- ─ 今作のレコーディングでよかった点を教えていただけますか?
- 「レコーディング中に変更を加えたことがとても良かったと思ってる。その変化というのはひとつの部屋で全員のミュージシャンの音を一緒に録音したことだね。前回はピアノ・トリオのセクション、ホーン・セクション、ストリングス・セクション、それぞれ別々で録音してオーバーダブさせたんだけど、今回はミュージシャン全員が同時に演奏しているんだ。全員の間にいいコミュニケーションが生まれて素晴らしい効果を生んだと思うよ」
- ─ 他にもよかった点はありますか?
- 「今回も〈Atlantis〉というスタジオを使っているんだけど、みんなで一緒に録音したから大きな部屋でやることができたんだ。北ヨーロッパで最も素晴らしいスタジオの一つで、60年代くらいから多くの著名アーティストが使った特筆すべきスタジオなんだ。あとグルーヴ感が向上した以外にも、ミュージシャンが周りの音を聴いて自分の演奏をアジャストできるというのは大きな利点だったね。ホーン・セクションの音の鳴り具合を聴いてピアノ・トリオがそれに合わせた演奏をするといった具合にね。ジャズの知識をある程度持っている人なら、前作と今作での違いが聞き取れると思うよ。今回の方がよりライヴっぽく仕上がっているんだ」
- ─ 生演奏はジャズの醍醐味のひとつですからね。さて、ここで前作を少し振り返ってみたいと思うのですが、アニメのジャズ・カヴァー・アルバム『プラチナ・ジャズ〜アニメ・スタンダード Vol.1』を制作して、周囲の環境などで一番大きく変わった点などを教えて下さい。
- 「より広いオーディエンスを獲得できたと思うし、新たなファンも増えたような気がするよ。それと、このアルバムをやったことによって、将来自分のオリジナルでジャズ・プロジェクトをやってみたいという願いも芽生えたんだ。ミュージシャンではなく、純粋なプロデューサーとしても自分は仕事ができるんだという安心感や自信にもつながった。あと普段、自分のスタジオで作業しているけど、僕のスタジオは基本的に1人用に作られているので、数名しか入ることができない。それに比べて今回、この広くて素晴らしいスタジオで録音できたことでいろいろなことを学んだし、エンジニアやプロデューサーとして多くの知識を得ることができたね」
- ─ 分かりました。それではいよいよ『Vol.2』の話に入りたいと思います。まずは制作が決定した時の率直な感想を聞かせてもらえますか?
- 「もう一度やりたいと思っていたから、とてもエキサイティングだったね。ニコニコ動画でアップされたライヴショウが『第2弾をやろう』という意志決定に影響したという点が特に嬉しかった。『「Vol.2」ができるとしたら、今度はこうしたい』と思っていたこともあったし、レコーディングが終わった今だって『「Vol.3」が作れるなら、次はこんな風にやってみたいな』って思うことが既にあるくらいだからね(笑)」
- ─ もう第3弾の構想を考えてるとは僕も知りませんでした……(笑)。今回も選曲に関してかなりのこだわりを見せていますが、『Vol.1』に比べてより強く意識したことがあったら教えてください。
- 「選曲に関しては『Vol.1』の時の方がより注意深く選んだと思う。『Vol.1』の制作が終わった後は、思っていた以上にたくさんの曲をジャズにできるんだと感じていたし、今は『これは絶対ジャズにアレンジできない』と断言する曲の数は少ないと思う」
- ─ あなたと共に作業するジャズメンたちも2回目ということでさらなる進化を果たしていますよね。ソロでの遊びの部分も増えていますし。
- 「 彼らもまたトリオと一緒に演奏できてよかったと思う。前回のようなバッキング・トラックを演奏しているところからさらに進化しているからね。それと第2弾を制作すると聞いて、彼らは日本のサブカルの曲をプレイする一過性のプロジェクトではなく、想像以上にシリアスなものであることに気づいたと思う。さらにレコーディングの途中で、日本でバンドとしてプレイできることが分かったからね。より高いモチベーションで作業に取り組めたんじゃないかな」
- ─ 彼らのアニメ・ソングに対する評価はいかがですか?
