ズーカラデル『ノエル』インタビュー

ズーカラデルが“未来”と“シーラカンス”に続く配信シングル連続リリースの第3弾“ノエル”を発表した。「ロックバンド」としての生命力を感じさせるスケールの大きなアンサンブルに乗せて、コミュニケーションの本質と向き合い、美しいメロディーで〈ばらばらの心も それ自体が愛しいのさ〉と歌い上げる“ノエル”は、ズーカラデル流の人間賛歌と言ってもいいかもしれない。またしてもの名曲を生み出した3人に制作の背景を聞くとともに、11月5日に開催されるひさびさのワンマンライブに向けての意気込みを語ってもらった。

10月13日リリース「ノエル」


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それぞれの広がり方をした“未来”と“シーラカンス”

――今年の夏は7月に“未来”、8月に“シーラカンス”と新曲を発表しつつ、8月から予定されていたツアーは新型コロナウィルスの影響もあり、残念ながら中止になってしまいました。この3か月をどんな心境で過ごしていたのでしょうか?
吉田
前回のインタビュー(6月中旬)の後も、バンドの調子はずっとよくて、ライブのやり方を変えてみようという話をしたり、ちゃんと一個一個がハマって、「これもできる、これもできる」みたいなことがたくさん出てきていたんです。なので、その流れでツアーを見せたいぜっていう気持ちはもちろんあったんですけど……まあ、そこに関しては「そういうこともあらあな」という感じで。バンドとしてはちゃんと転がっているので、それをどうお客さんに見せられるかというのが今後の課題かなって。
鷲見
昨年以降は思うような活動ができないことも多々ありましたけど、ライブがなくなった分、曲作りに打ち込める時間は増えて、ちょっと無理そうだなっていうアイデアでも一度試してみたり、いろんなチャンレジをこの夏もたくさんすることができて。そうやってできた曲たちをこの先発表できると思うと、悲しいことばかりではなく、楽しいことが待ち構えているわけだから、わりと明るい気持ちでいることはできました。
山岸
“未来”と“シーラカンス”をリリースして、2曲ともわりと違った広がり方をしてくれた感覚がありました。ライブで曲を届けることはできなかったですけど、“未来”はCMでかかりましたし、“シーラカンス”は自分たちでストップモーションのリリックビデオ(https://youtu.be/5h1o-YfPrZI)を作ったり、いろんな方法で曲を届けることができた期間だったんじゃないかなって。
――バンドが動けなかった分、曲が動いてくれたというか。吉田くんは“未来”と“シーラカンス”に対する反響や手応えをどう感じていますか?
吉田
うちにテレビがないので、“未来”がCMでかかっているのを実際に見てはいないんですけど、SNSで「なんか聴いたことあると思ったら、やっぱりズーカラデルだった」とか「あのCMでズーカラデルっていうバンドを知った」みたいなことを書いてくれてる方がたくさんいて、今まで自分たちの視界に入っていなかった人たちの耳にも届いたんだなっていうことは実感してます。“シーラカンス”に関しても、特にバンドマンの反応がめちゃめちゃよくて……エゴサめっちゃするんですけど(笑)、すごく熱量の高い反応をしてくれて、直接連絡をくれる人もいたり、それは本当に嬉しかったですね。
山岸
“シーラカンス”は音楽的にも今までのズーカラデルの流れからするとちょっと新しいことにチャレンジした曲で、個人的には、同じビートを叩き続ける気持ちよさを初めて実感しました。それでいて、ちゃんとズーカラデルらしい曲にもなっていて、それがそのまま伝わったというか、受け入れられた感覚もあったので、嬉しかったです。
――鷲見くんはテレビで“未来”がかかってるのを聴きましたか?
鷲見
ちょうどオリンピックの期間が自宅療養の真っただ中だったので、何回も聴きました。単純に嬉しい気持ちもあるし、当時は心身がとても疲弊していたので、自分たちの作った曲に自分が励まされる感覚があって、「頑張るぞ」という気持ちにさせてもらいました。

「ロックバンド」としての生命力を吹き込んだ“ノエル”

