坂本真綾「Drops」Interview

――新曲「Drops」はアニメ『ある魔女が死ぬまで』のオープニング主題歌ということですが、ピアノとストリングスの音色によるロック・アンセム調のエモーショナルな1曲です。どのように制作は始まりましたか。

何かの作品のタイアップで曲を書き下ろすときはいつもそうなんですが、監督さんから『こういうイメージで』という方向性を聞いて、その世界に寄り添いながら曲を作っていきます。今回はコンペ形式で作家さんたちからいくつも曲を聴かせていただいたなかで、私だけでなく他のスタッフも『この曲がいい!』とグッときた曲がこれでした。そうして満場一致で決まって仕上げていったのが、この『Drops』です。

――楽曲自体、すごくエネルギッシュなメロディと展開を持っています。清田直人さんによる作曲ですが、最初に聴いたときのインパクトはどのようなものでしたか。

確かにすごく展開が面白くて、どんどんエネルギーが増していって、どこかに連れ出してもらえるような感覚になりました。イントロから素敵で印象的なフレーズで静かに始まって、Bメロで大勢の人の声が聴こえてくるような大きな展開があってハッとさせられます。そこで背中を押されるような感じや、エモーショナルに感情を揺さぶってくるような歌だなと。そしてライブで歌うことで、また一層味わいが深くなりそうな印象を受けました。

――作詞は岩里祐穂さんですが、真綾さんの方からテーマやキーワードなどのリクエストはありましたか。

私から『こういう感じで書いてください』というようなリクエストはなくて。『ある魔女が死ぬまで』の原作を読んでいただいて、岩里さんがピックアップしたテーマで書いていただければと思っていました。私自身も『嬉し涙』というテーマで歌詞を書くとしたらどんな風になるかなって何となくイメージしていたんですけど、岩里さんが書かれた歌詞はそのイメージとは視点が大きく違っていたのが面白かったなと。<涙 流していいんだ><ボロボロになってもいいの><言わなくたっていいんだ>といった歌詞のフレーズに、受け取る側が不意に許容されたような気持ちになるというか。嬉し涙を描いた歌詞ではなく、聴いている人にあったかい涙をふと流させてしまうような歌詞になっている。そこがすごいなと。私自身、何度も歌えば歌うほど、噛みしめるように言葉の意味がじわじわ染み込んでいくような感覚がありました。特に<逃げずに生き抜いてきた記しならば>のところではいつもウルッときちゃいますね。

――真綾さんご自身が、嬉し涙の経験といって思い出す場面はありますか。

嬉し涙って・・・・・・いつだろう(笑)。でもやっぱり最近は子供と接するなかでの嬉し涙が多いかもしれません。子供が言葉が言えるようになってきたこともあって、思いがけないことを言われたりするんですよ。私を褒めてくれたり、励ましてくれたり、そんなこと言うんだっていう驚きと。自分の意志で言葉を発してくることに感動するっていうことが最近は日常的にあって、そのたびに涙が出そうになります。歳を重ねるにつれて涙もろくなってきているなというのも感じていて、テレビを見ていても、人の話を聞いていても、勝手に共感して泣いちゃうことがすごく多いんですけど。嬉し涙っていうのはそんなに頻繁にはない、特別なことなのかもしれないですね。

――真綾さんの声と、ストリングスの熱気と、バンドサウンドの熱気が合わさって大きなエネルギーを放っている楽曲になりましたね。

今回はアレンジを河野伸さんにお願いして、演奏してくださったミュージシャンもよく知っている方たちばかりなので大きな安心感でレコーディングをしていました。パーカッションの三沢またろうさんとご一緒するのはちょっとお久しぶりだったんですが、この曲が出来上がってみて、すごくパーカッションが大事な曲だったなと思いましたし、またろうさんにお願いして良かったなと噛みしめながら聴いています。デモ音源とは替わって全ての演奏が生音になることで、人間らしい気持ちの動きや揺れみたいなものが音に入って、歌っていても気持ちが良かったです。

