心の葛藤を打ち砕く衝撃作、Reol最新章について聞く

昨年末に解散、世界水準のセンスで日本独自のポップカルチャーを体現してみせた3人組ユニットREOL。中心メンバーであるReol(※頭文字大文字、その他小文字表記へ)はソロ・アーティスト名義となり、シンガー・ソングライターとして再起動を表明。すでにネット界隈では、動画共有サイト総再生回数が2億5千万再生を超える、彼女の次なるアクションに注目が集まっていた。
レーベル移籍後、3月14日(水)にリリースされる最新ミニ・アルバムのタイトルは『虚構集』。よりエゴイスティックに自己と向き合った作品だ。ネットネイティヴ世代は、インターネット空間という“リアルとバーチャル”、“フィクションとノンフィクション”の狭間をたゆたい、自分ではない誰かを演じることを意識せざるをえない時代。そんな誰しもの心を揺さぶる葛藤から生まれた5曲の色濃いポップミュージックたち。
より開かれた世界へ向けて、リード曲「エンド」、「あ可よろし」ではサウンド・プロデューサーにミト(クラムボン)を迎え、CONNECTONE(※RHYMESTER、ぼくのりりっくのぼうよみ、SANABAGUN.、Awesome City Club などが所属するビクター内の音楽レーベル)という気鋭のスタッフワークを得たReol最新章が“いま”はじまろうとしている。
――Twitterに書かれてましたが、昨日はParamoreのライブに行かれてたんですね。
Reol
Paramoreはずっと好きで。ヘイリー(ウィリアムス)かっこいいみたいな。憧れですよね。
――あんな人いなかったですもんね。
Reol
そうなんですよ。変わらずにヘドバンして歌っていて、全然バテないっていう……。もう本当にすごかったです。
――Reolさん、聴いてる音楽も幅広そうな印象がありますね。
Reol
あんまりジャンルに捕らわれて聴かないというか。元々の原体験がピアノなんです。4歳の時にピアノをはじめて、小学校の時から金管バンドに入って、クラシックというかそっちの流れにいきました。中学校でも吹奏楽をやっていて、ずっとクラシックばかり聴いてたんですよ。(セルゲイ)ラフマニノフとか。そういうのをずっと聴いてて、特に『のだめカンタービレ』が中学の時って流行って。それで交響曲とかを好きで聴いてました。
――部活もある意味、体育会系みたいな文化系でした?
Reol
そうですね。土日も休みなしでがっつりやって。自分は小学校からやってたので中学からの人よりちょっとトランペットが吹けたんです。後輩のお尻を叩きながらみたいな感じでやっていたんですけど、ただ中学の部活はあまり強くなかったんです。それでも金賞とるために頑張って。結果、私たちが3年生のときにやっと金賞とれたんですよ。だけど、そこに連れていくのに疲れすぎて、高校ではもう同じことをやりたくないと思って。全然違う音楽をやりたいなって、バンドをはじめたんです。
――そうなんですね。それは、音楽との向き合い方としても様々な歴史がありますね。
Reol
でも私、弦楽器が弾きたかったのに……、っていうか竿楽器が弾きたかったのにヴォーカルにされちゃって。でも、歌ってみたら、わりと周りの反響がよかったというか。それで「ヴォーカル楽しいな」と思って、そこから歌をって感じですね。
――バンド活動で、その後手応えは生まれたんですか?
Reol
進学校だったんです。みんな音楽を仕事にする気はなく、趣味として割り切ってやってるのが空気感からも伝わってきて。なかなか現実的じゃないなと思っていたところで、ネットだったらひとりで活動できるって気がついて。それで、宅録を覚えてどんどん自分でも作るようになって。
――そこから、まずは歌い手としての“れをる”(※Reol、初期の表記)誕生となったのですね。まずお聞きしたいのが、ユニットREOLとシンガー・ソングライターReolでの違いなのですが、自分の中ではどんな違いを感じられていますか?
