝わってくる美しい1曲。永遠の少女性を残しながらも、大人の女性としてのおおらかさや優しさを声に宿す、こちらも今の坂本真綾ならではの歌。そして幼い頃から数多くの様々な本を読み、物語を愛してきた彼女ならではの、ストーリーテラーとしての魅力をあらためて感じるナンバーでもある。
「制作するにあたって実際に松任谷さんにお会いしたんですけど、その時に今回はアニメの佐藤順一監督から〈おかえりなさい〉というテーマで歌詞を書いて欲しいというオーダーがあるということもお話させていただいて、松任谷さんにデモテープを作っていただきました。待っている間もすごく楽しみだったんですが、いただいたデモを初めて聴いた瞬間、他に言い表しようが無いほど〈これはいい曲だ!〉と思いました。そのぶん歌詞を書きだすまでは緊張したんですけど(苦笑)、『たまゆら』の主人公や過去の学生時代の自分なども重ねあわせながら、だけど懐古的になりすぎないように〈今がいつも一番輝いてる〉と歌っています。昔、思い描いていた未来は今、少し形は違うかも知れないけれど目の前にあって。忘れていくことや思い出せないことがあると寂しくもなるけど、何があってもとにかく今この瞬間が一番、自分の新しい世界なんだという、そんな気持ちを込めています」
 2週連続、2枚のシングルで新たな輝きを放ちながら、11月9日にはコンセプトアルバム『Driving in the silence』のリリースも!ラスマス・フェイバー&フリーダ、柴草玲、永野亮(APOGEE)ら作家陣と、「冬」をテーマに作り上げる1枚である。
「私がイメージする、暖炉の周りで家族と過ごすような静かなクリスマスや、冬の寒さと温かさを感じてもらえたらいいなと思っています。作家さんたちも初の顔合わせの方ばかりなんですけど、全体のサウンド・プロデュースを河野伸さんにお願いしているので統一感のあるお洒落な仕上がりになりそうです」
『イージーリスニング』(2001)、『30minutes night flight』(2007)に続く、めくるめくアナザー・ワールド『Driving in the silence』。その世界に触れる日が早くも待ち遠しい。
Text:上野三樹