坂本真綾
25周年スペシャルインタビュー

――25周年を迎えるにあたって、どんなアニバーサリーイヤーにしようと思っていましたか?

今回はそういうの全然なかったんですよ(笑)。20周年の時に、アルバム『FOLLOW ME UP』とトリビュート盤『REQUEST』のリリースだったり、さいたまスーパーアリーナ公演など結構がっつりやらせていただいたので。そこまでボリュームのあるものを色々やろうとはイメージしていなかったんです。今までリリースしてきたシングル・コレクションシリーズをそろそろ作るにはちょうどいいくらいに曲がたくさんたまっていたので。25周年だし、ちょうどいい時期だから出そうということになりました。

――今回リリースされる『シングルコレクション+アチコチ』、Disc1は2013年以降のシングル曲が並んでいます。「はじまりの海」から始まるアルバムというのも新鮮ですね。

Disc1は時系列で楽曲が並んでいるので、単純にこの8年の流れを感じてもらえるかと。だからこそマスタリングで並べて聴いた時に笑っちゃうというか。『はじまりの海』のあとに『Be mine!』とか、『ハロー、ハロー』の後に『逆光』とか、並びが変じゃないですか(笑)。でもそれがシンコレらしさだなと思いました。

――大ヒットゲーム「Fate / Grand Order」の主題歌「色彩」、「逆光」が収録されているのも特徴的です。

想像をはるかに超えるゲームの人気に驚いています(笑)。『色彩』も今では私の代表曲のひとつになりました。最初はたまにはこういう曲もスパイスになっていいかなと思ったんですけど。これをきっかけに聴いてくださる若い世代のファンの方も多くなったりすると、ひとつの私のカラーとしてこの8年の間にすっかり定着した感じがします。

――アニメのタイアップの歴史の中で生まれた曲もたくさん収録されています。真綾さんにとってあらためてアニメ作品に曲を書き下ろすことによる、音楽的な広がりはどういうものでしたか。

やっぱりアニメ作品のテーマソングとなると、物語の作風がのほほんとした日常系なのか、大冒険ファンタジー系なのか、色んな振り幅があって。その都度、その物語に寄り添う形で音楽を考えていくというのはただ単に坂本真綾として、私に似合う、私が好きな楽曲をずっと歌い続けるよりも、本当に多くの引き出しを無理矢理にでも開いてもらった感じがしています。自分が好きなサウンドや、自分が好きな歌詞の世界観って、もともとそんなに幅広いものではなかったと思うんですけど。音楽の可能性を模索するために良いチャレンジの場をいっぱい与えてもらったのがタイアップの良いところですね。もともと子役から始まったので、役者として何かの役を与えられて演じる、というのは馴染んでいたと思うので、音楽にもあんまり抵抗なくその時求められるものに染まりたいという気持ちもありました。だから『こんな曲もあって、こんな曲もあるの?!』というのは色んな作品の力で引き出してもらったカラフルな面だと思いますね。

――シングル集だと、よりそういう部分が色濃く出ますね。

だからこそ自分の中でいつの頃からか安心して染まれるようになったというか。シングルで求められることに応える喜びと、例えば最新アルバム『今日だけの音楽』のように自分のやりたいことを思う存分やらせてもらう喜び。両方をそれぞれに楽しめるようになって、良い意味で割り切れるようになったんですよね。いつも<こうでなきゃいけない>というような自分が思う自分らしいカラーに縛られなくて、どれも全部自分なんだって思えるようになってから、すごく楽しくなりました。もともと1枚目のシングルコレクション『ハチポチ』を出したときって、アニメのタイアップ曲と、坂本真綾のアルバムに入れたい曲が融合しなくて、アルバムはアルバムの世界観で浸りたいから、シングルはまとめて別で出そうみたいなところから始まっていて。その時は本当にそう思っていたし、今でも確かにそのふたつは全然違うものですけど、じゃあどっちが本当の私ですかと言われると『どっちも私です』と言えるようになったのは『ハチポチ』の時とは違うかなと思います。

――なるほど。そしてDisc2はまたレアトラックが並んでいますね。

これは曲順は考えましたね。それにしてもそれぞれかなり違うので、面白い流れにはなっちゃってますけど。もともと『cloud 9』とか『Tell me what the rain knows』といった菅野よう子さんとの2曲はすごく昔の曲で。『cloud 9』も人気のある曲なので前回のツアーでも歌って。その時に、ちょうど私の楽曲がサブスクで解禁されて、自分でセットリストの曲を聴こうと探してみたら『cloud 9』が入ってなくて。どこかの自分のアルバムに入ってると思い込んでたんですけど『ない!ない!』ってなって(笑)。データとして残ってた方が後々便利なので、じゃあ『アチコチ』に入れようと思い、この2曲を入れました。

――菅野さん名義のサントラとしてはリリースされていますが作ったのはいつぐらいですか?