Reol
自分の音楽を体現することを目標にしたいのですが、ユニットでやっていると、それ以上に自分がギガ(サウンドクリエイター)にとっての専用のシンガーでなければという意識も強くあって。いわゆる歌姫というか、アイコンになろうとしていたんですね。ギガとお菊(映像クリエイター)のことを多くの人に覚えてもらいたいから。まずは私が前に出ることで知ってもらって、そこから2人を知ってもらえればっていう気持ちでやっていたところがあって。
――ネット上で、Reolさんが先行して圧倒的知名度がありましたからね。
Reol
音楽的な意味より、広告的な面、コンセプトをいかに伝えるかという意味が強い活動だったのかもしれません。発展的解散っていうのを受けて、ソロではクリエイティヴ面でひとり立ちしたかったんです。もっと自分の音楽を肯定したいと思ったときに、作詞作曲を自分でやりたかった。自分で作ったメロディーを自分で作った歌詞で。そんな作品を作りたいという話をCONNECTONEのスタッフとはして。
――あらためてスタートって感じなんですか?
Reol
どうなんですかね、けっこう別のセカイに来たみたいな気持ちなんですよ。ユニットのときは、やっぱりユニットで世界的になる自分を妄想していたし。それができなかったのは、もちろん残念ではあるんですけど。そこで一度リセットして、またひとりのシンガー・ソングライターとしてっていう。セカイを移ってきたみたいな気持ちですね、今は。
――そうなんですね。僕の去年のベスト曲が3人組ユニット時代の、ライブでも披露されていた「ニュータイプトーキョー」なんですよ。世界の音楽シーンの最前線のサウンドとリンクするところもありつつ、あんな個性ある言い回しで東京を表現されていて「なんてかっこいいんだろう!」と思いましたね。
Reol
ありがとうございます。とても嬉しいです。
――今回、新たなステップとしては、編曲を手がけるサウンド・プロデューサーとして、クラムボンのミトさんが参加されたことに注目したいです。どんな経緯で?
Reol
ソロなので、より自由に編曲をお迎えしたいってなったときに、それこそギガより水準が低いひとに頼んでは意味がないと思ったんですよ。
――今回「平面鏡」、「カルト」ではギガさんも参加されてますもんね。
Reol
そうなんです。ミトさんに頼んだのは、自分が2015年頃にすごいJ-POPを聴いていた時期があって。そのときの私のベストが大森靖子さんの『TOKYO BLACK HOLE』でした。あの盤がすごくよくて。リードトラックを作ってらっしゃるのがミトさんだったんです。そんな話をディレクターの山口一樹さん(※椎名林檎、RADWIMPS、ぼくのりりっくのぼうよみなども手がけるヒットメーカー)にして。山口さんも「僕もミトさんと仕事してみたいんだよね」っていう話になって。
――Reolさんの場合、楽曲の作り方、いわゆる元となるデモってどうやって作ってるんですか?
Reol
もう完全に打ち込みですけど、サウンドを詰めるっていう作業よりは、旋律楽器をずっとやってきたこともあって旋律重視なんです。ピアノからトランペットへ流れがあって、それでヴォーカルへっていう。歌謡曲が1番好きだし、旋律が1番大事だと思っています。なので、旋律を1番最初に作って、そのあとにベースとドラムのリズム隊をいれて補完して。その後にギターやピアノを足していくっていう。「エンド」に関しては、それに加えてプログラミングとか上物をほとんど乗せた状態でミトさんにお渡しして。とにかくもう生楽器をブラッシュアップしてください、という要望を伝えましたね。
――完成系イメージを明確に持ちつつ、より完成度を高めていくという方法だったのですね。ディレクターの山口さんも面白い方だと思いますが、今回一緒にやられてみていかがでした?
