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 2010年3月31日、坂本真綾が30歳を迎えた誕生日にデビュー15周年を記念して、日本武道館で一夜限りのスペシャル・ライブを行った。この日の模様が全24曲、完全収録されたBD/DVD『坂本真綾 15周年記念ライブ“Gift”at 日本武道館』が8月11日にリリースされる。約1万3千人のファンに360度をぐるりと取り囲まれたステージで、ハートウォームかつダイナミックな展開で魅了した今回のステージ。まずは、誕生日に武道館でライブをするというアイデアにはどんな経緯があったのかを訊いてみた。

 「前回の『WE ARE KAZEYOMI!』ツアーの打ち上げの席で“もっとライブがやりたくなっちゃったな。次はいつぐらいにやれるのかな?”なんて話をスタッフにしていて。そしたら、たぶん私がそんな風に言い出すだろうと踏んで調べてくれていたらしく(笑)、“実は3月31日の誕生日に日本武道館が空いてるみたいです”って言われて。私自身、ライブへの気持ちが高まっているうちに次の目標を定めたいというのもあって、その時に“やります!”って、もう決めちゃったんです」

 2009年の1月、国際フォーラムでの公演を終えて、すぐに武道館公演へと向けて動き出していた。そんな今回のライブを作って行くにあたって、彼女がスタッフにお願いしたひとつのイメージに〈サーカスのテント小屋〉というキーワードがあったという。電球のような照明を使った雰囲気のある光づくりや、一夜限りのパーティを演出するゴージャスな衣装などでも楽しませてくれた。
「サーカス小屋って、いつもは何もないところに突然現れるじゃないですか。すごく華やかで楽しかったのに次の日にはもう幻だったみたいに、その場所には何も無くなっちゃったりして。だから今回のライブも普通の毎日の中にひょっこり現れたサーカス小屋みたいにしたくて。私もお客さんたちも、ライブが終わればまたいつもと同じ風景の中に戻るわけだけど、非日常的な空間を体験した後で、自分の日常をまた生きていく力になるような、そんなライブにしたかったんです」

 前半〜中盤にかけて、何よりの観どころはCDデビューから15年の軌跡を一気に辿るような選曲と、しっかり歌に向き合い、見事なクオリティで1曲1曲を届けていく姿。彼女のとびきりの魅力である「声」が伸びやかで美しい旋律となって、まさに360度の全方位に広がっていく。何とも気持ちいい体験であった。
「今の私に出来ることは、やっぱりちゃんと歌うことだと思ったんです。今回は特に15年ぶんの、昔の曲もやる内容でしたし。長年、私の曲を聴いてくれているけれどライブは初めて観るという人もいっぱいいる。ただ“懐かしいでしょ?”って感じで届けるのではなく、昔の曲も今の私が歌うとこうなるっていうのをちゃんと聴いてもらいたいと思いました。自分自身が落ち着くためにも、まずは丁寧に歌うということに集中しようと、特に前半は意識的にしていたと思います」

 中でも「Feel Myself」と「ヘミソフィア」では、当時はまだ理解できなかった想いも全部乗せて、今の自分自身の成長を感じながら歌えたという。そして後半における、サプライズに次ぐサプライズで畳みかけるような展開で、坂本真綾はあの大きな空間を完全に自分のものにしていった。ゲストに菅野よう子を迎えてのメドレー・コーナーや、鈴木祥子によるドラムを交えての「風待ちジェット」と「マジックナンバー」。更には「Get No Satisfaction!」のイントロで懸命にギターをかき鳴らして初披露した姿に、心打たれたファンも多いことだろう。
「コードがひとつしかないから弾けるんじゃないかと思ったんですが、あんなに難しいと思いませんでした(笑)。本番でちゃんと弾けてたか?って言ったら全然まだまだなんですけど。でもリハーサルの時よりも奇跡的に上手く弾けたことが嬉しくて。私は性格的にも〈無理かもしれない〉って思うようなことをハードルにしてがんばるのが向いてるんだと思うんですよね。ピアノやギターに限らず、この15年、ずっとそうだった気がします」

 彼女にとって、この挑戦がどれほどの賭けだったかは今作のメイキング映像「坂本真綾 ギタリストへの道!! 〜Get No Satisfaction!〜な日々」にバッチリ収められているので、そちらも合わせてお楽しみいただきたい。そしてアンコールでは、この15年の歩みを総括するような「everywhere」をピアノで弾き語ると、何ともいえない温かな空気が会場を包み込んだ。それは日本武道館が、坂本真綾にとっての、そしてみんなにとっての、まるで“ふるさと”のような思い出深い場所になった瞬間だった。彼女はこの日のことを、あらためてこう振り返る。

 「360度を客席に囲まれたステージでやっていると、ほんとにお客さんと一緒にライブをやってるんだなって感じられたことが良かったですね。それぞれの曲にそれぞれの思い出を持った人たちがいっぱい集まって来てくれて。私を見ようとすると、その向こうにいるお客さんも見える。そんなお客さん同士が向き合うような空間になったことがいいなって。それに、みんな日常で不安や不満を抱えていたりもするけど、やっぱりすごく自分のことが大事だし、もっと好きになりたいから音楽を聴いたり本を読んだり映画を観たりしてがんばってるんだなって思うんです。自分の作品もそんな風に聴いてもらえているなら素敵なことだなと思うし、そんな風に生きてる人たちの集まりなんだと思うと、すごく嬉しかったです。ほんとに一生思い出せる記念の一日になりました」

 彼女自身も「武道館でも変わらずに自分の思うスタイルでライブがやれた」と語る通り、最後まで、初めての日本武道館でのワンマン・ライブとは思えないほど堂々たる佇まいでのエンターテイナーぶりだったということと、そして、ここに生まれた素晴らしい祝福の空気を映像から感じてもらいたい。更にMCでは、15年間の歌への想いもたっぷりと。歌い続けてきた理由と、そしてこれからも歌い続けて行く意志を、ひとつひとつの言葉を噛みしめるようにしてファンに届けてくれている。今作には、坂本真綾の15年分の、夢と、愛と、感謝の気持ちがめいっぱいに満ちた極上の時間が刻まれている。

Text:上野三樹

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