おみくじ四兄弟

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2020.03.25

「おみくじ四兄弟」初の朗読劇「おみくじ四兄弟 春はおむすび!」公演レポート

 WEBサイト「KIKI by VOICE Newtype」で、毎月ピクチャードラマが配信されているオリジナルコンテンツ「おみくじ四兄弟」が、4月7日(日)、東京・ひの煉瓦ホールにて、初の朗読イベントを開催。個性豊かな「木々神社」の看板息子たちの、とある春の物語が繰り広げられた。本稿では、昼公演の模様をレポートする。



 障子を模したスクリーンの向こうから登場し、境内へと誘うような優しい笑みを見せる長男・柊役の羽多野渉。そこへ、弟たちが次々と現れる。次男・文人と同じように赤いフレームのメガネを掛けた斉藤壮馬。大好きな猫とのひとときが忘れられない様子の三男・青葉役の西山宏太朗。息を切らして駆けつけたのは、四男・志季役の武内駿輔。白い袴をまとい、凛とした佇まいの演者たちに、客席からため息がこぼれる。なお、観客は、この神社の名物であるおみくじを引きに来ている「参拝客」という設定。会場中を見回し、その盛況ぶりに喜ぶ柊たちだった。

 あたたかな食卓を囲みながら、何でもないことで笑って、怒って、ケンカして。事件は、そんな四兄弟の穏やかな日常に舞い込んだ、商店街の会長からのFAXに始まる。そこには、街はずれにある「春山商店街」で「さくらまつり」を開催することが記されていた。柊が、得意のお人好しで、四兄弟揃って商店街の活性化を図ることを約束していたのだ。

 柊は、どうにかこうにか弟たちを連れ、さっそく商店街を訪れるのだが……。入口に立った瞬間の彼らの表情が、すべてを物語っていた。春山商店街は、日曜午後とは思えないほど閑散とした、いわゆるシャッター商店街だったのだ。ゾンビが徘徊していてもおかしくない、おどろおどろしい雰囲気に、すっかり怖気づく文人と青葉。しかも、それまでのポカポカ陽気はどこへやら。先行きをあらわすように、空には暗雲が立ち込め、突然の雷雨に襲われてしまう。

 「僕たちに、何ができるんだろう?」。途方に暮れながらも、アイディアを出し合う4人。柊は「ランチのできる、オシャレなイタリアンレストランを作ろう」と自身のデートコースをなぞるような提案をし、弟たちをむず痒くさせる。歌が得意な志季は「商店街のテーマソングを作って」と無茶振りされ、即興ソングで美声を響かせた。文人の口からは、キラキラとした効果音と共に美しいキャッチフレーズが溢れ出すが、そのくさいフレーズの恥ずかしさに青葉は「ゲロー」。そんな青葉は猫カフェならぬ「猫商店街」にしたいと願うのだが、如何に猫が可愛いか、自ら体をはってアピールするはめになってしまう。舞台袖に引っ込んだかと思いきや「青葉猫ちゃん」としてあらわれ、床に寝転がったり、3人から寄ってたかってくすぐられたり……。そんな、とっちらかった状況を収拾するべく、柊は提案する。「本物の猫は難しいけど、ゆるキャラなら良いんじゃない?」。

 こうして、劇中で、柊を司会に、弟3人がフリップに自分の考えたキャラクターを描くという、まさかの「ゆるキャラ選手権」が開催されることに! 抽選で「春」が共通のコンセプトとして決まったのだが……。志季が描いたのは、タンクトップ姿のいかつい男性に見えなくもない「あけぼのちゃん」。頭にフキノトウ(?)を飾るところには、可愛らしさが感じられる。文人は、目の彫りが深すぎてほとんどモアイの「春山くん」。頭から桜の木が生えており、周りにハートが飛んでいるのは「花びらのように舞い散る愛」を表現していると語る。青葉は、こけしのようなフォルムの3体の人物を描き、「春」という漢字を分解すると「三人の日」ということで、この3人が集まると春になるのだと力説した。観客の拍手によって優勝を決めるはずが、見事に票が割れ、柊は「合体させよう!」と、まさかの英断。重ねたときのサイズ感も絶妙で、思わぬ兄弟の絆を感じる結果になった。

