ズーカラデル・吉田崇展インタビュー

ズーカラデルは「僕ら」のバンドだ。7月14日に発表されたデジタルシングル“未来”は、そんなことを改めて感じさせてくれる名曲である。生活と価値観がどちらもガラリと変わり、心も体もバラバラになってしまった世界の中で、吉田崇展は「ひとり」に寄り添いながら、それでもいつかもう一度、みんなで声を合わせて歌う未来を夢に見る。ゲストプレイヤーのピアノを加え、確実にビルドアップされた3ピースのアンサンブルも含めて、インディーズ時代の代表曲“アニー”を今に更新するかのような手応えも十分。このタイミングでいま一度これまでの歩みを振り返りながら、「僕ら」を歌う“未来”に込めた想いと、充実したバンドの現在地について、吉田に語ってもらった。

7月14日リリース「未来」


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音楽人生の転機だったズーカラデルの結成と、音に対する理解が育ち、音楽の懐の深さを再確認した2020年

――ズーカラデルの結成は2015年、上京してきた2019年に吉田さんは30歳と、決して若くはなく、地元・札幌での活動期間が長かったわけですよね。これまでの人生の中で、いくつかの選択肢の中から音楽を選び取ったのか、それともずっと「音楽しかない」という感覚だったのか、どちらが近いですか?
吉田
いくつかの中から選んだという感覚はほぼないですね。もともと未来のことを考えるのがすごく苦手で、十代の頃からずっと、その日のことくらいしか想定できずに生きてきて。ただ「音楽をやめる」という選択肢はなく、その流れの中で「今だったら、これまでとは別のバンドができるかもしれない」と思って、そのとき近くにいたメンバーと一緒に今のバンドを始めた感じです。
――過去のインタビューによると、ズーカラデル結成前は今よりも暗めの、ポストロックとかに影響を受けたサウンドを志向していたそうですね。
吉田
当時よく名前が出ていたのはtoeやモグワイ、あとはレディオヘッドとかシガーロスも好きで、重層的な音の気持ちよさがあるバンドが好きだったんですけど……全然やり方がわからなくて(笑)。
――toeやモグワイというとインストバンドですけど、当時は歌に対する執着もそこまでなかったわけですか?
吉田
当時は「インストでもいいかな」ぐらいの気持ちでした。歌えば楽しいとは思ってたんですけど、「歌が絶対にあってほしい」という感じでもなかったですね。
――だとすると、歌が中心にあって、比較的シンプルな3ピースのアンサンブルを基本とするズーカラデルを始めたことは、かなり大きな転換だったわけですよね。
吉田
それに関しては結構明確に「もう諦めた」と思った瞬間があったんです。向いてないというか、さっき言ったバンドみたいなことをそのときの自分がやろうとしても手に余るし、もっと単純に、自分の中の原始的な波とはシンクロしない部分があるなと思って、そういう状態でずっとバンドをやるのはしんどいなって。その「諦めた」っていうタイミングからしばらくして、「俺はポップな歌の方が得意っぽいから、そろそろそういうバンドをやっちゃおう」と思ったのも明確に覚えてます。
――20代前半だと憧れもあって、ちょっと背伸びをしようとしていたのかもしれないけど、きっと原体験としては今のズーカラデルに通じるポップな音楽性があったんでしょうね。
吉田
そうかもしれないです。最近改めて思ったりもしたんですけど、僕音楽自体すごく好きだなと思いつつ、なんだかんだ、たぶん「歌」の方がより好きなんだろうなって。それも日本語の、言葉と音が混ざったものがすごく好きなんだろうなと思ったりして。それこそ小さい頃から聴いてきたJ-POPとか、そういった音楽がより深い自分のルーツとしてあるんだろうなっていうのは思いますね。
――「最近改めて思った」というのは、何かきっかけがあったんですか?
吉田
今また新しい作品に向けて曲を作っていて、みんなで集まってアレンジをしたりしてるんですけど……より音楽的になってきていて(笑)。今めちゃくちゃ無邪気な物言いをしちゃいましたけど、でも本当にめちゃめちゃ音楽的な、かっこいい曲ができてきていて、すごく嬉しいなと思ってるんです。そういう曲ができてきた中、「何で今までこういうのやらなかったんだっけ?」って考えると、「昔はできなかったんだ。だって、もともと俺は歌の方が好きだもん」と思って。でも、3人でやっていくうちに、音に対する理解が育ってきて、昔できなかったことができるようになってきた。今はそういう状況ですね。
――その気づきや変化というのは、コロナ禍の中で自分自身と向き合う時間が増えたこととも関係していますか?
吉田
ライブが一気になくなったことはバンドにとってめちゃくちゃ大きくて、今まではライブでしっかり聴いてもらって、そこで世界を完成させるような感覚があったんです。でも、ライブがなくなって、時間が膨大にある状況になって、改めて一つひとつの音に向き合うと、「そういえば、もうちょっと自由な世界だったよね」というか、音楽をやるということは、膨大な選択肢の中から、自分がこれだと思う音をひとつずつ見つけていくものだったなって、すごく思いました。昔好きだった曲を聴き返すと、「やっぱりめちゃめちゃかっこいいな」と思ったりしながら、昔は聴こえてなかった音も今だったら聴こえたりして、改めて、音楽の懐の深さを確認できたというか。
――音楽の喜びを再認識したというか。
吉田
喜びの種類が、今までは100種類くらいだと思ってたけど、何万、何億だったよね、みたいな(笑)。もっといろんな楽しみ方があるよなって、ヒシヒシと感じております。

