ディレクター湯川治往が語る“バッパーズ”
祝 27年

同級生が渋谷の芽瑠璃堂で、変なレコードを買ったと言って、”Swing back with the Swinging Boppers” を家に持ってきてから早二十数年、さらに自分がレコード会社に入り、NOROで『ゴミの日くるまで』を聴いてから18年、さらに当時30代前半だった吾妻氏、牧氏、名取氏に新宿の飲み屋に来てもらい、「ウチでレコード出させてください!」と吠えてからずいぶん時がたちました。
相変わらず、吾妻氏はステージで、スタジオで、そして、主に飲み屋で素晴らしいエンタテイメント性を発揮しております。
当時、アイドルセクションで堅苦しくプロジョブ的な制作の仕事をしていた私にとって、ビクターの301st. で録音した『齢には勝てないぜ』、『物件に出物なし』、『誰がマンボに“ウッ!!”をつけた』3曲のデモは圧巻であり、「なぁ〜んだ!音楽ってこれでいいんじゃん!バッチグー!!」なんて思ったものです。
(このデモ3曲は、そのまま本ちゃんのベーシックになっております。省エネのため‥‥)
その時の編成会議はたしか、荻野目洋子、酒井法子、高橋由美子、小泉今日子、と言ったようなラインアップで、その中にバッパーズ!?‥‥なにそれ?だれ?といった内容だったと思います。
このような音楽にまったく免疫を持っていないレコード会社のおじさん達には、こうゆう音楽はわかんないだろうなぁ?なんて思ったものです。(その予感は当たり、後に大変苦労することになるのですが‥‥)
ただ、当時小泉今日子のディレクターだった先輩が会議中隣の席で「今日の編成会議はおまえの優勝だな」と言ってくれて嬉しかったのは何故だかよくおぼえています。
そんな中、”STOMPIN’ & BOUNCIN’”のレコーディングは混沌と爆笑のうちに進んで行きました。
ホーンの人に「今のピッチが悪いからもう一回やろう」と言うと、「やり直すんだったら中学からやり直さないと無理だ!」とか「ピッチの事を言うのはプライバシーの侵害だ!」とか‥‥「もういいよ〜早く飲みに行こうよ〜」とかetc.etc…
TDの時には、ビクター203st.の控え部屋で毎日宴酣。連日のビールの買い足しで、近所の酒屋のおじさんに「いいね〜!ビクターさん。毎日宴会で!!」なんて言われる始末。吾妻氏も自分の執筆ものに『1時間5万円の飲み屋』とかいって、イラスト入りで書いていたような‥‥
まったくこまったオジさん達です。と、思ったものです。(でも今考えると、みんな34,5歳だったんですね!若っ!)
楽曲に関しては、CD中の吾妻、牧、両氏による英語のライナーで十分堪能していただけると思うのであえて書きませんが、『ゴミの日〜』のような日本語のバラードを歌ってほしく、『夜まで眠りたい』を録音したのが記憶にあります。
ライブで演ることは、まったく無いですが今でも秀逸な失恋ソングだと思っています。吾妻さ〜ん!本当に譜面なくしたんですかぁ〜???

それから、約11年の月日を経て”SQUEEZIN’ & BLOWIN’”のリリースとなるわけですが、その間、楽曲制作のペースだけではなく、20万30万枚売れるものじゃなきゃCDを出すな!といったわが社の風潮では、なかなかリリースのきっかけがつかめず苦労したのも事実です。インディーズ、自費制作も考えたほどです。でも、運良く、しばらくいた演歌のセクションからリリースが決まったわけです。(編成会議は森進一と一緒だったような‥‥)
この時には、会社の中より外の人たちの方が音楽好きが多く、バッパーズの熱烈なファンが多いことを実感しました。ちゃんと聴いてくれてる人はいるんだなって。この時に、すばらしい記事、インタビューを載せていただいた出版社、ライターの方々には本当に感謝しています。
楽曲解説に関しては、やはりCDのライナーを参照していただきたいですが、前作”STOMPIN〜” の後にやった、今は無き紀陽銀行のFM802のタイアップの曲がモチーフになっている『嫁の里帰り』、『飲むのはやめとこう』の2曲は印象深いです。あと『やっぱり肉を喰おう』で、当初、歌詞を「クジラもドンドンつかまえちゃお」って歌おうとしたら、会社から「グリーンピースがビクターに抗議行動に来たら、君はいったいどーするんだっ!!」って怒られたりもしました。くだらないです。言論の自由はありません。また『知らぬまに心さわぐ』を自分の作詞で歌ってくれた松竹谷清さんが、自分のJuke Jointを休みにして札幌から歌いに来てくれた時、ホテルに迎えに行き、先に2人でスタジオに入り、清さんがおもむろにブースの片隅で自分の持ってきたボロボロのアコギでこの曲を歌っているのを聴いてむちゃくちゃ感動したのも忘れられません。
吾妻氏に関してのエピソードは、無数にありますがここでは書ききれないので割愛させていただきます。ライブのMC、もしくはインタビューなどで垣間見てください。すみません。

とりとめもない三流エッセイ風の文章になり恐縮至極です。
ただ、バッパーズの音楽に接して一つ確信したことは、音楽は人となりなんだな、と言う事です。昨今、意味のない無理くりラブソング、絵空事やスタイルだけの反戦や反政治的語呂合わせ歌詞、コンピューターによるただの切り貼りパチパチ音楽が蔓延していますが、いくら些細で身近な事を歌っていても人力エンタテインメントはやっぱ凄いっす。その人が出ますから。
ライブが面白い人は、飲み屋でも、新幹線の中でも面白いんです。

相変わらず、吾妻氏は500円以下のウーロンハイしか飲まず、ベースの牧氏はでっかいウッドベースを抱え、帰りの手段は終電か絶滅寸前のワゴンタクシー(エレベは全然似合わないし弾く気も無い)。ドラムの岡地氏はビートは日本一だけど音が死ぬほどデカく、バンド内難聴者続出,等々‥‥考えてみたら枚挙に遑がないほど、弱点だらけです。
そうなんです!!
バッパーズは弱点だらけです。
でも無敵です。
なぜならば、ビートとソウルがあるからです。
圧倒的に無敵です。
バッパーズは弱点だらけで無敵なんです。
優勝です。

バッパーズのディレクター兼 事務所のオヤジ兼 ローディー兼 ボランティア介護マネージャー
湯川 治往

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