Reol
褒め上手ですね。
――ははは(笑)。
Reol
それって1番大事だと思っていて。やっぱり作った音楽をデモの粗削りな状態であっても「めちゃくちゃいいね!」とか「歌詞がやばいよ!」みたいなことを、鋭い視点から言ってくださるんですね。歌レコ―ディングの時も褒めてくれて。気持ちよくなるから「ジャンジャン歌いますよ!」ってなっちゃうから、さすがだなって思いました(笑)。
――うんうん。ミトさんとのレコーディングはいかがでした?
Reol
レコーディング前に打ち合わせして、けっこう10回くらいお会いしながら完成へと至りました。
――そういえば、見た目の話ですがReolさんもミトさんもなんとなくアンドロイド(※マニアックにいうとファティマっぽい)ぽい感じが……。
Reol
ははは(笑)。そうですね、ミトさんちょっとアンドロイドっぽいかも。でも、すっごいお優しくて。編曲家って社交性ってすごく大事だと思うんですよ。そこは作曲者の意図を汲んでくれるのが、すごい上手いなっていう。ここで私がこうしたいなって思ってる通りのベースラインに仕上げてくださったり、ここで勢いをだすとか。そんなところがすごい上手な方でした。アナリーゼ(楽曲分析)が明快というか。
――今回、MVも作られたリード曲「エンド」は、ソロ活動スタートながらもまず“エンド”というタイトルからはじまることにインパクトを感じました。これはどんな意図があったんですか?
Reol
ユニット時代からの流れを意識していて。最後の作品を『エンドレスe.p』と名前を付けたのは私なんですけど、自分たちの作ったものが永遠に続いてほしいっていう意味もこめつつ、そこからの流れで「エンド」っていうタイトルをとりあえず仮で持ってたんですね。
――それはまたなぜ?
Reol
REOLを解散した直後くらいは、けっこう地獄だなっていう気持ちで……。この先大丈夫なのかな本当にみたいに、不安しかなくて。きっと二人もそうだと思うんですけど。私は、こうやって語らせてもらう場所があるけど、二人はなにも言わないけど、実際同じことを感じているはずなので。そのなかで前には進んでいかなければならないから、自分を奮い起こすために書いた曲ですね。
――歌詞を歌を聴いていて、歌詞に出てくる“君”は、ある種自分でもあるのかなって思ったんですけど。
Reol
そうですね。今回の作品に関しては、誰かに向けて書いてるというよりは、いつもそうなんですけど自分との対話なんですよ。だから“君”は自分であり、自分を取り巻く誰かであり。
――Reolさんの中での自分って、俯瞰しているところがありますよね。
Reol
ありますね。それこそ「ニュータイプトーキョー」とかで歌ってるのはそういうことで、自分って入れ物だと思っているんです。空っぽの容器というか。自分に関わった人の人生だったり、親だったり。会話や生活などを通じて、どんどんその容器が埋まっていくというか。いろんな人の人生のハイブリッドが自分という存在なんだと思うんです。そんな思想がずっと根底にありますね。
――以前、ユニットREOL時代に取材させていただいた時は、なんとなくパーソナルな部分ってあまり見せたくないのかなって感じたんですけど。
<参考> 『REOL、全神経を揺さぶる1stアルバム『Σ(シグマ)』インタビュー』
Reol
そうですね。シンガー“れをる”というか、歌姫“れをる”を邪魔してしまうような要素は省きたいと思っていたので。そこは頑張っていたところはありましたね。
――シンガー・ソングライターとなると、より扉を開いたところもあるんですかね?
Reol
そうですね、よりもっと自分の核に迫らないといけないですよね。自分ひとりで音楽を完遂するとなると、そもそも“れをる”ってインターネット上にいた歌声でしか存在しなかった状況から、ユニットREOLでヴィジュアル(顔出し)を出し、自分の思想だったり考えてることを曲にしていくと、どんどん“れをる”が“れをる”ではなくなってるんですよ。けど、やっぱりそうでなければ面白くないと思うし。そのためには自分の思ってることをさらけ出していこうっていう気持ちがより強くなってきましたね。
――ユニットを経由して、今回の展開など、拡張している感ありますからね。そもそも、ユニット時代も詞曲を手がけられていましたが、なぜ自分で楽曲を作るようになられたのですか?
