Official Interview

――シングル表題曲「宇宙の記憶」は椎名林檎さんによるプロデュースですが、どんな風に制作は始まりましたか?

「今回、アニメ『妖怪人間ベム』のリメイク版である『BEM』のオープニングテーマを歌わせていただくことになって、まずはこの作品に合う楽曲はどういうものかなという話から。『妖怪人間ベム』は昔から全部見ていたわけではないですけど大人が見ても面白くてちょっと怖い、ダークなファンタジーといいますか、そういう作品のイメージがあって。現代のアニメ『BEM』はSOIL & "PIMP" SESSIONSが劇伴を担当されるということは決まっていて、舞台はニューヨークというのもあり、そういう世界観に合うだろうなという話をしてた時に、林檎さんのお名前がスタッフのほうから挙がって。もともと、いつか何かでご一緒してみたいと思う方ではあったんですけど『ここだ!』みたいな感じになって。面識もないですし、すごくお忙しいんじゃないかと思って本当にダメもとでお伺いしたんですけど。私のことも知っていてくださったようで、打ち合わせではこちらからの作品についての説明をじっくり聞いてくださった上で、最近どんな気分でどんな歌が歌いたいと思っているのか私に聞いてくださったり。オケ録りはもちろん、歌録りやボーカルディレクションまで、ほんとにガッツリとプロデュースしてもらいました」

――作詞・作曲・編曲をトータルでお願いするのは最初から決まっていたんですか?

「私にとって30枚目の節目となるシングルの表題曲で自分で歌詞を書かないというのは結構、最初は悩んだところで。でも林檎さんは曲を提供される時に歌詞もご自身で書かれてることが多いですし、私も林檎さんの歌詞が好きだし、きっと私にない何かを引き出してくれるだろうという期待感と、あらためてまな板の上の鯉になることも楽しいんじゃないかなと思って歌詞もお願いしました。最近は自分で作詞作曲した曲をシングルにしたり、『逆光』みたいな曲を楽しみながらも自分のものにしてきた経験があってのまな板の上の鯉は、何もできない鯉とは違って(笑)。料理される楽しみもあるかもしれないと。上がってきた歌詞はひれ伏すしかないみたいな素晴らしさで、作品にも私の今の気分にも合っている、とても哲学的で普遍的で、無駄がなくて。このメロディを作った本人じゃないとこういう風には(言葉を)当てられないなと思ったので、本当にお願いしてよかったです」

――レコーディングでのボーカルディレクションはいかがでしたか?

「林檎さんのこだわりポイントは特に大サビのところで『抑えて、ウィスパーで』と言われました。神の視点で人間界を見てる、宇宙を統べる女王様みたいなイメージだったようです。でも数回しか歌わずに終わっちゃって『いつもだったらもっと追い込んで歌うんだけど大丈夫かな』と思ってたら『終わったんですけど、ここで間奏に女王様の呻きをください!』って言われて(笑)。人間を見ながら呆れてるんだか、微笑んでいるのか、そうした呻きを入れてみてくださいって。声優としても仕事をしているとそういうこともありそうなんですが実はそういうリクエストは初めてでしたね」

――真綾さんならできるだろうと想定なさってのリクエストだったんでしょうね。

「そうなのかもしれないですね、面白かったです。大サビが終わってすぐの間奏部分に入ってますので、ぜひじっくり聴いてみてください」

――「宇宙の記憶」は軽快なメロディと歌詞の深みのコントラストが斬新ですが、手応えとしてはいかがですか?

「アニメ『BEM』は妖怪というより異物に対して人間がいかに狭量で、人と違うということに対していかに敵意を持って接してしまうかという話だと思うんですね。妖怪人間は、人に誤解されてどんどん虐げられたり、そもそも人間が創り出したものなのに、存在を忌み嫌われる悲しいお話。作品自体はそんな大きいテーマを持っているので、『宇宙の記憶』というこの曲は内容としてもぴったりだと思います。今回はまたあらためて自分の作品を人に全てを委ねてみる面白さを味わえたし、同世代なんだけど大先輩に思える林檎さんの姿を間近で見て、大変刺激になりました。作品に対する誠実な姿勢とか、強さもありながら、常にみんなを気遣う女性らしい部分もある。今まで色んな人に出会ってきたけど、こんなにビリビリ何かを受け取ったのは初めてかも。そのくらい素敵な方と出会えたことを嬉しく思います。そして、このとっても難しい曲を楽しんで歌えた自分も良いと思います(笑)」

――2曲目の「序曲」は真綾さんの作詞・作曲による、美しい静けさとドラマを描くスロウ・ナンバーです。

「この曲は内省的なんだけどエモーショナルな曲になればいいなと思って作りました。同じメロディが続いていく上に、同じ言葉を重ねることで、ディレイと言うかやまびこみたいに聴こえる歌詞にしたいなと思ったから<ひとり ひとり ひとり>と繰り返したりしています。シングル30枚目の節目とか言ってるけど、まだ『序曲』みたいな(笑)、そんな気分も入っているんです。色んなことを長く続けてきて、これがひとつの物語のエンディングでもいいなって思う瞬間が時々あるじゃないですか、ツアーが全部うまく行ったりとか、いい仕事したなとか、年齢も39歳だとか、色々と理由を付けてこれが私の物語のクライマックスかもとか思ったりもするけど『いいえ、あれは序曲』って(笑)。なんかそういう気持ちでした」

――そして3曲目にはthe band apartのカバーで「明日を知らない」が収録されています。

「去年バンアパさんのトリビュート盤に参加させていただいた時に、この曲をアレンジして聴いてもらったら荒井(岳史)さんが『こんな曲だったっけ?』って驚いてくださってみたいで。『この曲はもう真綾さんにあげてもいい』くらいの発言をいただきました(笑)。すごい不思議な歌詞の世界観なんですけど包容力を感じる曲で、気持ち良くカバーさせていただいています。既にトリビュート盤で世の中に出ているものではありますが、あらためてより多くの方に聴いてもらいたいと思い、今回収録しました」

――シングル30枚目の素晴らしい節目を飾る、充実の1枚ですね。

「椎名林檎さんとコラボすることを喜んでくださった方が多くて嬉しかったですね。私も同年代でこんな人がいたら、もうどうしたらいいの!?っていうくらいのありがたい刺激を受けました。死ぬまでにもう一度くらいご一緒したいです(笑)。声質として必要な時は何でもやりますので呼んでもらいたいですっていうのはお伝えしました。ため息でも呻きでも(笑)」

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