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佐山雅弘の音楽旅日記
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佐山雅弘の音楽旅日記
毎回、彼の全国各地での旅のエピソードをお送りします。
 舟形山のてっぺんを見ている。近くの木々に遮られて頂上付近の一部しか見えないのだが、こちらから見て右方向に本当に舟の舳先から胴体に到る形になっているのだそうだ。双眼鏡を下に廻し向けるとこりゃなんだ、静かなパターン模様の現代アートのような絵面。裸眼で確かめると、穏やかな川面であった。肉眼じゃなくて双眼鏡ってのもそれはそれで独得の感慨があるもんだわいと思いながら何かもう一つ引っ掛かるものがある、、、そう!昼間みた着物だ!

 ここ小野田町でのUSO-who コンサートを急遽引き受けてくれたのが、笠原さんという、着物製作の先生で、所謂呉服職人というよりは artist として、受注してから糸を縒り、染め、機織り、云々して作り上げる。少し前の立松和平著『20人の現代着物云々、、、』に取り上げられているような作家なのだった。東北道古河インターをおりて一時間程山間部を走って辿り着いたその工房では何人もの女性が忙しそうな中にも明るく働き、工程ごとに別れた部屋部屋も清潔感にあふれていて実に気持ちのイイ職場との感。その見学も楽しいのだが、「作品を見ますか」と通された奥の院で納品直前の、つまり完成された作品や、反物になっている、ということはいよいよこれから着物にする状態のモノ等を拝見するとまるで近代の美術館。瀬木貴将の弁によるのだが、実に contemporary なのである。思わず、僕にひとつ作ってもらえませんかと聞いてみると、年明けの展示会のテーマが男物なので、ひとつは佐山にあわせて作ろうかと言って下さった。嬉。色その他お望みは有りますかと聞かれたが、そこはアーティスト同士、これから聞いていただく僕の音楽と、この土地を去るまでの短いが濃密な時間を一緒に過ごす雰囲気から自由に発想してもらうことにする。来年の六月頃どんな着物を着られるかとても楽しみであることだが、まわりの人々が ”じゃぁ着物を着て弾くコンサートやらなきゃね”などと勝手な事をいうのは困ったものである。

明くる日にお世話になった二戸のマダム軍団ものびのびと好きな事をおっしゃっては笑わせたり困らせたりしてくれるのだが、そこからひょいと面白いものができちゃうからわからないものである。 盛岡の jazz bassist 伊藤英彦の縁で知り合った、さる中学校のPTAなかまである大沢さん阿部さん桑畑さんたち六人が生演奏の楽しさに取り憑かれてコンサートを主催するチームを結成してしまい、第一弾で僕のソロを開いてくれた。謝。が、ライブハウスは勿論ないし、会館を借りるノウハウも手がつかない、そこで、、こどもさんたちの通う、あるいは通っていたその中学校の女性校長にかけあって、体育館でのピアノソロというあまり聞いた事のない(そりゃそうだ、音響的にすごく不安があるでしょう)スタイルがうまれ、ずいぶんと広いから大丈夫だろうてんで子連れの母親(含乳飲み子)もどうぞお越し下さいなんていう無茶な話の成りゆきになってしまったことではあった。

 とても不安。

 まぁ jazz だし、心強い共演者もいてくれることだからと意を新たに会場に到着すると、お母さま方が何人もでピアノの周りに取り付いてなにかしている。近付いてみるとなんと古〜〜い upright piano の塗りの禿げた所をマジックでぬってらっしゃったのだった。

 とても不安。
 そして開場。本当に子連れがわんさか来ていて知り合いと挨拶やら世間話に花が咲いている。

 とてもとても不安。

 ところが、である。コンサートが始まってみると見事にシーンと聴いてくれるわ、ブギなどやると凄くノっちゃってくれるわでとても楽しくて感動的な一夜になっちゃうのである、これが。後で聞くと、就学前の子供のいる母親は東北の土地柄もあってかなかなか家を空けられないし、音楽は好きでもコンサートは大抵未就学児はお断りなので、話を聞いてから指折り数えてこの日をまっていてくれたそうなんである。ええ話やないか。たいがいのことに打たれ強いってのがこういうことで思わぬ得をする。着物工房の話にしたって、あんなにずらりと惜し気も無く作品を作家自身に見せてもらうなんてのは余程の旦那衆でもなきゃないことだろうし、ありがたい身の上だとつくづく思います。
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