- 『KABA』にはポップでマニアなUAが棲んでいる
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デビュー15周年を記念して制作した、UAにとって初のカバー・アルバムとなる『KABA』。タイトルからもわかるように、茶目っ気溢れるUAらしい楽曲が揃った作品集だ。しかも世代を超えた楽曲を、無類な歌と演奏で堪能できる。
90年代にクラブ世代として音楽を浴びていたUAは、シンガーとしてデビューしてからも、ジャンルを気にせず、物凄い量の音楽を聴いてきた。
「何か物凄い幅で聴いてきたと思うんだよね。むさぼり聴いてきたところもあるし、知りたい知りたい……と模索している時期もあったから。前衛から現代まで、アヴァンギャルドなものや実験的なものもあるし、もちろんポップもその中でずーっと聴いてきて、いろんなものに影響を受けていると思う」
今回ここに収録したのは、「基本的に今聴いても一緒に歌っている歌」。そして選曲リストを見返して、「やっぱり自分はポップによって育ってしまっている」と、UAは納得してみせる。日本の歌謡曲にはじまり、アニメソングやロック、映画音楽など、それらの曲との出合いはさまざまだけれど、どの曲もどんなアレンジにも映える、メロディと歌詞が見事に溶け合い大衆に愛されてきた名曲ばかりだからだ。
UAはカバーに関し、早い段階からシングルのカップリングに「BECAUSE THE NIGHT」や「真夜中のギター」といった曲を洋邦問わず取り上げてきた。また、TV番組『ドレミノテレビ』での童謡や愛唱歌を自在にアレンジしたスタイルが、『うたううあ』(2004年)として発表してからも評判良かったことが、『KABA』へつながっていると思う。
UAは1995年に12cmシングル『HORIZON』でデビュー。その比類なきヴォーカル・スタイルと唯一無二の音楽センスで、「情熱」「リズム」「雲がちぎれる時」(共に1996年)と、出す曲出す曲すべてを次々と大ヒットさせていた。しかも、人気沸騰の最中に出産、また1stフルアルバムの次に2枚組のライヴ・アルバムをリリースするなど、ライフ・スタイルにおいても日本のミュージック・シーンにおいても、新時代の幕開けを感じさせたレアな存在だった。しかも安泰の地に留まることなく、『泥棒』(2002年)以降、さらなる独自の音楽スタイルを追究し、ヒットチャートを気にすることなく音楽の旅へと出てしまう。
「『泥棒』あたりから繰り返しやることが難しくなってきた。ツアーといっても、同じことをやる“決まったライヴの形態”というのができなくなってきて。本当にいい歌を歌っていたいし、歌ってゆけるにはどうしたらいいんだと思っていたから、そこから求めていたミュージシャンに出逢えたのだと思う。本当に自分も探していたんだと思うし」
探していた、そして出逢えたミュージシャンというのは、内橋和久のこと。彼との出逢いが、シンガーとしてのUAをさらに磨いていくことになる。
「自分自身が変わってきたのは、即興的な事柄は、別に“音楽理論がどうのこうの”と言わなくても誰にでもできるということ、そして“今、ベストを尽くしていればいい”“それがずっと続いていればいい”“怖いことは何もない”ということを彼から教わってから。内橋くんと一緒にやっていると、瞬間的にどんな音楽が出てくるかわからないから、歌う時には自然とテンションが上がるし、高みを求めるのではなく、自分ができる中で可能性を諦めないで探していく方法が自分に合っていたんだと思う」
オリジナル作品についてここでは語らないが、ただ最近の2枚のアルバム『Golden green』(2007年)、『ATTA』(2009年)はというと、やはりUAならではの独創的な旋律が存在し、みんなが歌いやすいナンバーかというと、そうでなかったりする。でも、アルバム全体のパッケージとしてはポップを意識した作品になっていて、実は聴きやすい。UAはコアでマニアックなものが好きな反面、基本ポップが好きで、それが体内に根付いているのだと思う。
今回カバー作品をやるにあたって、ミュージシャンに事前にオリジナルの曲を聴いてもらうことはしなかった。原曲を知っているメンバーがその場で他の人たちに伝えたり、デモを作った人はデモを聴かせて、他のミュージシャンに譜面を渡すことはあったものの、基本、自由に作業を進めていった。それゆえ、誰からも愛されてきたポップなナンバーを、想像と創造の世界から再構築していくことができ、思いもがけないアレンジで私たちを新たな音楽世界へ導くことに成功している。UAも1曲1曲しっかりサウンドデザインを描いてミュージシャンに伝えていったといい、そこにはこれまで蓄積されてきた彼女の音楽マニアなセンスが緻密に編み込まれている。そして実際にUAが愛し、歌い込んできたばかりゆえ、どれもUAのオリジナル曲といってもおかしくないほど、彼女の声になじんでいるのだ。
『KABA』はカバー・アルバムとして単純に楽しむこともできるけれど、時代ごとにUAのこれまでを回想できる15曲にもなっている。
子供の頃のUAを想起させる、「モンスター」や「妖怪にご用心」「セーラー服と機関銃」といった選曲。学生や卒業当時をイメージさせる「夜空の誓い」や、「Under The Bridge」「Love Theme From “Spartacus”」といったナンバー。そして歌うことの魅力にとりつかれるきっかけとなったアレサ・フランクリンの作品から「Day Dreaming」、シンガーとしてデビューし、ますます音楽にのめり込んでいた時期に聴いていたという「Hyperballad」「No Surprises」「Paper Bag」といった洋楽の数々。加えて、最近のUAの姿につながる「わたしの赤ちゃん」「tiru-ru-shi」なども収録。家族想いのUAだけに、家族が気に入っている「きっと言える」、「買い物ブギ」もあり、デビュー当時から長年UAを担当してきたマネージャーからのリクエスト曲「蘇州夜曲」には、盟友である故HONZIのヴァイオリンがバックトラックとして使われて、UAの情の深さを感じることができる。
このアルバムは“今”を楽しむライヴ感覚で、ツアーでもお馴染みの気心知れたミュージシャンたちとUAとが“いっせいのせ!”で一緒にレコーディングを行った。選曲はポップだけれど、サウンドデザインはマニアック。そしてオープニングの「モンスター」での歌い方からしてわかるように、UA自身、どの曲もとても楽しんで歌っている。歌も演奏もワインのように熟成していながら、評判の高いライヴさながらのフレッシュなパフォーマンスを聴ける貴重な一枚なのだ。
しかも15周年を記念した15曲に加え、CDジャケットは、UAが一番大好きな漫画家くらもちふさこに描き下ろしてもらったという、想定外の面白さ。
やっぱりUAは、クスッと笑えるポップ感が大好きなのである。
伊藤なつみ