ニューシングル「あたしをみつけて」Salleyスペシャルインタビュー

この想いは純愛? それとも罪?

透明感に満ちた可憐な歌声と、美しいギターサウンドが印象的なSalleyのニューシングル『あたしをみつけて』。恋する乙女心が描かれたミドルテンポのそのラブバラードには、デビュー曲『赤い靴』にも通じる甘い毒が潜んでいる。それは、ピュアな恋心の裏に隠された魔性のトラップ。人気ミステリードラマ「科捜研の女」の主題歌にも抜擢された『あたしをみつけて』について、歌詞をてがけるボーカルのうららと、作曲&アレンジを手掛けるギターの上口浩平を直撃。

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『あたしをみつけて』は一見すごくピュアなラブソングですが、聞き込むごとにそこに潜む狂気が徐々に浮かび上がってくる。純愛なのか、それとも狂気なのかっていうバランスがすごく面白いんですけど、うららちゃん自身はどういう視点でこの曲の詞を書き上げていったんですか?
うらら
「そこは聞く人の想像にお任せするのがいいのかなぁっていう感じではあるんです。ただ、よく女子同士で恋愛話とかすると、好きな人のことを悪く言う人って絶対いると思うんですけど、そういうのを見ると心が痛むんですよ。好きなら好きって素直に認めればいいのになぁって。それに、こんなひどいこと言う人とその子の彼はつき合ってるんだなぁって。もしその彼のことを好きな子がグループ内にいた場合、その子はどんな気持ちでこれを聞いてるんだろうって考えた時があったんですよ。なので、今回はその片思いしてる子の気持ちに乗っかって書いてみたんです」

恋愛には誰もが見返りを求める
だから怖い、みたいな

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『あたしをみつけて』とは、存在に気づいてほしいという気持ちを象徴した言葉?
うらら
「“好きになってほしい”ですね。あなたのことをこんなに大切に思ってる人がここにいますよ、みたいな感じでこの曲名をつけたんです。しかも、私を見てくださいっていうキレイな言い方じゃなくて、もっと粘着性がある感じを表現したくて、漢字じゃなく、全部ひらがなにしたんです。恋愛において、ただ純粋に優しくしたいとか、あっためてあげたいって本気で思ってる人って、いないんじゃないかなって私は思うんです。こんなに好きなんだから振り向いてほしいとか、そばに来てよとか、誰しも見返りを求めてしまうと思うんです。でも女子はそれをうまく肯定できないというか。でもこういう歌い方や提示のし方なら、一瞬すごく素直に聞こえるから、みんなの気持ちに寄り添えるのかなと思ったんです。女子の気持ちって、実はこういうとこにあるんじゃないかなって。だからよく聞くとなんか怖い、みたいな(笑)」
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ただこの女子ならではの怖さには、もしかしたら男性は気づかないのかも。
上口
「まさしく僕はそこに気づかなかったですね(笑)。まず男性の感覚には全然ない感覚っていうか。だから、先にうららから歌の素材をもらったんですけど、ある程度のビート感とコード感があれば、うららの歌だけでいいかなっていうぐらい、“歌”が全部を包み込んでくれるような、安心感のある歌だなぁと思いながらアレンジしてましたから」
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逆にそれが良かったんでしょうね。“怖さ”があからさまに音で表現されてたら、何度も聞くうちに深みにはまるようなこの感じは生まれてなかったかもしれない。
うらら
「歌詞の表現を変えたり直したりしてる作業をしてる時に、一回すごい怖いフレーズ入れてみようかっていうことになって、ディレクターと入れてみたんです。“私はずっと見てた…”みたいな。それだとほんとに怖い曲になっちゃうからやめたんですけど(笑)」

