リズ・カーライル
LIZ CARLISLE
ウォーター・イズ・ワイド

優しく、透き通るようでいて、力強さを感じさせる声
私がリズ・カーライルの音楽と出会うきっかけになったのは、2006年春、“三井のリハウス”CM音楽制作の仕事でした。CMの映像に合わせる楽曲として、もともとは古い民謡である、"The Water is Wide" を使おう、ということになったのです。
この曲には、さまざまなアーティストによる数多くのレコーディングが存在しますが、日本やアメリカのiTunes Music Store、レコード店などを探し尽くして、手に入る限りの音源を聴いた中で(軽く100以上はありました!)、彼女の作品がダントツに印象的でした。とてもシンプルなギターに、透き通るようで、それでいて力強さを感じさせる声が、CM映像の中で優しく響きました。
当時、ハーバード大学に在籍していたリズは、民族音楽を専攻しながら、ライブ、レコーディング等の音楽活動をしていました。彼女のウェブサイトからコンタクトをとり、彼女の住むボストンで初めて顔を合わせることとなりました。
私は、年間100以上ものコマーシャル音楽をプロデュースしていて、クラシックから演歌、エレクトロニカまで、さまざまなジャンルの音楽を取り扱うのですが、リズの音楽を聴いて、目からうろこが落ちる思いでした。力強い、カントリー音楽特有のこぶしを持ちながら、それでいて、優しく、洗練されており、ひとつひとつの楽曲のメロディがとてもきれいなのです。
カントリーというと、テンガロンハットをかぶったカウボーイの音楽、アメリカ版の演歌のように思っていたのですが、こんなにおしゃれなものもあるんですね。ちょうど、Norah Jonesが "The Little Willies" というユニットで、カントリー色の強いアルバムを発表した時期でもあり、印象が変わりました。
その後、北海道の“MILKLAND Hokkaido”キャンペーンのCM音楽を担当する機会があり、北海道の豊かな自然と牧場の風景の映像に合わせる音楽を制作するにあたって、リズの起用を真っ先に思い立ちました。もともとは古いチェコスロバキア民謡である「おお牧場はみどり」をアレンジし、新しくオリジナルの英語詞をつけたのです。("Drink Up, My Darling")
ミルクを飲んで娘にすくすくと育ってほしい、という母の願いをメッセージにしたこの曲は、CMオンエア後、視聴者から賞賛のメッセージやCD化の要望をたくさんいただきました。また、北海道出身のシンガーソングライター松山千春さんが、最近のお気に入りの音楽として、ラジオ番組の中で紹介して下さったりもしました。
こうした反響を受けて、“MILKLAND Hokkaido プレミアムCD”を制作することになり、もともとは30秒のCMサイズでしかなかった "Drink Up, My Darling" のCD用ロングサイズ、ならびに、カップリング曲として "Blue are the Heavens" の2曲がレコーディングされたのです。("Blue are the Heavens" は、現在ミルクランド北海道のHP[www.milkland-hokkaido.com]にて、テーマ曲としても使用されています)
このアルバム『The Water Is Wide』には、これらCM使用曲の他、アメリカ国内にて自主制作された2枚のアルバム、『Half & Half』(2004年)、『Five Star Day』(2005年)からセレクトした音源が中心に収録されています。"The Water is Wide" などは、なんと、リズが17歳のときに録音されたものなので、最新の演奏と聴き比べると、随分声も初々しいですよね! また、彼女のフェイバリット・アーティストJoni Mitchell "Both Sides Now", "The Circle Game" の2曲のカバーは、今回の日本でのCDのために、特別にレコーディングされたものです。
ジャンルにとらわれず、広くアメリカン・ルーツミュージックからの影響を消化し、世界的な成功を収めたNorah Jonesと同様、リズ・カーライルの音楽にも、シンガーソングライターとしてのスケールの大きさを感じます。カントリー、フォーク、トラッドから、ポップス系のバラードまで、1曲1曲が味わって聴ける仕上がりです。
彼女のこれまでの歩みを集大成したともいえるこのCD、今後の活躍が期待されるリズ・カーライルの日本デビューアルバムをぜひお楽しみください!
2007/5/1 沖野雅代(CM音楽プロデューサー)