Reol
誤解を招きそうなので怖いんですけど……。“歌ってみた”界隈で活動していた時に思ったことなのですが、二次創作って作曲者の一次創作の作品を汚すものではあってはいけないと思うんです。当時、サイリウムを振られてアイドルみたいになってる自分にすごい違和感があって、そこへのアンチテーゼじゃないですけど。もっと私には作品として伝えたいことがあるなって気がついて。もちろん、“歌ってみた”にも素晴らしいシンガーはいっぱいいるんですけど、アイドルという側面で強く見られてしまうショックというか。自分もそこで育ってきた人間としては、もっと見つかるべき才能ある人たちもいるのになっていうのはありますね。
――米津玄師さん、いわゆるハチさんも“歌ってみた”やってましたもんね。
Reol
そうですね。“歌ってみた”は、いろんな人の曲を借りていろんなひとの表現を勉強できる場としてすごくいいと思います。でも、私はそれでお金を生むっていうことには違和感があって。それに、自分の歌の水準としては、シンガーとしてなんでもそつなくは歌えないんですよ。自分には得意分野があることがわかっているので、自分に相応しい曲を作らないとなって意識がすごい強いですね。
――Reolさんは、トークでの喋り方や歌詞の表現が独特な気がしますが、影響を受けたものってありますか?
Reol
昔から言っちゃいけないことを言ってる曲が好きなんですよ。「それ言っちゃうんだ!」みたいな人の曲が好きで。『大奥』の主題歌に東京事変の「修羅場」が使われて衝撃だったんです。高校生の頃、歌ものを聞くようになって、その時に惹かれた曲がそういう作品が多かったんですね。もちろん「ありがとう」みたいな曲が響くときもあるんですけど、当時は思春期だったこともあって、みんなが言わないことをわざわざ言ってる人がかっこよく思えて。そんな楽曲ばっかり聴いてました。それこそParamoreの「Misery Business」とかも。けっこう和訳がヤバいんですよ。東京事変はすごい聴いてて。解散ライブのチケットが取れなくて、一緒にバンドを組んでいた子と「うちらは最後を観れないんだ……」みたいなことを言ってたり。ELLEGARDENとかも聴いていたし、いわゆるJ-ROCKですね。YUKIさんがソロになってからもよく聴いていたし。
――YUKIさんのアルバムはどの辺ですか?
Reol
『commune』を最初に借りて。もう『Wave』とかも出ていたんですけど、なぜか『commune』のジャケにすごく惹かれて。YUKIさんみたいな人がズラーっと並んでるけど、どれもYUKIさんじゃないってやつ。「スタンドアップ!シスター」っていう曲の歌詞が“立ち上がれ スカートのプリーツから”ってすごい、こんな歌詞を書いていいんだっていう気持ちになって。YUKIさんには、世界観というか歌詞に大きな影響を受けてるかもしれないですね。
――なるほどね。でも、Reolさんって作品を聴いているとルーツをあんまり感じさせないですよ。そこも面白いところだと思います。2曲目が先行配信された「平面鏡」。この楽曲は、ユニット時代からも通じる独特な世界観というか、サウンド・プロデューサーにギガさんを迎えられています。ギガさんはどんな存在ですか?
