黒猫同盟
Alliance de chat noir

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2021.11.02

Streaming Live「UNDEUX!!」ライブレポート

猫たちの音楽パーティーといえば『トムとジェリー』の名エピソード「土曜の夜は(Saturday Evening Puss)」。人間たちが留守になった夜に、トムが近所の悪友(ドラ猫)たちを呼び込んで、ピアノとレコード・プレイヤーを使ってどんちゃん騒ぎ。台所の食器も家具もパーティーでは楽器がわりになる。その騒動でネズミのジェリーはオカンムリだったっけ(そこから楽しいケンカが始まる)。

 上田ケンジとコイズミキョウコの新バンド「黒猫同盟」が初ライブをすると聞いたとき、まず思い浮かべたのは、そんなイメージだった。結成は一年ほど前。Spotifyで始めた小泉今日子のポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」のテーマ曲やBGMにオリジナルの曲を流したくなって、プロデューサーでベーシストの上田ケンジに話を持ちかけた。相談が行われたのは恵比寿の名店「喫茶 銀座」。そして、その場でバンド結成が決まった。

 2年ほど前から小泉さんが飼っている保護猫「小福田」。上田さんの愛猫も保護猫で、名前は「ひじき」。しかも2匹とも黒猫。喫茶 銀座で話し合ったその日に「ユニット名は“黒猫同盟”でどうだろうか」と小泉さんが発案し、すぐに上田さんが同意。新ユニット、黒猫同盟がニャーと産声をあげた。年が明ける頃にはもう数曲ができてきた。

 なんとなく舞台はパリ。2匹の黒猫になったふたり(小泉、上田)が猫目線で世界を切り取り、ニャーと鳴く。最初は歌詞は要らないかもと思っていたけど、猫には猫の主張があると、上田さんが見事に歌詞を添えていった。

 そこからみるみるうちに曲が揃い、配信シングル「Un chat noir」「UNDEUX」、3曲入りのEP『Enchante』をどんどん配信。2021年9月29日(招き猫の日)には、黒猫同盟のファースト・アルバム『Un chat noir』が発売された。しかもCD、レコード、カセット、配信の4形態で。今回の配信ライブの冒頭で小泉さんがかけていたのが、今回リリースされたアナログレコード盤。→そうそう、今回はTシャツやセーター。カーディガンと一緒に、ポータブルアナログプレイヤーも黒猫同盟仕様で販売されたのだ(ポータブルカセットプレーヤーも同時発売)。


 もちろんふたりは音楽の世界では大ベテランだけど、黒猫同盟の上田ケンジとコイズミキョウコとしてはあくまで新人。デビュー作は当然ながら全曲新曲だ。考えてみてほしい。来年でデビュー40周年を迎えるシンガーが、新ユニットで、全部新曲のライブをするってことが、どれほどありえないことか。

 「世界黒猫の日」である10月27日に配信された今回の初ライブも、当然全曲が初演奏の初歌。初めて尽くしの状況で緊張もそれなりにあるはずなのに、ふたりは自然に笑いながらライブを始めた。



 2020年8月、そして今年3月と開催されてきた配信ライブ「唄うコイズミさん」で、小泉今日子の大ヒット曲や隠れた名曲をアコースティックな新アレンジで歌う姿も魅力的だったけど、自分で新しいことをはじめたときの小泉さんはさらにひときわ輝く(そんなことは長年のファンならとっくにご承知でしょうけど)。

 ライブはポッドキャスト『ホントのコイズミさん』のオープニングテーマでもある「Un chat noir」でスタート。番組だったらすぐにナレーションが入るけど、この日の小泉さんは歌った。しかも、自らヴォコーダーを操りながら、ロボットみたいに変えた声で。



 ステージ上には黒猫同盟の小泉さんと上田さん、そして周りを囲む仲間猫たち。この日のために用意された特製オーシャンドラムで小泉さんが波の音を作り出し、サンプリングされた小福田とひじきの鳴き声が絡まっていくと、気分は南仏トロピカル。エキゾチックなグルーヴの「プロヴァンスでニャー」が始まると、上田さんが今日の演奏メンバーを紹介してゆく。アルバムのレコーディングでも活躍したふたりのドラムス&パーカッショニスト、小関純匡、松原“マツキチ”寛。アコースティックギターのakkin、エレクトリックギターの名越由貴夫、キーボードの渡辺シュンスケ。

 ミュージシャンたちのことを英語のスラングで“キャッツ”と呼ぶことがある。今夜ここにいるみなさんにもそれぞれの風貌にも自分らしいこだわりがあって、彼らはまさに黒猫同盟をサポートすべく集まったキャッツだなと感じた。



 黒猫同盟の上田さんや頼れるキャッツに囲まれてリラックスしているせいか、小泉さんの歌もMCもいつになく楽しそう。猫になりきってひたすらニャーニャー言い続ける曲も楽しいけれど、「星降る夜に傘の下で」や「黒猫探偵団」あたりは、小泉今日子のオリジナル・アルバムに紛れ込んでいてもおかしくないと思うくらいしっとりとした名曲。黒猫同盟ではあくまで猫の気持ちで歌ってる小泉さんだけど、最高のメンバーと一緒に歌う楽しさがあふれ出してる今夜みたいな夜が、これからもっと生まれそうな予感がある。

 中盤、小泉さんと上田さんは、こんなMCをした。

 「楽しいですね」
 「楽しい曲が多いですね」
 「猫ちゃんだからね」

 それ以上の言葉はなくても、心から楽しんでいるってわかる。誰のためでもない自分のために行動するのが猫だから。そんな姿が愛らしくて頼もしいのが猫だから。

 楽しい時間の締めくくりに黒猫同盟が選んだのは「イマノワタシ」。飼い主が見つかった保護猫の気持ちを言葉にした歌だけど、人間だって同じような気持ちで毎日を生きているんだと思う。いろんなことを知って、驚いて、笑って、悲しんで、学んで。どんな1日だって決して繰り返しじゃない。コロナ禍でいろんなことができない気分になったかもしれないけど、それでも昨日と同じ今日はないし、毎日“イマノワタシ”がいるのが楽しいじゃない? 猫の教えにジーンと来た。



 あっという間の1時間ちょっと。音楽で猫語を翻訳する世界唯一のユニット、黒猫同盟の初舞台を堪能した。彼らの伝える「楽しいですね」がクセになって、次のライブはいつだろうともう楽しみにし始めている自分がいた。

text : 松永良平(リズム&ペンシル)
photographer: Kentaro MINAMI







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