「僕ら一緒だね」みたいなことを言うのって、全然よくない。それでも今回は「僕ら」って言いたかった

――では、新曲の“未来”について聞かせてください。ストレートなタイトルが表しているように、コロナ禍の現状を見つめた上で、明確なステートメントを掲げる曲になっていて、こういう曲は珍しいと思うんですけど、その上で非常にズーカラデルらしい、文句なしの名曲だと思います。曲のアイデアはどこからスタートしたのでしょうか?
吉田
この曲はサビ頭の一行〈ここからは僕らのもの〉がメロディーと一緒に出てきて、これをなる早で歌いたいと思ったんです。個人的には、やっちゃってはいるんですけど。
――「やっちゃってる」というと?
吉田
「僕ら一緒だね」みたいなことを言うのって、全然よくないと思って暮らしてきてたんですよ。あえて「僕ら」って言葉を使うことは今までもあったんですけど、今までは「全然よくない」っていう前提に立ってた。でもなんか……今はそうじゃなくて、素直に、前向きな気持ちで、「僕ら」を言えるかもしれないという予感があったんです。今までは「僕ら」と言っても、一人ひとり別々の場所に立っていて、それぞれの生活があって、バラバラなのがいいんじゃないかっていうのがあって。
――人間誰一人として同じではないし、その人らしく生きることが何より重要だ、ということですよね。
吉田
そうですね。でも今は、バラバラだけど、同じ状況の中に生きてるし、似たような気持ちになったりすることあるじゃんねっていう方が強く感じられて、「僕ら」って言いてえなあと思って。
――この一年は会いたい人にもなかなか会えず、ライブで集まることもできず、その中でいろんなものが失われていった一年だった。Aメロではそれに対する怒りや悲しみも歌われていますが、そういった状況だからこそ、〈ここからは僕らのもの〉というラインはすごく力強いし、優しさを感じます。
吉田
冒頭は〈この世のすべてをもっと知りたいわ〉で始まっていて、ここはこの曲を作り始めた頃からずっとある一行なんですけど、今って本当にいろんな嫌なことがあると思うんです。今まで出会ったことのないウィルスがそこかしこにいるらしいとか、それに対応するためにいろんなことが行われているけど、それによってまた誰かがめちゃくちゃへこまされてるらしいとか、はたまた、こういう状況でもそれを利用していい思いをする人もいるらしいよとか、そういうふんわりしたいろんな嫌なことが情報として耳に入ってきやすい世の中だと思うんですよ。
――確かに。
吉田
その一つひとつがめちゃくちゃ最低だなと思いつつ、でもそれをちゃんとわかってない自分もいるんですよね。どういう背景で今そういうことが起こっていて、どうすれば解決するのか、全てを理解することは全然できていない。今そう感じてる人がめちゃくちゃ多いと思っていて、それをただ「わからんし、むかつく」って書くだけじゃなく、「むかつくけど、あいつにも事情があるかもしれないよね」ってことを書ければいいのかなと思って書きました。
――ただ起きてしまったことを否定するだけじゃなくて、自分自身や世の中を見つめ直す契機にして、自分が変わっていくことで、これから先の未来も変えていける。〈ここからは僕らのもの〉であり、“未来”というタイトルからはそんなニュアンスも感じます。