2002~2003年にかけてだから遠い昔ですね。でも歌い直しとか全然してないんですよ。

――そうなんですね!こうして並べても、すごく自然に聴けちゃいますね。

それは良かったです。特に『cloud 9』は人気のある曲なのでみんな喜んでくれるかなと。

――そして最新曲としてこの春に配信された「クローバー」も収録されています。

世の中がコロナ禍で参っちゃってる時期に前向きで明るい曲が出せてよかったなと思いました。これも『アルテ』というアニメ作品への書き下ろしで、前向きで健気で可愛くて、裏の意味とか影のないストレートな曲がいいと監督やアニメのスタッフの方からのオーダーだったので、とにかく真っ直ぐに書きました。物語としては、まだ女性が働くなんてとんでもないという時代に画家を目指した女性が主人公。誰もまだ開いていないドアを開くようなエネルギッシュな女性が奮闘するお話で個人的には、すごく共感していて。もっとそのへんも出して行きたかったんですけど、そういうのはあんまりいらないということで(笑)。可愛い感じを意識しながら、自分でも誰もまだやったことないことに挑む時の難しさとか経験してきたことを2番以降にちょっと込めたいなと思ったりしながら作った曲です。ただ40歳になって最初のシングルにするには、ちょっと可愛い幼い感じがするので。まずは一旦、配信で聴いてもらって、こうして『アチコチ』で他の曲とまとめて聴いてもらおうと。すごく元気が出る曲なので、後半、『三日月』とか『卒業写真』、『これから』と切ない曲がたくさん入っている中で、すごくいい流れになって良かったです。

――そしてNegiccoさんに歌詞提供された「私へ」のセルフカバーも。未来への私へ、というテーマに込めた想いは、彼女たちが歌うことを想定することで書けた内容だったりするんですか。

そうなんです。これを書いた時は私が歌うとは全く思ってなかったので。ほんとにNegiccoさんのために書いて。Negiccoさんは、アイドルではありますけど、だんだん年齢的にもお姉さんになってきている時期で。男性から応援される可愛い妹分的な存在としても活動を続けているけど、同性のファンの子たちも多いから、そういう方が共感するような歌詞を書いてほしいと。Negiccoさんって爽やかな曲や楽しい曲が多くて、あんまりネガティヴなことを歌ってるイメージはないんですけど。あえて弱いところをチラッと見せて、あんなにキラキラしているNegiccoちゃんだけど近くに感じられるような曲になればなと。Nao☆ちゃんがすごく私のことを昔から好きでいてくれて、私にとってはそれこそ妹分的な年齢差がありますけど、私も彼女くらいの年齢の時に色々考えていて。将来の自分はどうなってるんだろう?と思い描いた時期があったので、過去の自分を今のNegiccoちゃんにも重ねつつ書きました。

――真綾さんが作詞・作曲した「これから」の存在感も光っています。

よく考えたら、『これから』はもうアルバムにも入ってるから別に入れなくても良かったような気がするんですけど。まあ、良い曲だから(笑)。河野さんの弦のアレンジもすごく良くて、何とも言えない、壮大まで行かないんだけど、すごく広がる曲に仕上げていただいて嬉しかったです。この時はタイアップがあって詞曲を書くのが初めてだったんですけど。『とにかく泣けるいい曲を書いてください』みたいなオーダーを言われて(笑)。そう言われると書けない!とか思いながら、でも一周まわって素直に詞と曲がいっぺんに自然にできた曲です。特にこの時は、20周年と重なって自分の20周年のテーマ曲みたいなつもりもあって書いたので。あらためて5年が経って聴くとまたちょっと違う感じがして、よかったです。

――そんなDisc2をまとめて聴いてご自身ではいかがですか。

すごく面白いと思います。『おぉーう!』とか『あはは!』とか言いながら聴いてました(笑)。やっぱりコーネリアスさんの世界観は好きでしたし、『三日月』のカバーも個人的に思い入れの深い曲で、吉田美和さんが作られたミステリアスな雰囲気の曲。「アチコチ」に収録されることで更にみなさんに聴いてもらえたらいいなと思いますね。今回のシングルコレクションを作るにあたって聴きながら色々と思い返していたんですが、果敢に色んな人とコラボレーションして面白かったなと思いました。色んな出会いを貪欲に欲してきて、もちろんその都度、それなりに反省点だったり自分なりに色々と思うところはあるんですけど。それは置いておいて、『よく頑張った、8年』と思いますね。

――そして、どうですか25周年という年月を振り返って。

ふふっ、ほんとに振り返るのはもうたくさんです(笑)。5年刻みで振り返らされるのはもう嫌だ!