 最初は「ゾンビタウン」をガラッと変えようとしていた4人だが、兄たちの役に立ちたいという末っ子の思いをきっかけに、商店街そのものの魅力に気づいていくこととなる。2組に分かれてもう一度商店街を回った際に出会った、おむすび屋さん。店を一人で切り盛りしているおばあちゃんは、何の具を入れたか忘れてしまうらしい。何が出るのか、ドキドキ、ワクワク、ハラハラのおむすび……。そこから、木々神社のおみくじとのコラボを思いついた、志季。兄たちもそれを絶賛する。

 そんなこんなで、準備が本格的に始まった。四人並んでのお参りや、手を重ね合って気合を入れた円陣など、本番に向け、心を一つに結ぶ兄弟たちの姿に胸が熱くなる。結果、さくらまつりは大成功に終わった。現実は厳しく、その後はまた客足も遠のいてしまったが、それでも商店街の人たちは以前よりずっと楽しそうに、日々を過ごしている。互いを思い合う優しい心にあふれた兄弟たちのまなざしが、商店街に熱い息吹を与えたのだ。

 そもそも、なぜこんな大事な仕事が四兄弟に任されたのか? 最後に、柊からこんないきさつが語られた。会長が、商店街の命運を託して引いたおみくじが「大凶」だったとき、偶然居合わせた3人に励まされた。そして、その気持ちに感動し、依頼しようと思ったのだ、と。まさかの「大凶」をひっくり返し、枯れ木に笑顔を咲かせた〝花咲か兄弟〟の物語であった。

 柊の言動は軽いが、その根拠のない自信は、弟たちの背中を押すパワーとなっていく。一方、女の子のこととなると寄ってたかってからかわれてしまうところにも、愛すべき羽多野のキャラクターがにじんでいた。斉藤の動じない表情は、まさにマイペースな文人。くさいセリフも、自然と華をまとって放たれる。西山は、さんざんみんなにのせられて、遊ばれて、ふてくされるところまで、反抗期ながら根は素直な青葉の可愛らしさと映る。憧れの兄たちを前に頑張る志季の真っ直ぐな思いも、最年少の武内の心のうちを感じさせる。本編中は封印していた渋い地声で話し始めた途端、そのギャップで先輩たちを感心させていた。

 友だちとも違う、兄弟だからこその信頼感、軽口を叩ける関係性。同じ事務所に所属する4人の演者による等身大の関係性が礎となり、キャラクターたちの軽快なやりとりともつながる。会場には、この作品でしか味わえない空気、お芝居の面白さが、確かにあった。

「みなさまが笑ってくださったこともすごく心強かったです!」(武内)
「衣装が乱れ、舞台袖に入った瞬間に急いで直していただくというハプニングにも見舞われました(笑)。僕自身は会えていないので、いつか〝青葉猫〟に会いたいです!」(西山)
「これまでは短いピクチャードラマという形で配信させていただいてきましたが、長いと、いろんなことが起こりますね(笑)。和気あいあいとした四兄弟の日常を楽しんでもらえていたら、幸いです」(斉藤)
「ナマでやると、こんなにドキドキするものなんだなと思いました(笑)。この楽しさをみなさんと共有できて嬉しかったです。まだまだ、この先にも目指すべき展開がありますので……これからも『おみくじ四兄弟』を、よろしくお願いします!」(羽多野)

 挨拶に続き、声を揃えて「ありがとうございました!」と深々と頭を下げる4人に、桜吹雪がごとく大きな拍手が降り注いだ。










撮影:山口宏之
文:キツカワトモ


朗読劇「おみくじ四兄弟 春はおむすび!」
日程:2019年4月7日(日)昼/夜
会場:ひの煉瓦ホール(日野市民会館)
脚本:和場明子
出演:羽多野渉、斉藤壮馬、西山宏太朗、武内駿輔

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