――「Drops」はライブでも新たな盛り上がりを見せてくれそうですが、ステージで披露するときのイメージはどのようにありますか。

今年の5月にファンクラブ限定イベント(『IDS!アイドリングストップ!20周年 Special LIVE “Thanksgiving〜これからもよろしく〜”』)を河口湖ステラシアターで行うんですが、『Drops』が発売されて間もない時期ですし、きっと歌うと思うんです。会場に来てくださるお客さんたちも配信で聴き込んでもらって、<Ah Ah>の部分を一緒に歌ってもらえたら嬉しいです。うちのお客さんたちは大人しいので初披露の場で誰も声出してくれないんじゃないかっていう不安もありますけど(笑)、みんなで声を出すことで何かを奮い立たせるような気持ちになる曲だと思うので、参加してもらえたらいいな。

――そしてカップリングの「Twilight」は、夜というシチュエーションの中で青色を示すさまざまな色の名前が出てくる、ちょっと幻想的でモダンな印象の曲です。

私は夜に寝ていると変な時間に起きちゃうことがすごく多くて、その度に『まだ夜か』と思うんですよ。そこから眠れないと色んなことをぐるぐる考えちゃって、一生懸命その思考を断ち切るために羊を数えるように、青色の名前を思い浮かべていくんです。なので『Twilight』の歌詞は実体験をモチーフに書きました。普段から歌詞を書くときに色の名前を調べたりすることも多くて、青の名前も100個くらいあるそうなので素敵だなと思って気に留めていました。

――真綾さんと岩里さんのお二人で歌詞を書かれたということですが、どんな制作でしたか。

私が歌詞をワンコーラス書き終わった段階でそこから書けずにいて、なかなか完成しないまま時間が経っていたんです。そろそろ書き上げないとってなったときに、イメージはあるんだけど、どうもしっくりこなくて。そんなとき岩里さんに『この歌詞どう思いますか?』って助け舟を求めたら『これいいじゃん!』って言ってくださって。私が何を書こうとしていたかというイメージをお話しして、部分的に加筆してくださって共作になりました。私が最近日々感じている、『こうあるべき』とか『こうするべき』といった、大きな流れの中でみんなが同じ方向へ進めと急かされているような風潮が、どうも怖くて。もうこの高速道路を降りたい、でも降りたら戻れないスリルのなかで、私は自分の道を見つけたいみたいなテーマで書きたかったんです。そんな話をしたら岩里さんが、私が書いたワンコーラス目の人格をまとったまま言葉にしてくれて。それがもう本当にプロの仕事っていう感じがして、勉強になることばかりでした。

――<一生かけて 知り得ることは 一欠片の宇宙>という歌詞も哲学的です。

そこは岩里さんが書いてくださった部分です。一緒に歌詞を書きながら『ここってこういうイメージだよね』とか『寝てる間にこんな歌詞が浮かびました』なんて連絡をくださったりして、脳みそをシェアしながら作ってる感じが本当に楽しかったです。キャリアを超えて、フランクにこの創作を楽しいと言ってくださった岩里さんに、本当に感謝しています。

――川崎智哉さんによるメロディとアレンジが作り出す世界を、どのように感じ取りながら歌いましたか?

メロディ自体は言葉を載せるのにかなり難しいもので、ボーカルが左右でクロスするように聴こえる遊びの部分も最初から計算されているんです。なので聴いていて楽しい、立体的な世界を面白がってもらえる曲に仕上がっているなと思います。川崎さんとご一緒したのは初めてですが、いい意味で変わっていて、カッコいい曲だと思います。ライブでも多分、ひとりでは歌えないです(笑)。人間の声の揺らぎや生っぽさが『Drops』だとすると、『Twilight』はその逆にある作為的な部分がたくさんあるからこそ面白い曲になりました。

――そして今回のシングル、初回限定盤は30周年記念アクリルスタンド「表も裏もサカモトマーヤ!」付きスペシャルパッケージだそうですね。

これ私、調子に乗ってると思われないですかね(笑)。去年のファンクラブイベントのグッズでアクスタを作ったら好評だったみたいで、今回はシングルの初回限定盤にもお付けすることになりました。ついこの間、デビュー25周年だったと思ったら、もう30周年なんですよ。皆さんに喜んでもらえるような30周年にしたいなと思っています!

Text : 上野 三樹


TVアニメ『ある魔女が死ぬまで』オープニング主題歌「Drops」
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