後からじわじわ来る
「科捜研の女」の主題歌

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<あなたをずっと見ていた>って歌われたら、“僕のこと見ててくれてたんだ!”って、男性は単純に嬉しいのかな。
うらら
「そうなんですよ。男の人は、優しい歌だねって感じで。全然知らない人に、<My darling…>って言われてる可能性がちょっとあるんですけどね(笑)。例えば運動部の先輩とかで、しゃべったことない男の子のことをずっと見てた、だったら分かるんですけど、なんか分かんないけどずっと見てた……だとすごい怖いじゃないですか(笑)。だから歌詞を書く時に言葉だけ前に出過ぎると恐怖感が強くなるから、言葉が音にあんまり当たらないよう、耳障りがいい言葉だけにしたいと思って書いてました」
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ちなみに男性は、むしろこういうシチュエーションの恋愛に憧れてるって聞いたことがあるんですけど。
上口
「はいはい。それはかなり的確ですね。ここまで自分のことを想ってくれてるんだっていうか。もっと言ってしまえば、母性というか、(その女性の存在が)自分の帰る場所にすら思えちゃう、みたいな。僕は浅はかだったんで、それが“恐怖”に思えることはなかったですね」
うらら
「あながち母性じゃなくもないって思うんですよね。ただ、好きだからこうしてあげたいっていう気持ちには必ず、見返りを求める気持ちもあると思うんです。とくに相手から反応がなかった場合、こんなに思ってるのになんで私の方をもっと見てくれないんだろう?っていう風に思っちゃうというか。でも、なんで見てくれないの?って言われるとちょっと煩わしいけど、私のこと見てよって言われると、“おっ”て、なんかいい気持ちになるというか。男子にも女子にも嫌われない言い方になるというか。良く聞くと、まぁまぁ支配欲の強い女の子が主人公なんですけどね(笑)。片思いなんだけど、いずれ彼女にハマったら手のひらの上で転がされちゃうんだろうなって」
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まさに「科捜研の女」にふさわしい曲。
うらら
「ドラマを見終わった後にじわじわと来て頂ければなと(笑)」

さらに『あたしをみつけて』のC/Wには、疾走感あるポップチューン『カムパネルラ』も収録。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のイメージとも重なる、ノスタルジックで美しい風景が思い浮かぶSalleyならではの切ないポップチューンだ。

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『カムパネルラ』という曲名って、ちょっとレトロなムードがありますよね。
うらら
「宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の主人公の親友の名前がカムパネルラなんです。歌詞を書いてるうち、自分がすごく頼りにしてる人が最後に消えちゃうっていう、『銀河鉄道の夜』の話と偶然イメージが似通ってきたので、タイトルにしようかなって。デモを聞いた時に、ふぁーっと走り抜けてくような、疾走感のあるイメージが浮かんだんです。この曲の場合は鉄道じゃなくて自転車なんですけど(笑)。早過ぎて何かを失っちゃう感じというか、上口くんの作る曲ならではのちょっと切ない感じがあったんで、歌詞もちょっと切なくしてみようかなって」
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上口くんが曲を作る時に思い浮かべていたのはどんなイメージだったんですか?
上口
「最初に思い浮かんだのが冒頭のリフなんですけど、それが浮かんだ時に夜のキレイな風景がイメージにあって。それをうららに投げたら、自分が思ってたイメージと近い感じの歌詞が上がって来て。まったく一緒ではないけど、”そういうのもいいね”っていう仕上がりだったんで、あんまり迷うことなく音を乗せて行けた感じですね」
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お互いに、“切なさ”を共有できたからこそ生まれた1曲なんですね。
上口
「カポ(カポタスト)っていうギターの弦を押さえる機材があるんですけど、それを高めの位置でセッティングすると、ギターを弾いた時に弦とフレットの当たる面積が増えて、金属的な倍音が出るというか。それが“キレイな星空”みたいな印象が自分的にはあって。鼻歌とアコギで作ってる段階でこの曲にはそういう、冬の澄んだキレイな空気の夜空みたいなイメージがありました」
うらら
「確かに寒いイメージはありますよね。だから2番の歌詞も寒そうなイメージで書いてました」

“Salleyの世界”のルーツは、
本当は怖い名作童話

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宮沢賢治の童話って、ちょっと怖い顛末になってることが多いですよね。『あたしをみつけて』もそうですけど、そこはうららちゃんの書く歌詞とも共通する部分というか。
うらら
「私が多分、そんな物語ばっかり読んでたからだと思うんです。怖いと思うとつい読んじゃうんですよ。私、「おしいれのぼうけん」と「三びきのやぎのがらがらどん」の2つは最強に怖い童話だと思ってて。「三びきのやぎのがらがらどん」は、小やぎと中やぎと大やぎがいて、大やぎのがらがらどんが谷川の橋の下に住んでるトロルをボッコボコにしてバラッバラにして、川に流しちゃうんですよ。で、最後に三びきで草をいっぱい食べました、ちょきん、バチン、すとん、終わりって書いてあるんです。「おしいれのぼうけん」は、二人の子が幼稚園でけんかをして押し入れに閉じ込められて。そしたら中がトンネルになってて、そこでねずみばあさんっていうめちゃくちゃ怖いやつに追いかけられるっていう話で、最終的には逃げ切るんですけど、とりあえず怖いんです」
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『赤い靴』もそうですが、水たまりにパンを放り投げて、そのまま沈んでいくっていうアンデルセンのお話とか、うららちゃんが紹介してくれる童話は毎回、眉間にシワが寄る系(笑)。
うらら
「『パンを踏んだ娘』ですね(笑)。あれは最後に鳴けない鳥になって、鳴けない鳥のまま昇天するっていう、救いのない話ですからね。なんか、そんなのばっかり読んでたんですよね(笑)」
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『カムパネルラ』は大丈夫ですけどね。最後はどこかに飛んで行っちゃうけど。
うらら
「高校生ぐらいの頃の恋愛を振り返って、その頃の恋愛って独りよがりになりがちなのを後悔してるイメージというか。『銀河鉄道の夜』もそういう感じなんですよ。頼りにしていた親友のカムパネルラは最終的に亡くなるけど、ずっと死んでたと思ってた父親が帰ってくるっていう話で終わってて。後悔とかあるけど、前に進んでいかなきゃいけないっていう。その感じがすごくいいなって思うんです」