吉田
そうであれば嬉しいですね。
――ちなみに、〈銀紙の星が水面を照らした〉という箇所は、THE BLUE HEARTSの“未来は僕等の手の中”の〈銀紙の星が揺れてら〉を意識してると思うんですけど、曲のテーマ自体、“未来は僕等の手の中”がインスピレーション源になっていると言えますか?
吉田
そうですね。「未来は僕等の手の中」って言葉ほど、今の世の中にあってほしい言葉はないなと思ったりして、それは間違いなくこの曲に繋がってます。THE BLUE HEARTSはパンクロックの象徴というか……パンクロックに限らず、僕がいいなと思うものの理想像に一番近いものかもしれない……まあ、単純にファンなんです(笑)。
――アレンジ面では、山本健太さんをゲストに迎えてのピアノを特徴に、エンジニアの南石聡巳さんと作り上げたロックバンドらしいサウンドと、跳ねたリズムの組み合わせが未来への推進力を感じさせ、歌詞とのマッチングも素晴らしいと思いました。
吉田
この曲はバチコーン!としたサウンドがいいと思ったんです(笑)。今までもズーカラデルのひとつの良さとして、こういうラインの曲がいくつかあった気がするんですけど、そういう我々の得意なものを、もう一歩押し進めた曲にしたいっていうのは最初から思ってました。そこにめちゃくちゃかっこいいピアノを入れてもらえたし、あとはライブがなくなった中でも曲作りや録音はずっとしていたので、バンドもより上手くなっていて。今までのズーカラデルをいいと思ってくれた人もきっと好きになってくれると思うし、ちゃんと自分たちが前に進んでる手応えもある曲になったなと思います。

進みたい方向に進めている新曲たち。ライブで披露して、いつかまたみんなで一斉に歌えたら

――先日ティザーが公開されていたように、“未来”以降も新曲のリリースが続くんですよね?
吉田
そうです。今日インタビューの前にひさしぶりに昔の曲を聴き直して、「いい曲書いてるじゃん」って気持ちにもなったんですけど(笑)、新しい曲たちはちゃんと進みたい方向に進めていて、自分たちを更新できてるなっていう気持ちが間違いなくあります。
――ちなみに、もともと未来のことを考えるのはあまり得意じゃないという話もありましたが、バンドの「未来」については、現状どんな風に思い描いていますか?
吉田
「誰かみたいになりたい」とかはないんですけど、例えば、有名なバンドがデカいステージで演奏していて、サビで歌うのをやめて、お客さんが一斉に歌うみたいな、ああいう風景はめちゃくちゃいいよなって、ずっと思っていて。それを目指してやっていくわけではないですけど、自分の視野の中にはずっと入ってる気がします。
――“未来”には〈何百回も声を合わそう〉〈何億回も声を合わそう〉というラインも出てきているように、やはりライブでお客さんが声を出せない状況が続く中、一緒に歌うことを求める気持ちがより強くなっているのでしょうか?
吉田
桁がどんどん大きくなって行くのが単純にバカっぽくて好きなんですけど(笑)、でもそれが正直な気持ちなんだろうなと思いますね。今はツアーに向けて一生懸命準備をしているので、ライブで新しい曲をお聴かせできるように頑張ります。