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毎回、彼の全国各地での旅のエピソードをお送りします。 |  |
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たのもしい若人たちの巻
車で走り抜ける中国道は老いた山々のまなざしを感じて心なごむものだが新幹線での博多〜福山はトンネルばかりでつまらない。月猫絵本音楽会福岡公演を終えたその足で読み猫能祖将夫氏とふたりの演し物”ジャズ絵本”福山公演に前乗り。こちらの仕切が福岡さんという人なのでぼくは何を勘違いしたか”ちょうどいいからそのまま九州をまわろうか”と伝兵衛にもちかけて、博多〜福山(広島)〜長崎というきつい移動を自らに課すはめとはなったのだった。ばかですねぇ。岡山ならモグラ(ライブハウス)もあるし友達も多いが福山という知った店も友人もいない町に夕方についても持て余すばかりだなぁとぼやいているうちに、いいところに毛が生えた、じゃなくていいことを思いついた。
来年明けに松田昌に連れられて伺うことになってるジャズの店はたしか福山だったではないか。そこを覗こうと昌マネージャー前川氏に問い合わせると、次回はライブハウスではなくホテルを借りてのことだというので、どこかいかしたジャズ屋を教えてもらってくれと気軽に頼んだらこれがおおごとになったのだ。
福山駅に降り立つと若い男女が”お待ちしておりました”とお出迎え。太田世聖夫(ヨセフ)という名の若者は26才で連れの女性は20歳とか。二人ともハッシードラムスクールのスタッフ。このハッシーこと橋本氏が松田昌の友人で、今日は仕事で僕の相手ができないからと、若い衆を寄越したということらしい。せっかくだけど化粧(月猫絵本音楽会は猫メイク。勿論ネコのまま電車に乗っていたわけではないが多少の落とし残しもあるし髪は染まったまま)も落としたいし荷ほどきもあるからとロビーで1時間ほど待ってもらった後に連れられたのはいかしたジャズハウス。ピアノもあってどうやらマスターはなにかのプレイヤーの様子。いい感じなのだが腹がへっていたので店のママに教わって2軒隣の瀬戸内料理屋で軽く食事をしてから戻ることにする。その間も若い二人(取材したところによるとカップルというわけではないらしい)は待っていてくれるのである。
感心する前に平気で待たせる自分に疑問を感じなくてはならない。
やっと落ち着いて飲みながらの音楽談義から能祖氏のこわ〜い話、二人の師匠のうわさなどいわゆるとりとめなくも楽しいお酒の時間が過ぎて行く。こういうイイ店のある街に住んでるのはいいねと何かの拍子に言うのに応えて、岡山からきているのだと言う。つまり二人は、師匠が近々共演する人がたまたま福山に来るというだけで、それも今日まで会ったことのない人に会うのに、急遽岡山から駆け付け、1時間を2回も待たされた挙句、終電まで逃したのだった。
ひどい。われわれは人非人である。
驚いて終電のことを尋ねると ”電車に間に合うよりこうしてお話をしている方が価値があります”と、これには感激した。
終電をなくした高円寺次郎吉でまだ飲めなかった酒をちびちびとやりながら本田タケヒロ氏の話を聞いて、2時間程の世間話の合間にスケールのことなどちらりと教われるのが得難い経験であったことなど思い出す。今は先輩より先に帰っちゃならぬなんていう暗黙のルールもないしお店もさっさと片付けるところが多いので、こういうだらだら飲んでるうちにためになるんだかならないんだかわからぬながら楽しく過す夜というものが少なくなっているが、その夜は思いがけずイイ思いをさせてもらった。
とんぼがえりの長崎 goody goodyは最近移転して以前の半分程にせまくなったのだがかえっていい感じ。ジャズ屋にながくあるとヤマハCー3もよくひびく。ここでもいい若者と出会った。
長崎大学のジャズ研だという。考えてみりゃジャズ研くらいあるだろうけれど、なつかしいような新鮮なような響きである。地元の大学生に慕われてる店のマスターというのはいいものだ。青春には欠かせないパーツだといえる。部長だというピアニストと前部長のべーシストがうちあげセッション。ちょいと弾いてはたらたら飲んで話して、やはりありそうでなかなかない貴重な一夜。ベースは特に頼もしいプレイ。小牧良平、やがて上京するつもりだという。楽しみである。入学した頃PONTA BOXをよく聴いていたそうである。ぼくにとってバンドのほんの一時期の間に若者がジャズに出会い、研鑽を積んでプロになろうとする、つまりその先の身の振り方を決めるまでの出来事が起こっていることに思いを馳せれば愕然とするとともに負けないように濃い時間を過したいものだと意を新たにすることだった。
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