坂本真綾インタビュー

――「独白」は『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編Wandering; Agateram』の主題歌として、「レプリカ」以来となる内澤崇仁(androp)さんとの再タッグで書き下ろされました。

今回は映画の主題歌ということで、原作者さんや監督さんの中で欲しい曲のイメージが明確にありました。そこで、どなたに作曲をお願いしようかと考えた時に、もともとFGOのメインシナリオライターである奈須きのこ先生が『レプリカ』の歌詞や世界観に更なるインスピレーションを受けたと、気に入ってくださっていたこともあり。いつかまたご一緒できたらと思っていた内澤さんにお願いしたんです。1番がスロウで、2番からテンポアップする組曲みたいな曲構成にしたいという難しいオーダーに、すんなりと応えてくださいました。『レプリカ』とはまたガラッと印象が違う、作家としての内澤さんの進化を感じました。

――「独白」は静けさを感じさせる冒頭から、先が読めない複雑な展開をしていく曲になっていますが、最初からそういう狙いがあったんですね。

そうなんです。映画のラストシーンに流れる曲なので、寄り添うような静けさのある雰囲気で始まって欲しい、でも後編も見たくなるような煽りも欲しいと言われていて。FGOシリーズでは『色彩』『逆光』『空白』などの主題歌を歌ってきて、基本的にはテンポの速い派手な曲というイメージが強いので、静けさと派手さの両方いいとこ取りができる組曲のような編成にするのは面白いかもしれないですねっていうアイデアが打ち合わせで出たんです。

――まさに静から動への大展開が聴きどころですね。歌詞に関しては?

歌詞は映画の内容と主人公の心情に沿って書きました。FGOの主題歌としては、これまでにもそれぞれ細かいテーマは違うけれど、今は苦しいけど頑張ろうとか、大変な世の中を生き抜くエネルギーになるような歌詞を書いてきたんですけど。今回は前編だけの主題歌なので、あえて救いはなくてもいいという前提で書きました。なので、落ち込んで叫びたくなるようなどうにもならない感情をひたすら吐露するような(笑)、そんな内容になっています。後編の主題歌の構想も既にあるので、前編での私の役割は、ぶち壊すこと。自暴自棄になったり悔やんだりしている瞬間の独白です。聴いてくださるだけでも、歌ってもらってもスッキリするんじゃないかなと思う1曲になっています。

――ではFGOのゲームの第2部後期主題歌「躍動」の方は?

もともとゲームの第2部のテーマは『逆光』で既に歌っているんですけど。第2部の結末がゲーム上で発表されるのは随分先なので、ここらで気分を変えて違う主題歌にしてみたいというお話をいただいて。FGOの曲はたくさん書いてきたので『もう引き出しは空っぽです!』って言ったんですけど(笑)。ここでの主人公の心情などを説明してもらって書いた曲です。

――<走り出すその理由がたとえどんなにくだらなくても>というフレーズが印象的です。

この主人公は過酷な運命に立ち向かわねばならないのですが、自分の意思というよりも、周りに促されてその道を選ぶんですね。自分の望んだことではないけど、みんなが幸せになるならそれでいいやって感じで。私たちも、無意識のうちに誰かの価値観で期待に応えようと思って生きていると思うんですよね。歌詞は、理由はくだらなくてもとりあえず走っちゃおうというような熱すぎない熱さみたいなものが出せたらいいなと思ったんです。すべての人に真っ当な理由とか大きな目標があるわけじゃない。たとえ最初の動機はくだらなくても、走り出しちゃいすればその先に自分だけの理由も見つけられるかもしれない、というような。ゲームをプレイされている方の中でひとりでもこの主題歌から何か伝わることがあれば嬉しいです。

――そんな「躍動」では4人組ロックバンド、ユアネスとの初コラボにも注目ですね。

この曲は初めましての方にお願いしたいなと思っていた時に、ディレクターに『こんないいバンドがいるよ』って教えてもらったのがユアネスで。曲を聴かせていただいたら若さとフレッシュさとクレバーさもあり。みんな揃って打ち合わせにきてくれて、『頑張ります!』って言ってくれて可愛かったです(笑)。じわじわと熱が上がっていくような、ライブ映えする曲になりました。曲は古閑さんが書いてくださったんですけど、ボーカルの黒川さんの声もすごくいいので、いつかユアネスが『躍動』をセルフカバーしてくれる日も来るかもしれないと思って、彼が歌っても合うかな?って考えながら作詞をしました。こうしてFGOに書かせていただいた曲も増えてきて、作っている側の一員になったような気分です。ちなみに映画の後編では私ではなく宮野真守さんが歌う主題歌の歌詞を書かせていただいて、また違う引き出しを開けられたなと思いました。こうしてたくさん主題歌を書かせていただいて、私もFGOを作る一員になれているような面白い広がり方をしていますし、後編もぜひ楽しみにしていてください。

――そして今回「FGO盤」では「逆光」のアンプラグドセッション、「MAAYA盤」では新曲「いつか旅に出る日」がそれぞれカップリングとして収録されています。

『逆光』のアンプラグドは扇谷研人さんが素敵にアレンジしてくださって、お洒落な感じに仕上がっています。新曲は今年の春に自宅で作詞作曲したものです。

――「いつか旅に出る日」は優しいピアノのイントロがホッとする、真綾さんらしいメロディの美しさが光る曲です。

自粛期間中に、過去に自分が旅してきた景色を思い浮かべながら書きました。海外のロックダウンされた街のニュースを見るたびに、何て世の中になっちゃったんだろう、そこで出会った人たちは今どうしてるんだろうと悲しい気持ちになって。歌詞の中に<城壁>とあるのは、一昨年ひとりで訪れたクロアチアのドゥブロブニクという街の景色です。そこは城壁が有名な観光スポットになっているんですけど。朝一番に行ったら、高いところから街を見下ろす海が見えて、朝日が登って来て。それは素晴らしい景色で、美しい朝日で、平和そのもの。でも、クロアチアは内紛や戦争がついこの間まであった国で。街も変わって、人も色んな困難を乗り越えてきたんだからと、家でクロアチアの景色を思い出しながら、こんな時だからこそ『大丈夫だよ』って言えるような曲を作りたかった。今も大変な思いをされている人を思うと『大丈夫』なんて軽々しく言えないけど。でも、いろんなことを奪われたり失ったりしてみて、感じることひとつひとつをみんなで大事にしていけば、元の世界に戻るだけじゃなくて、もっといい場所に行けるはず、そんな風に思ってこの曲を書きました。

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