チェロは人間の声にもっとも近いといわれる楽器。哀感に満ちた音色を得意とするチェリストもいれば、陽気な歌を奏でるチェリストいる。それらは演奏家の人間性を表している。チョウ・チンはスケールの大きなおおらかな演奏をする人。向上心あふれる彼女は北京、東京、ベルリンと勉強の場を移すごとに飛躍的な成長を遂げ、演奏も味わい深くなった。深くまろやかで大地にしっかりと足を着けたチェロの響きは、まさに彼女が大陸育ちだということを示している。その土地の言語をすぐに覚えてしまう前向きな性格は音楽にも現れ、聴き手を元気にさせてくれる。21世紀のチェロ界を担う逸材は、大舞台ほど燃えるという。根性のある未来の大器である。 文・伊熊よし子