今作には、デビュー・シングル『赤い靴』以来、Salleyの定番となりつつあるアコースティック・スタイルによる『その先の景色を』(acoustic studio session)も収録。昨年10月にリリースされた3rdシングル『その先の景色を』を、実験度の高いオルタナティヴ・フォーク・サウンドに再生。単なるアコースティック・バージョンを超えた、Salleyの新たな扉が見える1曲である。

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ギターが切なく鳴っていて、うららちゃんの歌声の透明感が際立ってて、なおかつポップ感がある。それがSalleyの基本型だとすれば、『その先の景色を』(acoustic studio session)はそこに実験的な要素が加わった1曲だなと思いました。
上口
「当初はもっと原曲に近い感じでアコースティックにしてやるつもりだったんですけど、ピアノとボーカルとギターの3人でまた新しいものを作るという感覚でやってみたらいいんじゃないかっていうディレクターの発案で始まったんです。エレキとアコースティック・ピアノでやるっていう提案も、ビョーク的なというか、実験的なことを、アコースティックで綺麗なピアノの旋律にエレキギターのざらついた音が聞こえてきたら、耳障りが面白いんじゃないかっていうところから思いついたもので。全然設計図も出来てないまま始めたんですけど、結果的にそのイメージに近い雰囲気になって。これもせーので録ったんですけどね。その緊張感から、めちゃめちゃ疲れましたけど(笑)」
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シングルには必ず、ひとつ前のシングルの曲をacoustic studio sessionをテーマにリアレンジしたものを収録する、というのが定番化しつつありますね。
うらら
「2ndシングル『green』には『赤い靴』の歌とギターだけバージョンが入ってて、3rdシングル『その先の景色を』には『green』をウッドベースとかアコーディオンとかカホンとかを使った一発録りテイクが入ってますからね。でも実は、acoustic studio sessionをシリーズ化しようっていう話は誰もしたことがないんですよ(笑)」
上口
「毎回acoustic studio sessionをひとつ作り終えた瞬間に、次どうしようって考えてるっていう(笑)。実験的なことをしていきたいなぁと思うし、これも自分なりにいろいろ勉強になるし楽しいんですけど、アコースティックですからね。さすがにネタが尽きてくるというか。でも逆に言うと、もっと実験的なことやってる人は世の中にたくさんいるのであれなんですけど、今回の『その先の景色を』(acoustic studio session)のおかげで、いい意味で原曲の世界観を壊してもいいと思えたし、自分たちも楽しめるようにやっていければなっていう、次に行ける扉が開けた感じはありますね」
うらら
「歌とギターだけでライブをすることも結構あるので、それに自信があったりもするから、そこに立ち戻っても私はいいなと思ってるんですけどね」

Salleyが見据える、
次のステージ

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新曲も順調に生まれる感じですか?
うらら
「レコーディング・スタジオに入らなくても、上口くんが曲を作って送ってくれるっていう、制作活動は休みなく続けていて。後は私ががんばって形にしていく感じなんですけど、私としては、今回の『あたしをみつけて』やデビュー曲『赤い靴』はSalleyの原点というか、上口くんと2人で作ってる時点でお互いにすごく納得できた曲だから、大事にしていきたい特別な曲なんですよね。それをみなさんにも味わって頂けたらなって」
上口
「スタッフの方達と一緒に制作するようになって、自分の中で無意識だった部分を意識するようになったと思うんです。かといって、制作スタッフからわーわー言われて圧力を感じてるっていうわけじゃないんですけどね(笑)。むしろ自分自身で作り上げた感情に縛られてしまうというか。そういうものを一周して、何の奇を衒うこともなく、純粋に出て来たものを出せるようになりたいというか。作品自体が優しいとか棘がないっていう意味ではなく、常日頃、自分でも面白いものを作りたいなと思ってるので、そのラインをちゃんと超えた、純粋なミュージシャンとして誇れる楽曲を作れるように、これからも心がけていきたいです」
(text/早川加奈子)