KISS
VICL-39004 / ¥1,260(税込) / 2001.7.18
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01. KISS ダウンロード購入
02. ツキノシズク (unforgettable drops)
03. KISS (Frankie Feliciano's Radio Mix)
04. KISS (Kissapella)



時間がゆっくりと流れ、音楽が体温と同じぬくもりで聴く者を包み込む。paris matchの4thシングル「KISS」(aosis records)は豊穣な音に満ちている。5分にも満たない音の経過から溢れる物語と空気が纏う“匂い”... ミズノマリの歌声は、情景を喚起させる力で軽やかに私たちをparis matchの世界に導く。もちろん、彼らの世界を形作るものは、ミズノの声だけではない。かつて見た風景としての恋愛をポピュラリティを湛えた物語に昇華させる古澤大の歌詞、リスナーのツボを心得たアレンジとヘヴィ・リスナーならではの多様な音楽性をサウンドに反映させる杉山洋介、この3人が同じ場を共有することではじめてparis matchの音楽は形を現す。

クラブ・カルチャーがスタイル以前の雑多な熱量を孕んでいた90年代半ば、古澤と杉山の出会いからparis matchの歴史はスタートする。パーティなどで顔を合わせ、お互いの音楽性に共感を覚えた二人は、女性ヴォーカルをフィーチャーするユニットを結成するという構想を抱きはじめる。そこにラジオ・パーソナリティとして活躍していたミズノが加わり現在の布陣が完成する。音楽とスタイルが分かち難く結びついていた90年代のクラブ・カルチャーの結晶が生み落とされた瞬間。そして、そのユニットには、スタイル・カウンシルのファースト『カフェ・ブリュ』に収められた楽曲から「paris match」という名が冠せられる。これまで、1枚のアルバムと3枚のマキシで描いてきた彼らの世界ではファッションが音楽と呼応し、ひとつのオリジナリティを表出していた。マニアックなリスナー層に対する音楽的な“仕掛け”と歌うことのの“センシティヴィティ”が交錯する微かなバランスの上にそれは成り立っているのかもしれない。ミドル・テンポのバック・ビートがふくよかに流れるホーンと絡み合い、ミズノの囁くような歌声が恋愛における昂揚と甘い痛みに色彩を与える「KISS」は、上記のようなparis matchの資質が如実に表れた楽曲だと思う。また、エレピの刻みがグルーヴと融解し、ジャズやファンクのイディオムを援用するカップリングの「ツキノシズク(unforgettable drops)」も併せ、マキシという限られたフォーマットに詰め込まれた彼らならではの“遊び心”がそこには存在している。

4thシングル「KISS」を含むparis matchの2枚目のアルバムが2001年8月1日に発売される。幕開けを飾るのは、彼らの個性を不動のものとした2枚目のマキシ「DESERT MOON」。フルートなどを効果的に用い、清澄な空気感を表現した楽曲はparis matchの確固たる世界を表出している。アルバムの2曲目は、「KISS」......シングル・カットされた楽曲を前半に配置しリスナーの耳を惹きつけながら、アルバム全体としてのダイナミズムを獲得する手法。ボサ・ノヴァがジャズ的な展開にいたる「FEEL LIKE MAKIN' LOVE」やホーンとウォーキングするベース・ラインの絡みが心地よい「FM」など彼らの本領とでも言うべき多彩な音楽性を伺わせる楽曲群は、コンセプトというよりもparis matchという独立した“個”の強度に多くを担っている事実を聴く者に提示する。ミュゼットとしての「きみといっしょに」でアルバム全10曲が終わりを告げるとき、耳を傾ける者は、paris matchという物語の陰影を呼吸していたことに気が付くのかしれない。

ただ、音や言葉、ヴィジュアル表現も含め、私たちが垣間見たものは彼らの一端にすぎない。だからこそ、次にどのような音を私たちの届けてくれるのか、paris matchという“個”に対する興味はつきない。