Reol
音楽がなかったらこの人は一体……って感じですね(笑)。私も人前に出ていくと「ちゃんと食べてるの?」とか生活についてすごい心配されるんですけど。ギガはすごいですね。いろいろ抜け落ちているというか。風邪ひいても「医者がこわい」とか言って頑なに医者に行かないタイプで(笑)。音楽に才能が極フリされてというか。耳がよくて、音がすごい聞こえてるんですよね。ギガには、今回のアルバムを全体でみてもらっていて。編曲で関わっていない曲でも、それこそミトさんとの楽曲のトラックダウンにも来てもらって。横で聴いててもらって、今までの作品を聴いた時の質としての印象と変わらなくしたかったんです。たとえば、音圧みたいな密度の部分で、やっぱり落ちたと思われたくなかったので。そこは彼の耳に基準を合わせました。信頼している兄弟みたいな存在ですね。
――この楽曲も、海外も含めてのトレンドを汲みつつもギガさんらしさがあらわれていて。いい意味ですけど、サウンドも歌詞も情報量が多いですよね。
Reol
ギガはラップ調のメロディーを歌っている私が好きらしくて。「平面鏡」のデモを作った時点で、これはギガかなと。得意分野でもあるし、今までユニットの曲を聴いてくださっていたひとたちをそのまま連れていきたい気持ちが強かったので。1番最初に出す曲はギガの編曲でしかありえないなと思って、サウンド・プロデュースをお願いしました。
――ひととの距離感、関係性を描いたかのような歌詞は、どんなところから出てきたんですか。
Reol
ダーツをする時って、すごい集中をして的に当てるためにそこを凝視するじゃないですか? そうすると、周りのものがぼやけて見えなくなっていくんですよ。
――あ、なるほどね。歌いはじめのリリックはそこから?
Reol
ダーツ自体は1回しかやったことないんですけど(苦笑)。その視野が狭くなっちゃう感じが、辛い時ってそうだよなってシンクロした感じで。特に今って情報社会で、SNSでの評価をすごい気にするじゃないですか? 「いいねが欲しいだろう?」みたいな。「こういうツイートをしたら誰かにこう思われるんじゃないか……」とか。本当に言いたいことが言いづらくなってると思っていて。Twitterが開設されたころからやってるんですけど。あの頃ってなにも考えずに使ってたんです。でも人口が増えれば増えるほど監視する目が増えるから、当たり障りのない短いフレーズ「おはよう!」みたいな使い方になっていく。それがつまらなくもあるなって。そんな現代について歌ってる曲ですね。
――“下がった視力で僕ら何がみたい”とかパワーワードですよね。Reolさんにとってインターネットって自分を成長させてくれた場所だと思うんですけど、すごい向き合った分インターネットの怖さはよくご存じなんだろうなと。そんななか、これまでに投稿された動画共有サイトでの作品の総再生回数が2億5千万ってすごいことですよね。海外人気もたかそうです。
Reol
リプライとかも海外の方もいて嬉しいです。でも、私にとっては国内のファンも国外のファンも重要度は変わらなくて。でも、すごい再生回数にはなりましたね。
――海外でのライブもやられてますけど、そこは並列で見られているんですね。
Reol
そこは言葉の壁があるだけで、日本のファンが聴くのと同じくらいに熱量を持って聴いてくれる人も海外にはいるし、差をつけたくはないですよね。
――それこそギガさんのサウンドでいうと、K-POP的センスや、ビルボードにも通用しそうなEDMセンス。日本外にも浸透する要素がありますよね。そして、今回ミトさんが参加されたことで、より国内メインストリーム、J-POPフィールドでの広がりが楽しみです。
Reol
やっぱり歌謡曲が好きなんですよ。私も日本人だから自分の血の通ってきた音楽を色濃くアウトプットしようと思ったら、やっぱり「エンド」や「ミッシング」のような曲ができますよね。逆に「平面鏡」とか「カルト」とかギガと組むときは、海外の血……USっぽいノリというか。リズムを基調としたメロディを作るように心がけたり。両面あります。
――その両面あるのが面白くて。しかも、どちらも今のセンスなんですよ。「ミッシング」のアレンジは瀬恒啓さんが参加されてますね。
Reol
瀬恒啓さんは、アルバム『極彩色』の時に「生命線」という曲でギターを弾いていただいたギタリストなんです。O-EASTでの、私の初めてのワンマン・ライブでも弾いてもらいました。バイオリンも弾けるんですよ。なので、「エンド」のストリングスもやってもらってます。けっこうそういう感じで今回の制作でも序盤から関わっていただいて。ギターをかっこいい曲にしたかったので「ミッシング」は瀬恒さんだなって。
――後ろで言葉が流れていくアレンジもかっこいいですよね。それはデモの段階から?
