第8回 GUEST:
  父
突然ですが今度のゲストは私のお父さんが登場します。
私の父は、年齢より10は若く見え、真面目で几帳面。掃除と洗濯は自ら進んでやってくれます。料理も(得意かどうかは別として)好きみたいで、手作りの「イカの塩辛」が自慢の一品。
仕事に対する情熱と家族への愛は大きい人です。私が夜中までレコーディングなどしていると、たとえ何時だろうとスタジオまで車で迎えに来てくれます。仕事の関係で地方や海外に出張も多いのに、どこへ行っても必ず毎晩母に電話を入れます。
ビールは毎日飲む。私と同じく格闘技が大好きで、口癖は「あと10センチ背が高かったらオレはプロレスラーになっていた」。声がでかい。歌はうまい。口笛もうまい。ギター少々。母の料理に対する感想は心から美味しいと言うけれど、ボキャブラリーが「うまい」「香ばしい」のどっちかしかない。結婚記念日と母の誕生日には毎年必ず花束を買って帰ってくる。
このコーナーもいよいよ8人目。色んなジャンルの人たちに協力して頂いたけど、ここらでいきなり「父」とか出てきたら意外性があっておもろいんじゃないのー?なんて、面白半分に原稿を依頼してみたのですが、結果は他の誰でもない、この私にとって「意外」な意味をもたらすゲストとなったのでした。ま、ちょいと読んでみておくれ。

(illustrated by maaya.)
回答者:  父  
1)坂本真綾の第一印象は?
仕事先のマレーシア、クアランプールで女の子誕生の知らせを受けて飛び上がった。数日後の母からの便りには、“マイクのりの良い産声だった”だって。しかし、今から思うと母親の勘はすごい。だって普通こんな便り書く?
それからクアランプールの空の下、考えに考えた名前を胸に帰国。
御対面「おっ、この顔にぴったりだ」以来あなたは真綾と呼ばれている。!!??。

2)坂本真綾は、父親似?それとも母親似?
仲間は「おやじに似なくてよかったね」、なんて言う。子供のころは確かに母親そっくりだと思ったけれど、ここのところ『わし』にも似てきたなって、ふと思うこともある。これって可哀相なのかな?本人はどう思っているんだろう。答えはいりません。

3)父親のあなたが知っている坂本真綾伝説は?
あなたが生まれた頃は夫婦ともに仕事を持っていましたから、私も家事や子守をやってました。抱きかかえているとすぐスヤスヤと寝息をたてるものだから、フリーになろうと布団に寝かせて、側を離れようとすると泣き出しました。これは睡眠が浅かったのかもと思って、腕の中で充分寝込ませて、ぐっすり眠ったのを見計らったはずなのに・・・やっぱりダメでした。何度やっても私が離れる瞬間に泣き出しました。あなたとの戦いに負けた私の家事当番の日は、あなたを一日中おんぶするか、抱きかかえて過ごすことになりました。私は泣いているあなたを放っておけなくて・・・。あれ以来あなたにはいつも勝てない。

4)娘のセールスポイント
定めた目標に向かって足もとを見つめながら黙々と努力して、確実な進歩を積み重ねていく君の姿かな。

5)実は、娘にまだ言っていない事はありますか?
何も無いと思う。秘密くらい持たないといけないね。

6)これだけはやめて欲しいと思うことは?
出がけに忘れ物をしたとき、靴を履いたまま自分の部屋まで戻らないでください。つま先立ちでチョコチョコ歩きでも、「ワァー」とか奇声をあげながらでも、ダメ。

7)坂本真綾を○○に例えると?
光に例えると。無色透明の光で地球を見つめる太陽光。
分析するとあらゆる光を含んでいるんだよ。

8)娘の結婚相手に望むことは?
大切にして欲しい。

9)今後の坂本真綾に期待することは?
新しい自分の発見。

10)最後に、本人にひとことお願いします。
あなたほどスバラシイ出会いに恵まれた人は少ないだろう。感謝の心を失わず謙虚に、思う道をゆっくり、のんびり、歩んでいって欲しい。



「やーだー、ちょっと誉め過ぎじゃん?!」って言ったら「誉めたつもりはない」と言われた。ははは、また照れちゃって!なんて思いながらもう一度読み返してみると、あれ?別にちゃんと誉められている箇所はそれほど無いじゃないか。でもなぜか誉められてる気分になるんだけどな。とにかく、私の予想ではきっと父は恥ずかしがってわざと真面目に答えてくれないんじゃないかと思ったんだけど、3日かけて、買ったばかりのノートパソコンと戦いながら大変一生懸命原稿を書いてくれました。
娘というのは、たぶん多くの人が経験したと思いますけど、10代半ばころに父親に対して少なからず、意味もない嫌悪感を抱いたりするものです。私もそういう時期はありました。でも、そんなものはいずれ過ぎ去ってしまいます。今、自分が社会人1年目になってみて改めて思うのは、いかに父が(もちろん母も一緒にですけど)私たち家族を守ってきてくれたかということ。今年結婚した兄も、「ここまでオレを育ててくれた両親に感謝してる」と言ってました。父は母のこともとても大事にしていて、2人そろってよくドライブや映画、観劇などに行くので、それを見ていると嬉しくなります。
ちなみに、途中私のことを「光」に例えてくれましたが、これは父の仕事が舞台照明家なもので、そういった意味で書いてくれたものだと思います。

今回原稿を依頼してみて、父のストレートなことばを初めて文字として見てしまって、おかげで父の新たな面も知ったような気がします。中でも私が一番嬉しかったのは8番目の質問に対する答えで、これは私の予想とは全く違うものだったのですが、でもこれ以上ないひとことだと思うし、同時になんだか色んな思いがこもっているように感じられたのでした。
というわけで、これまでこのコーナーに登場してくれた人々の中で最も付き合いの長い人物のコメントだったわけですが、いつもとはまた違った私の一面など、見えたかな?どーかな?