――“未来”と“シーラカンス”はピアノやパーカッションで彩られていましたが、“ノエル”は3人のみの演奏と歌の力で勝負する、スタンダード感のある仕上がりだと感じました。
吉田
今回の3曲は一度に録音したんですけど、“ノエル”はレコーディングのギリギリにできた曲で。レコーディングする曲を決める日の朝に準備をしながら思いついたメロディーとサビの歌詞があって、スタジオの端っこで一人弾き語りでコードを当ててみたりして、その日のうちにアレンジに取り掛かり、ゴロゴロと転がっていった曲ですね。
鷲見
もちろん、ギリギリにできて、時間がなかったから3人のアレンジしか考えられなかったということではなくて。この曲はちゃんと歌を聴かせたかったので、そのために楽曲として必要な要素を考えたときに、3人でアレンジをするのがこの曲が一番輝く方法なんじゃないかという結論に至り、この形になりました。
吉田
この曲は「バラードだからストリングスを入れて」みたいなことでもないと思って、いわゆる「ロック」のサウンドの中で、しっかりかっこいい曲にしたいなって。
――まさに「ロックバンド」としてのズーカラデルの魅力が詰まった一曲だと思います。ずっしりと重いベースの音色は特に印象的です。
鷲見
ちょっと前までは一個気に入った音があったら、それで録り続けていたんですけど、時間がたっぷりできたこともあって、最近は思い切った音作りも試せるようになって。この曲の音色も、そもそもデモを録ったときに、一回他の楽器とのバランスを無視して、ただただ自分が思うかっこいい音を作ってみようと思ったら、それがすごく歪んだ音になったんです。それを周りもかっこいいと言ってくれて、今回はその音で録って、さらにエンジニアの南石さんがものすごいバランスのミックスにしてくれたっていう。
――まさに、この曲の顔だと思います。ドラムに関してはいかがですか?
山岸
ピンポイントな話になっちゃうんですけど、最後の方にドラムだけのフィルがあって。あれはレコーディングで何度か録ってる中、一回だけ最初にリムショットを叩くっていう、それまでやってなかったことをその場でやったら、みんなが「あれよかった」ってなって、それが採用されたというシーンがありまして……そういうのって、バンドっぽいなって(笑)。
吉田
あそこのドラムがこの曲を物語ってる気がします。ミックスで、あの音の広さを聴かせてもらったときは、思わず笑っちゃいました(笑)。
――気にスケールが広がりますもんね。レコーディング当日に作って、フレーズもその場で決めたというのは、バンドとしての成長があったからこそできたことで、そこで起きたマジックも含めて、「ロックバンド」としてのズーカラデルをそのままパッケージしたのが“ノエル”なんだなと思いました。そこに大きく貢献しているのがエンジニアの南石聡巳さんだと思うんですけど、レコーディングではどんなやりとりがありましたか?
吉田
今回のレコーディングでは「そのテイク、eastern youthだったら使ってる」っていうのをよく言ってて、合言葉みたいになってました。ちょっとよれちゃったけど、でもかっこいい気がするんだよなっていうプレイを、どんどん生かした記憶があります。完璧に整理されたものの良さももちろんあると思うんですけど、さらにそれを踏み越えて行くような生命力というか、そういうものが音から出ていたらいいなと常々思っていて、その象徴として、eastern youthの名前がよく出ていたんです。