Reol
そうですね。声にディストーションをかけたりとか、そういう細かいところはけっこう注文をしました。
――シンプルな展開でいくのかと思いきや、ギミックが入ってくるところがReolさんらしいなと。こだわりポイントを考えるのは、お好きなんですか?
Reol
そうですね。やっぱり1番と2番では展開を変えたいし、飽きさせない曲にしたくて。今回の制作でわかったのは、いちから作詞作曲をすると曲が長くなるんですよ(笑)。「エンド」とか5分超えなんですよ。いまの時代みんな3分とかにまとめがちなのに「90年代かよ!」みたいな。それもあって、編曲の部分ではいかに飽きさせないで5分聴かせるかってことを考えますよね。
――喪失感半端ない「ミッシング」には、どんな気持ちをこめられましたか?
Reol
もう、完全に現実逃避ですね。「エンド」を書いた時もそうなんですけど、「エンド」のほうがわりと希望があるというか。こんなふがいない自分だけど、未来を見ていたいみたいな気持ちがあるんですけどね。
――「ミッシング」は、すべてに疲れた時に作られた曲なのですね。
Reol
そうですね。“高飛び”って言葉を使ってますけど、完全にそんな感じで。逃げたいなって思うけど、実際は逃げられないじゃないですか? それに、私は自分が逃げないように自分を固めるところがあって。ユニットが解散してから、どことも契約せずにふらふらしている時間だって設けようと思えば設けられたはずなのに、自分がやめないように退路を断ってCONNECTONEと契約しました。でも、頭ではわかってるんだけど、気持ちがついてこない時があって。打ち合わせとかで、スタッフに会うのはすごい楽しいけれど家に帰ると「逃げたいな」って思うみたいな……。そんななか、生まれた曲ですね。
――今回、5曲とも、Reol解散後に作られたとしたら、確かにすごいスピード感だし、大変そうですね。
Reol
そうなんですよ。短期間でした。
――「ミッシング」はギターサウンドがメインですが、いまでもギターはお好きですか?
Reol
ギターを弾くと高校生の頃の気持ちに戻りますね。楽器の音を聴いて、はじめて心震えたのがギターサウンドだったから。やっぱりギターを聴くと血が騒ぎますね
――ギター弾きだと、どんな方がお好きとかありますか?
Reol
東京事変ですね。そこからジュディマリ(JUDY&MARY)とか90年代の流行っていたロックとか聞くようになっていって。椎名さんソロの後ろで弾いていた弥吉淳二さんとか、ジュディマリのTAKUYAさんとか。一心不乱に弾く人が私の中でのギタリスト像ですね。
――ジュディマリはリアルタイムではないですよね?
Reol
全然ないですね。もう解散したあとでベストがでたくらいかな。でも、スコアとか持ってました。こんな分厚いやつ。
――YUKIさんから遡って?