- 「日本のアニメを1作も見たことがなく、そこにまつわるカルチャーも知らない場合、J-POPを耳にしたことがない場合はそれぞれの曲に大きな違いがあることに気づくんだ。アニソンという視点を持っていない場合はそれぞれの曲の振り幅がやたらと大きいことに注意がいく。ジャズメンにとって例えば『人生のメリーゴーランド』は『この曲ならどんな映像のスコアとしても向いてる』と思えるし、『冒険でしょでしょ?』などは、『この音楽は一体何!? 完全に狂ってる』と感じるだろう(笑)。僕はこのへんの音に慣れているけどね」
- ─ 「キグルミ惑星」なんか聴いたら軽いショック状態になりそうですね(笑)。
- 「ホーン・アレンジャーが『キグルミ惑星』のアレンジをやったんだけど、作業中の彼を訪ねに行ったら、6分ある曲を最初から最後まで10回くらい繰り返して聴いた後で、彼は神経衰弱に陥りそうな顔をしていたよ(笑)。スタジオに持っていって全員に聞かせたら、みんな『こんな曲が存在するのか!』って反応だった(笑)」
- ─ この前、ツイッターでこのアニメの監督、水島精二さんと作曲家のコジマミノリさんと少しやりとりしたんですが、今の話をしたら喜ぶでしょうね。
- 「前作もそうだったけど、楽曲を書いて下さった作詞家・作曲家の方々が僕たちのヴァージョンをどう感じ取ってくれるか、すごく楽しみだよ! 話は戻るけど、僕とマーティンは曲の構成や特徴はそれぞれ全然違うとはいえ、こういう曲を聴くことに慣れているけど、他のバンドのメンバーはアニソンを聞き慣れていないから、僕らのような見方はできない。でも、彼らがアニソンを理解していないことが逆に良い影響を与えるとも言える。ネイティヴに持っているジャズのフィールドで純粋に演奏できるからね」
- ─ 「はじめてのチュウ」もヴォーカル・スタイルを含め、本当に素晴らしいアレンジになりましたね。
- 「シナトラ・スタイルであり、クルーナー・スタイルとも言えるね。ヴォーカリストのニクラスはスウェーデンではよく知られたドラマーで、フランク・シナトラをカヴァーするバンドもやっているんだ。最初にマーティンとこの曲を聴いたとき、すぐにグルーヴ感はどこにあってリズムはどうハメようというのが思いついた。テンポやヴァイブがビッグ・バンドにしっくり来るんじゃないかと思い、エミリーに歌ってもらうには向いてない曲だと気づいて、彼に歌ってほしいと瞬時に思ったんだ」
- ─ さて、アニメに関する話も伺っていきたいと思うのですが、最近観た中で面白かった作品があったら教えてください。
- 「アニメを見る量はあまり以前と変わっていないかな。ここ2年くらいは同じくらいのスピードで見てる。最近見た中で良かったのは……『ラーゼフォン』と『新世紀エヴァンゲリオン』あと『涼宮ハルヒの憂鬱』を最近見はじめた。『サムライチャンプルー』も見たね」
- ─ ラスマスは結構忙しいスケジュールのはずなんですけど、観てますねえ(笑)。
- 「『サムライチャンプルー』はそこまで深い作品ではなかったけど、面白くて楽しい作品だったね。『ラーゼフォン』と『エヴァンゲリオン』も好きだったな。でも『エヴァンゲリオン』はストーリー解説を別のところで読んでやっと何が起こっているのか理解できた感じだった(笑)。『エヴァンゲリオン』のオチをどう思ったか? 映画も見たんだけど、うーん、興味深いよね」
- ─ さて、話を再び音楽に戻しますが、いよいよ待望の来日公演が決定しました! ホーン隊もヴォーカル、あなたも含め総勢10人という超ゴージャスなメンバーでやってくる訳ですが、ツアーに向けて準備はいかがですか?
- 「僕を含めて10人のミュージシャンで行くよ! 本当にとても楽しみにしているんだ。当初は僕が行く必要はないと思ってた。プロデューサーであってバンドのメンバーではないしね」
- ─ いやいや、みんな待ってますよ!
- 「ありがとう。実は『Vol.1』と『Vol.2』から1曲ずつ、エレクトリック・ピアノをフィーチャーすることにしたので、僕も何曲かでピアノ奏者として参加することになりそうなんだ」
- ─ それは楽しみですね! では改めて抱負をお願いいたします。
- 「僕が行くから楽しみにしてて!(笑)。いや、冗談(笑)。ライヴで見るのはコンピューターのスクリーンで見るのより何倍もいいよ! 特にジャズはライヴで体験することを目的に作られた音楽だから、アルバムが好きで、さらにビデオを見て気に入ってくれたなら、ライヴで体験する機会は絶対に逃さない方がいいだろうね」
- ─ テーマ(メロディに忠実なパート)はもちろんですが、ソロ(アドリブを重視したパート)も楽しんでほしいですね。分かりました。今日はありがとうございました。それでは日本で会いましょう!
- 「うん、楽しみにしてるよ!」