小泉 今日子
koizumi kyoko

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2022.05.19

<小泉今日子 TOUR 2022 KKPP(Kyoko Koizumi Pop Party)>ライブレポート&セットリスト



写真:田中聖太郎 
文:松永良平(リズム&ペンシル)

 夏のタイムマシーン 明日の私に伝えてよ
 くじけそうな時もけして答えをあせらないでと
 ~「夏のタイムマシーン」(1988)

 デビュー40周年を飾る、31年ぶりのホール・ツアー〈小泉今日子 TOUR 2022 KKPP (Kyoko Koizumi Pop Party) 〉が決まり、40年分のシングル・ヒットを歌うというテーマが決まった時、「夏のタイムマシーン」で歌われた世界観がピッタリだと思ったという。
 16歳でデビューした彼女が、10分近い長さを持つこの大胆なシングル曲を歌ったのは、まだ22歳の時だった。今ならもっとこの曲に込められた、過去の自分と今がつながっているという意味がよくわかるはず。そう感じた彼女は、当時の歌声と今の歌声を重ね合わせて「夏のタイムマシーン 1982-2022」にリメイク。2月に配信されたその曲が、ツアーの前奏曲となった。


 2月18日、相模女子大学グリーンホールで幕を開けた〈小泉今日子 TOUR 2022 KKPP (Kyoko Koizumi Pop Party) 〉。北から南まで1ヶ月半、全15公演を駆け抜けてきた。「The Stardust Memory」(1984)での幕開けから始まる40年分のヒットパレードに、全国のファンが総立ちになり、変わらぬ歌声に耳を傾け、歳月を経てなお新しいかっこよさに驚き、手を振り、身を揺らし、拍手して、声をこらえながら“心の歓声”を送ってきた。
 そして今日は3月30日。中野サンプラザでの追加公演で、このツアーの最終日。コンサート前、中野駅北口のアーケード街を歩くと「なんてったってアイドル」が流れていた。どうやら同じくサンプラザでコンサートが行われた20日、21日にも、この商店街ではガンガンにキョンキョンの名曲が流れて続けていたらしい。サンプラザに寄り添う桜並木も満開で、ツアー・ファイナルを祝ってくれているようだ。



 コンサートの序盤、今夜も彼女は広い客席の隅々を眺めながら最初のMCをした。全国の会場で、掲げられたうちわやボードのメッセージを口に出して読み、懐かしいデザインや黒猫同盟のTシャツを着ている人がいたら素直に喜び、長年のファンにも初めて“アイドル歌手・小泉今日子”のコンサートを体験する世代にも同じように接する。もちろん、ひとりひとりとじかに言葉を交わすことはできない。だから、そんな思いを彼女はステージから、こう表現した。

 「今日は懐かしい曲をたくさん歌いますけど、過去を懐かしがるだけじゃなくて、みんな今を生きていると思うんです。だから、みなさんと私の関係をアップデートしていきたい」

 「40周年結構頑張ったよね。みなさんも頑張ってきたでしょ」



 こういう言葉のひとつひとつが、歌と同じように客席に届く。誰にだってそれぞれの時間やたいせつな出来事があった。小泉今日子の40年はみんなの40年でもある。それを責任持って引き受けて、ちゃんと祝福することも、このコンサート・ツアーの原動力だった。
 ライブの前半、80年代のヒット曲が連発された。髪をバッサリと切り、自身の転機となった「まっ赤な女の子」(1983)は「渚のはいから人魚」(1984)と、「ヤマトナデシコ七変化」(1984)は「艶姿ナミダ娘」(1984)とメドレーに。作詞家・康珍花、作曲家・筒美京平、馬飼野康二、ディレクター田村充義らと作っていった80年代でいちばん“新しい”アイドル、キョンキョンの姿が浮かび上がる。「夜明けのMEW」(1986)でも「迷宮のアンドローラ」(1984)でも、どんなスタイルの曲であってもオリジナルのキーもテンポも変えずに歌いきってしまえる小泉今日子の“キョンキョン力”の強さを、場面が変わるたびに思い知らされた。



 さらに驚いたのは、自分のシングルの中でもっとも異色と紹介した、近田春夫作詞作曲の四つ打ちハウス・ナンバー「Fade Out」(1989)と、デビュー曲「私の16才」(1982)をメドレーにしてしまったこと。しかし、最先端のダンスビートに身をまかせた「Fade Out」と、正統派アイドルとして歌った「私の16才」が不思議とうまくつながる。実は、そこには理由があった。彼女の初代ディレクターであった高橋隆は、当時の人気ディスコ・グループ、ボニーMを意識した四つ打ちを「私の16才」の隠し味にしていたのだ。遊び心とデビュー曲への感謝がミックスされた特別な時間だった。
 前半の締めくくりは、アイドルの定義を変えた革命的な名曲「なんてったってアイドル」(1985)。ホール全体が大興奮で包まれた後、スクリーンに「夏のタイムマシーン 1982-2022」の文字が浮かび上がり、曲が流れ出す。彼女の顔写真が過去から今へとモーフィングして行き来する、文字通りのタイムマシーン。その演出に時を忘れて見惚れているうちに再び幕が上がった。ボサノヴァにリアレンジされたアレンジで、ドレッシーな装いで再登場した彼女は「夏のタイムマシーン」の後半を、今の私から過去の私へのアンサーソングのように歌い出した。