表面上は「ラブソング」、その本質は「人間対人間として向き合う」ということ

――歌詞については、どんなアイデアから書き始めたのでしょうか?
吉田
この曲はいわゆる「ラブソング」ではあると思うんですけど、ちゃんと人間対人間としてお互い向き合おう、そういうのがめちゃくちゃ大事だよねっていうのが歌詞を書く原動力になっていて。その「人間対人間」っていうのは、恋人でも友達でも家族でもいいし、我々とお客さんのことかもしれないし、もっと言うと、相手が人間じゃなくても、自分が信じているものと誠実に向き合うことだったりするかもしれない。そういういろんな関係性の全部が重なり合ってる部分について、しっかり書けたんじゃないかなって。
――「ラブソング」ではあるけど、必ずしも男女について歌っているわけではなく、もっと広いコミュニケーションについて歌われていて、その基盤には「人間対人間」という感覚があり、もっといえば、自分が信じるものとの関係性にもあてはめられると。
吉田
もともと一番のサビの〈ダーリンダーリン 君の涙を 乾かせるなんて言えやしないが 悲しい時にも 声を合わせてみたいんだ〉っていう歌詞がパッと出てきて、これはどういうことなんだろうと考えたときに……僕オアシスの“Don’t Look Back In Anger”の〈Please don’t put your life in the hands/Of a rock’n’roll band/Who’ll throw it all away〉っていう歌詞がすごく好きで。「ロックバンドにあなたの人生を渡さないでくれ」っていう、あの歌詞がパッとフラッシュバックしてきて、自分の中でさっき言ったこととこの歌詞はニアリーイコールというか、同じことを言い換えてるような気がして。
――ロックバンドに人生を渡してしまうのではなく、「人間対人間」の感覚で対等に向き合って、その上で、悲しいときには声を合わせられたら。そんな関係性が恋人でも家族でも作ることができたらすごくいいですよね。さっき話に出た大サビ前のドラムのフィルも、“Don’t Look Back In Anger”を意識してる?
山岸
「アリーナ感」みたいな話はしたので、ちょっと意識してるかもしれないです(笑)。
――山岸くんは歌詞に対してどんな印象を持っていますか?
山岸
聴いてくれる人との関係性をテーマにしたいっていうのは、この曲のアレンジについて話してるときに吉田から聞いていて、単純に「その人たちのために」ということではないですけど、ロックバンドは常にどこかでそれを意識しながら進んでいくものかもしれないなって、歌詞を見ながら思いました。
――「聴いてくれる人との関係性をテーマにしたい」と思ったのは、やはりライブでの直接的な繋がりが奪われた中で、音楽を通じて関係性を築くことについて改めて考えたということなのでしょうか?
吉田
というよりは……この期間に思ったのは、「全員が敵じゃないんだよな」みたいなことというか。僕ら去年「スペースシャワー列伝」のツアーに出てたんですけど、それが途中で中止になってしまって、そこから一年経って、今年の春にやっとリベンジ公演ができたんですね。その間の一年を過ごす中で、対バン相手の活動がめちゃめちゃ気になって、すごくチェックをしていて、実際ライブ会場で再会できたときにめちゃめちゃ嬉しくて、これは愛かもしれないと思ったんです。で、こういう気持ちは対バンだけじゃなくて、誰にでも言えることなんじゃないかなって。
――“未来”についてインタビューさせてもらったときも、コロナ禍で嫌な気持ちになることが多いけど、それぞれの事情に想いを馳せることが大事なんじゃないかという話をしてくれて、“ノエル”とも通じる部分がありますよね。それぞれがちゃんと人間として存在している、それ自体が素晴らしいし、それを描くことが「ラブソング」になり得るというか。
吉田
今回レコーディングした3曲に関しては、今言っていただいたような感覚はずっと歌詞の中に通底している気がします。
――鷲見くんは歌詞からどんな印象を受けましたか?
鷲見
コロナ禍になって、この状況になったからできたこともできなかったこともたくさんあると思うんですけど、みんな何が正解かはわからないまま、それぞれが決断をしていて、そういう状況がこの歌詞の中にもあると思って。その人たちを救うわけじゃないけど、この曲は自分とは関係ないところにいる人にも、尊い気持ちを持つきっかけになる曲というか。SNSとかでお互い見えないところから攻撃し合っている様子をこの1~2年でよく目にしたけど、そういうやつらともちゃんと話し合ったり、向き合ったりすれば、そんなに嫌なやつじゃないかもしれない。“ノエル”は自分とは直接かかわりのない人にも、優しくなれたり、少し気にしたりできるような、そういう曲で、この時代を生きている人たちに聴いてほしいと思いました。
――やっぱりズーカラデルは闇雲に励ましたり、希望を歌ったりはしないわけですよね。〈星に願ってもしょうがないしね〉と歌っているように、どうにもならないことがある現状をフラットに捉えて、そのうえで全てを諦めるわけじゃなく、いくばくかの希望や可能性を歌っている。そこが“ノエル”という曲にも表れているのかなって。
吉田
「極端なことを言う大人は信用しちゃいけないよ」って、誰か知らない人が言ってたのがすごく心に残っていて(笑)、自分の指針になっているというか。嫌なことは嫌だし、そうでもないことはそうでもないけど、そのうえで「よいものもある」ってちゃんと言えることが、「誠実である」ということなんじゃないかと思ってるんです。