Reol
そうですね。YUKIを聴いてやばい!と思って。
――「ミッシング」に、90年代のロック要素を感じたんですよ。
Reol
嬉しいです。懐かしさを感じられる曲が私は好きで。「昔聴いていた曲だから懐かしい」ではなくて、現代の音楽なんだけどどこか懐かしさがあるような曲ってあるじゃないですか? そういう曲が作りたくて。今回は昔聴いたような気がする、みたいな気持ちを思い起こさせる気持ちを書きたいと思って作りましたね。
――感情を揺さぶるノスタルジーなエモーショナルさ? 懐かしさのスイッチってありますよね。
Reol
理論では説明しがたいんですけど、ノスタルジックな感じって気持ちを揺さぶるのでいいですよね。
――大事なポイントかもしれませんね。そして4曲目が「カルト」。タイトルからして驚愕的なテーマなのですが、この曲も好きすぎて。すごいの作ってきたなと思いながら。
Reol
わたし一番最初に覚えた歌が般若心経なんですよ(笑)。歌っていうかおばあちゃんがずっとやっていたから。自分は無宗教なんですけどね。それこそ、宗教とまではいかなくともみんななにか信仰してるものってあると思うんですよ。信じたいこととか、家族であったり恋人であったり。
――依存したいもの。
Reol
そうですね。これがないと、っていうのは、たぶん誰にでもあると思うんですけど。それとリンクさせて書いた曲です。「カルト」ってタイトルで作りたいって思ってたんですけど、ずっとできなくて。「間に合わない、死ぬしかない」と思って……。ディレクターの山口さんに怒られるんだ……。って思ってたら、いきなりバッ!て浮かんで、そのままガーッと作って。これは編曲もギガと一緒に共作で。
――アレンジがまた深みあって面白かったですね。
Reol
デモの段階で、いま使ってもらってる楽器とか全部入ってて。イントロのシタールとか。そういうのを全部いれた上でギガに渡してて。なんとなくそのイメージでって。
――そして5曲目が「あ可よろし」。もうイントロから大好きですね、王道ポップチューン! この曲で解放されます。
Reol
ありがとうございます。タイトルは、花札の赤札のやつ。気になって意味を調べたんですよ。“あ可よろし”って、札だとアノヨロシに読めるんですよ。でも、実は“あ可よろし”が崩れた読み方で“素晴らしい”って意味らしくて。良いなって思って。アルバムの最後には希望のある曲を置きたいし、最後に残るものは希望であってほしいと思いました。
――しかも、ギターはCOALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKIさんが参加という。
Reol
まずミトさんに「あ可よろし」のデモを聴いていただいた時に「シューゲイザーっぽいね」って言われたんですよ。「今の若い人が書かないような曲を書くね」って。「これたぶんNARASAKIさんとかにギターを弾いてもらったらヤバいんじゃないかな?」と。ミトさんもNARASAKIさんとお仕事したことがなかったらしくて「組んでみたいね」って感じになって。
――そういえば、二人ともロック・フィールドから気づいたらアニメ界隈ですごい大御所になってますね。
Reol
NARASAKIさんは、トラックダウンの時にお会いできて。髪がめちゃめちゃ短くなってて。ベリーショートみたいになっててびっくりしました。
――ミトさんとは、どういう風にしていこうという話になった曲なんですか?
Reol
わりとシンプルなデモをお渡ししていて。「エンド」は、ズーン!って重い感じのサウンドが欲しかったですけど、「あ可よろし」はノイジーで悲壮感のある感じに仕上げたくて。たしかにシューゲイザーは合うかもしれないな、と。
――これまでシューゲイザーの影響なんて、あったのですか?
Reol
がっつり通ってきてはないですけど、COALTAR OF THE DEEPERSは有名だし、シューゲイザーっていうジャンルは知ってました。椎名林檎さんの「メロウ」とか。あれとかちょっとノイジーな感じですよね。
――いろいろな大変な流れがあって、テーマは自己肯定感といいますか、ここで救われる感じがありますよね。
Reol
だれかに言っているというよりは、自分に言い聞かせているところがあって。“あなたが向いている方角こそ 前だと言い切ってよろしい”というフレーズがあるんですけど、自分が向いている方向を前だと思い込みたいんですよ、私自身が。自分の背中を押す楽曲になりましたね。
――こうやって完成したのを聴いてみて客観的にいかがでした?
Reol
捨て曲がないと思います。高水準な作品ができたと思って。なので、これを聴いてくれる人が、より自分のことを知ってもらえることが楽しみですね。ユニットの時ももちろんそうだったんだけど、自分の音楽性が120%凝縮されている曲たちなので、これを好きっていってもらえたら、すごい救われるなと。
――とても素晴らしい作品ができたと思います。あと、特典のコンセプトブックのデザインにもこだわったそうですね。
Reol
入稿データが自分のデータそのまま……。
――すごそうですね。どんなものになるんですか?