 一生懸命 今を 一生懸命駈けぬけ
 一生懸命がんばっているから
 ~「夏のタイムマシーン」



 歌い終えた彼女は「時間は過去から未来へ縦で流れいくものだけど、私には横にもつながっているように思える。10代、20代、30代とか昔の私と、60代、70代になった未来の私がそれぞれ今の私の横にいて、今の私が前に進むことによって過去も未来も動いてゆく気がする」と語った。その言葉に、覚悟も体験も知恵も楽しみ方も、小泉今日子の40年分すべてが入ってるように感じた。

 ここで今回のツアー・メンバー(“バンドメイト”と彼女は呼ぶ)が紹介される。このMCが、本来デュエット曲である「T字路」(2014)の男性パート(原曲では中井貴一)をメンバーがそれぞれ歌うという前振りにもなっていた。ツアー開始当初は〈まん延防止等重点措置〉発令中の土地も多く、厳しい状況でのツアーだったのに、誰もが制約を我慢し、この限られた時間を思う存分に楽しむことに徹した。メンバーにもスタッフにもコロナウィルスの陽性者が出なかったことを彼女がステージで発表できたのは、本当に誇らしいことだ。
 「T字路」から「潮騒のメモリー」(2013)「快盗ルビイ」(1988)への流れは、ドラマや映画から生まれたヒット曲たち。“3・11”を前にした盛岡(3月9日)、仙台(3月10日)で歌われたドラマ『あまちゃん』の挿入歌「潮騒のメモリー」は、その日のためにあったように特別に響いたはずだ。
 「快盗ルビイ」で関わった大瀧詠一や和田誠は、もうこの世にいない。彼女が作品を通じて大きな影響を受けた恩師といえる存在や家族にも、もう会えない人たちがいる。そのさびしさやつらさは、客席にいる多くにとっても身に覚えのある感情だ。だけど、彼女は「いなくなったけど、前よりも近くにいる気がする」とその思いを言葉にした。その言葉の受け取り方は人によってさまざまだろう。かつては若くて理解できずムキになっていたけど、今ならもっとあの人たちと話せる気がするという意味かもしれない。少なくとも僕が感じたのは、そんな“近さ”だった。だからこそ、作詞家・小泉今日子として自分の思いを歌のなかの物語に込めた「あなたに会えてよかった」(1991)、「優しい雨」(1993)、「My Sweet Home」(1994)の流れには、なおいっそう心を動かされた。





 楽しい時間はあっという間。「月ひとしずく」(1994)からラストは「木枯しに抱かれて」(1986)。「これが最後の曲です」「えー!」みたいなお約束のMCはしない。それも小泉今日子らしいかっこよさだ。
 アンコールでは、ツアーTシャツに着替えたメンバーと「学園天国」(1989)、そして「中野サンプラザで、サンプラザ中野さんが作った曲を歌います」と紹介して、「東の島にブタがいた Vol. 3」(1987)へ。スタッフも袖から出てきて盛り上がった。今回のセットリストでは唯一シングル曲ではないが、かつてのコンサートでの大定番だった曲だ。ツアー中はハッシュタグ「#KKPP(+地名)」を付けることを条件に写真・動画の撮影とSNS公開が特別に許可されていたのも話題だった。
 ちなみに、このツアーで当初歌われていたのは「東の島にブタがいた Vol. 2」(1987/『Hippies』収録)。それが、ツアー中盤からは爆風スランプ・ヴァージョンの「東の島にブタがいたVol. 3」のカバーに変わった。戦争反対。今ならこっちを歌いたい。ツアー最後のこの日も彼女は自分を貫いた。
 この日の最大のサプライズは、最後の最後だったかもしれない。メンバー勢揃いで客席に深々と一礼したあと、ひとりだけ舞台に残った彼女はアカペラで「また逢いましょう」(2003/『厚木I.C.』収録)を歌った。ひさしぶりに“歌手・小泉今日子”として過ごした1ヶ月半との別れを、彼女自身も名残惜しむような素晴らしいエピローグ。かつて自分で書いた「サヨナラさえ 上手に言えなかった」(「あなたに会えてよかった」)という歌詞も思い出したりしていただろうか。
 またいつか、それほど遠くないうちに“歌手・小泉今日子”に再会できる気がする。会場を後にする全員の顔がそう思っているのが、マスク越しにもよく分かった。終演後のアナウンスが、最後に「小泉今日子でした」とネタばらししたいたずらに気付いて、「またキョンキョンにやられた!」と笑いながら。




Setlist
1. The Stardust Memory
2. まっ赤な女の子~渚のはいから人魚
3. 迷宮のアンドローラ
4. 夜明けのMEW
5. ヤマトナデシコ七変化~艶姿ナミダ娘
6. Fade Out~私の16才
7. なんてったってアイドル
8. 夏のタイムマシーン
9. T字路
10. 潮騒のメモリー
11. 快盗ルビイ
12. あなたに会えてよかった
13. 優しい雨
14. My Sweet Home
15. 月ひとしずく
16. 木枯しに抱かれて
Encore
1. 学園天国
2. 東の島にブタがいたVol.2/東の島にブタがいたVol.3
https://jvcmusic.lnk.to/tour2022kkpp

*ライブ写真は2022年3月21日の中野サンプラザホール公演を撮影したものとなります。

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