――あはははは、そう言わずに(笑)。でも、あっという間ですもんね。

そう、年々時の流れは早く感じるから。35歳から40歳なんて、何もしてないのに5年経ったくらいの感じがありますけど。でも続ければ続けるほど、やっぱり過去に『これはもうやったな』ってことは増えていくし。やっぱり25年って普通に考えて流行りも文化も何もかもが変わる時間なので、聴かれる音楽も時代を経て何度も変わったと思います。でもさっき、このシングルコレクションに『cloud 9』が入っててもあんまり違和感がないと言っていただきましたけど、この25年、どの時代をピックアップしても時代の変化はあまり感じないくらいずっと自分の中にあるらしさみたいなものを出し続けていられるのはありがたいなことだなと思います。

――どんな時代においても坂本真綾らしさを大切に音楽を続けてこれたのはどうしてだと思いますか。それぞれの時代における音楽の聴かれ方や、それこそアニメ主題歌のトレンドも変わっていく中で活動されてこられたと思うんですけど。

いやぁ……25周年まではこれで何とかなってきて、これから先どうなるのかってわからないですけどね。時代が高速で変わる中で、若い人が見る作品に曲を書いていけるのか付いて行けるのかというのは努力次第という感じもします。ただ、自分が死んだ後に『昔こんな良い曲を歌ってた人がいたんだ』と思ってもらえるような、時代を選ばない普遍的なことを歌っていたいという想いは実は結構若い時からあって。歌詞に今っぽいワードを入れないというのはずっと気をつけてきました。私が死んだ後に、どこかでたまたま聴いている人がどんな時代でもシンパシーを感じてくれるようなものでありたいというイメージがあるんです。

――時代を越える普遍的な歌を歌いたいという意識が10代の時からあった。

母親の影響とかで自分が生まれる前のすごく好きな曲がたくさんあったので、そういうのがカッコいいなと思っていたんです。それと同時に私は小室世代で青春を過ごしてきたし、それも好きで聴いていたんですけど。でも別に私はヘソを出して踊りたいわけじゃないみたいな、若いのにトレンドの流れには乗り切れない自分がいて。流行とは違うところに、好きなものがあったりするというのはずっと感じていました。みんなは今あっちの方がいいみたいだけど私はこっちの方が好きというのをほそぼそと大事にしていたイメージなんです、10代の時とかは特に。だから言葉のチョイスとかも、後で聴いて古く感じないようにしたいと思いながら書いていました。

――そうして25年、その時々の等身大でありながら、普遍的な作品を生み出し続けてきたんですね。

その時でしかない感覚で書くべきだと思うし、もちろん今の若い人たちの曲とか聴くとなるほど、とか思ったり、流行していて好きなものもいっぱいあるし全然否定するつもりはないんですけど。なんていうか、どっちかって言うと、音楽って偶然に出会うものだと思っていて。パッとラジオで聴こえてきたり、どこに住んでいてもどの時代でも、聴こえてきた時に誰かが聴いてくれて初めて存在するものだから、もちろん、今聴いてくれたら嬉しいですけど。それよりも長く長く、私という存在を誰もが忘れてもその音楽がいつかどこかの誰かの耳に届くというロマンはすごく考える。だからこそ誰もが生まれて死ぬまでに1回は通るような普遍的なことを歌っていたら誰かが共感してくれることもあるかなと思いますね。

――海にメッセージボトルを投げるようなイメージですかね。

そうですね。昔の曲を聴いていても、どんな時代の人もみんな同じようなことを考えていたんだなとか。昔の人が歌っていることに今の私がすごい励まされてるとか、あるじゃないですか。それができるってすごい面白いなと思うし、そのようにありたいですね。

――コロナ禍で世の中的にはライブもなかなかできない状況が続いていますが、最後にファンの方にメッセージをお願いします。

私自身もこの春は色々と考えることも多い時間でした。世の中で芸術を求める人は決していなくならないとは思いますが、ちょっとこの状況は想像していなかったですね。これを乗り越えた時は、今まで以上にありがたくステージに立てるだろうなと思います。皆さんはとにかく元気でいてください。元気でいればまた一緒に音楽を楽しめる日が必ず来るので。ひとりひとりが自分を大事に生きてくださいっていうこと以外にないですね。今回あらためて、ライブもお芝居もオンラインでもできることがわかって、それはすごく良いことだと思うんです。でも、会えなくても楽しめるけど、会った方がもっと楽しいっていうのは再確認できたんじゃないかな。会えた時の空気の振動を一緒に味わうことの特別さを、落ち着いた時にはまた味わいに来てほしい。どんなにリモート配信が当たり前になっても、それに慣れすぎずに、実際に体験しに来て欲しいと思います。先々のことを考えても仕方ないので、みんな引き続きよく手洗いをして、このシングルコレクションを聴いてくださいね。

Text : 上野 三樹