初めての5人編成、ひさびさのワンマンライブは「一歩を踏み出すとき」

――“ノエル”はミュージックビデオもすごく印象的ですね。
鷲見
この曲は歌詞がちゃんと耳に入るといいなと思っていたので、ミュージックビデオも最初は歌詞をつけるようなイメージだったんですけど、出来上がったものを見てみると、2人の演技を通じて曲を聴くことで、より楽曲が耳に入ってきて、歌詞をつけるのが蛇足に感じられるくらい、素敵な映像作品だと思いました。
山岸
個人的に、美しい女性とかっこいい男性が恋愛をするミュージックビデオって、いいと思ったことが一度もなくて(笑)。でもこの作品は、表面上ラブソングなんだけど、もっと広い人間と人間の関係性を描いてる、その二重構造みたいなものが、ちゃんと曲とリンクしてるなって。なおかつ、光や色の使い方もすごく美しくて、でも決してそれだけの映像ではなくて……ヤバいミュージックビデオだなって。
吉田
本編もめちゃめちゃいいんですけど、あの2人の関係性がよりわかる短編映像も用意していて、それを見るとあの2人の人間性がより伝わってきて、それがてえてえ(尊い)ですね。あの2人の物語が本当に愛おしいというか、「すごくいいやつらなんだよ」みたいな気持ちがあって。今回のコンテンツを全部見ていただけると、さらに没入感が増すと思うので、ぜひ全部見てほしいです。
――では最後に、11月5日に六本木EX THEATERで開催されるひさびさのワンマンライブに向けての意気込みを聞かせてください。ツアーのタイミングで発表されていた通り、サポートメンバーを入れた形のライブになるんですよね。
山岸
5人編成ではずっとリハばっかりしてきたので……遂にできるぞっていう。
鷲見
今までのワンマンとは比較にならないくらい時間をかけて、練習を重ねてます。最後にやったツアーからは2年くらい空いていて、その間にズーカラデルのことを知ってくれた人もたくさんいると思うので、そういう人たちにもやっとワンマンライブが見てもらえる。今回は配信もありますし、ズーカラデルらしい、楽しいライブができたらなって。
吉田
中止になってしまったツアーのタイトルが「星に願ってもしょうがないツアー」で、今回のワンマンのタイトルが「それでも、星に願ってもしょうがないだぜ」で、本当にそうだと思ってて。やっぱり、考えてるだけじゃダメで、手を動かして、足を動かして、静止してる状態から一歩踏み出す瞬間にこそ、生きるために必要なものが生まれると思うんです。今回のワンマンライブでツアーの中止が帳消しになるわけではないけど、まずは一歩を踏み出そうという、強い気持ちでライブに臨みたいと思います。制限があるのはもちろん残念ですけど、それでも音楽で楽しめる方法があることを我々は知ってるし、そのための楽曲を演奏するので、一緒に面白おかしくやろうぜって気持ちですね。


――― 有観客ライブ ―――
【チケット料金】全席指定 ¥4,000 (税込/1ドリンク代別)
【一般発売】10/24(日)10:00~
【プレイガイド】e+ (イープラス) 受付URL:https://eplus.jp/gozetr/
【公演に関するお問い合わせ】VINTAGE ROCK std. 03-3770-6900 (平日12:00〜17:00)
*申し込みの前にチケット購入時ガイドラインを必ずご確認いただき、注意事項に同意の上お申込みください。

――― 配信ライブ ―――
【配信期間】11/15(月)20:00〜11/21(日)23:59まで
【配信視聴チケット】
・視聴チケット料金 ¥500 (税込)
・視聴チケット販売期間:10/24(日)10:00〜11/21(日)20:00
・配信受付URL:https://eplus.jp/gozetr/

【視聴・配信に関するお問合せ】
https://eplus.jp/sf/guide/streamingplus-userguide