Reol
ユニット解散から、水面下で活動の始動を11月から12月、1月まで。1月の最終日が〆切だったので、そこまでの制作日誌ですね。
――うわ、それは読みたいですね。リスナーにとって間が空いているところが埋まるという。では、今後のReolとしての活動目標なんて見えてきましたか?
Reol
もちろん多くの人に聴かれたいというのはありつつ、カルトを作りたいではないですけど、自分の音楽を聴いてそれに共鳴してくれる人たちに届いていけばと思っています。そういう人たちに届けるために、まずは多くの人に知ってほしいです。明確にライブ会場で武道館やりたいとか横アリやりたいとか、そういう執着はなくて。広ければどこでもいいみたいな。サバンナや公園とかでもいいみたいな(笑)。
――そういえば、3月17日(土) 『ビクターロック祭り2018』への参加も発表されてましたね。行きます。
Reol
ありがとうございます。それとワンマンを6月1日(金)と8日(金)に、『刮目相待 -六の宴-』@六本木EXシアターと、『刮目相待 -八の宴-』@難波HATCHでやります。
――ロック祭りはどんな感じになりそうですか?
Reol
ロック祭りはプロモーションでチラッとださせていただく感じなので、3曲くらい『虚構集』の曲をガツンとやれたらなって思います。ひとりでギター片手に頑張ります。しかも女アーティストが私とオープニング・アクトの吉田凜音ちゃんしかいなくて。凜音ちゃんが歌ったあとに、ず〜っと男の人たちが続いて私が出ていくから、かましてやろうと思って。
――めちゃくちゃかましてやってください。
Reol
15分だからギュッとかまします。
――これまでもこだわりのライブをやられてきましたが、ワンマンもいろいろ考えている感じですか?
Reol
「エンド」のMVがリリースされますけど、それが伏線になるようなライブの演出を考えています。やりたいことがたくさんあるんですよ。きっと尽きるまでやるのが自分の大義なのかなって。今回、辛かった時期があったんですけど。ひとりになって今後の活動を周りにも言えず……、解散を黙っていた時期もすごくつらかったので。2017年が自分にとっては苦い時期になって。そんな時期に作った楽曲たちだから暗いんですよ。そんな意味もあって『虚構集』というタイトルになってますね。
――救いとなる「あ可よろし」が作れてよかったですね。
Reol
なかったら、ドーンっていう感じ。「カルト」や「ミッシング」は精神的につらいですから。
――通じるところですがアートワークで鏡を用いたヴィジュアルもインパクトありました。
Reol
鏡を壊すというか、1度壊れちゃったと思うんですよ。解散ということがあって。自分としてもふがいない自分は打破していきたいし、弱い自分に打ち勝っていきたいから虚像を壊すっていうテーマを掲げました。その話をデザイナーの木村豊さんに話したら、鏡やガラスとかそういうものだよねって話になって。どうせやるなら本物でやろうってなって、スタジオのセットで1枚1枚割った鏡を使ってのアートワークなんです。
――自分の中でも満足できる作品ができたようですね。
Reol
はい、そして次の作品をすぐにでも作りたいですね。やっぱなんかこう、たまにあるんですよ、曲が降りてくることが。なんとなく歌っていた鼻歌がめちゃめちゃいいメロディーだったり。そういう時にアドレナリンが一気に出てきて「寝てられない」みたいになることが2ヶ月に1回くらいあって、そういう曲がリード曲になったり。「エンド」のサビが完全にそれでしたね。家に帰ってきて、下駄箱に靴を入れているときに突然なんか湧いてきて「ヤバい!」と思って靴を投げて。防音室にバーッと駆け込んでみたいな。化粧もとらずに作業して。ちゃんと残せてよかったです。是非、『虚構集』を多くのひとに聴いていただきたいですね。