「グッド・ミュージックは冬の時代ですから」って言われても「ゲスの極み乙女。やDADARAYは売れてるじゃん!」って思う(真部)

●お互いに初めましての対談ということですが、集団行動がニューアルバム『SUPER MUSIC』リリースに先駆けて、DADARAYとのツーマンライブツアー「SUPER MUSIC TOUR -SUPER編-」(2019年2月2日に大阪、2月11日に東京)を開催することが発表されました。集団行動としては、どのようないきさつや狙いがあって、DADARAYとのツーマンを希望したんでしょうか。

真部脩一(集団行動)「私事になるんですけど、10年ぐらい音楽をやってきて、だんだん自分の作品に自信がついてくるんですよ。それと反比例して、世間の風は冷たくなってくることもあり。そういうことを僕が愚痴ると、慰めのように言われるのが、『グッド・ミュージックは冬の時代ですから』という話で」

休日課長(DADARAY)「なるほど」

真部:「僕の音楽がグッド・ミュージックかどうかというところは置いておいて、『ゲスの極み乙女。さんやDADARAYさんは、グッド・ミュージックで売れてるじゃん!』って思って。明確に良質な音楽を志向していて、日本の歌謡に深い造詣のある方達が、ちゃんと評価を得ている。しかもDADARAYさんは女性ヴォーカルで。これはもう、お近づきにならない手はないな、と。駄目元でツーマンをお願いしたら、引き受けてくださいました」

課長:「ありがたいですね」

真部:「僕がもともと集団行動を始めた理由は、プレイヤーズ・ミュージックがやりたかったんです。音楽経験のない齋藤里菜(Vo)というヴォーカリストを引っ張ってきて、ゼロからプレイヤーズ・ミュージックを作る。悪戦苦闘・試行錯誤している中で、プレイヤーズ・ミュージックとして完成したものを作っている人たちからいろいろ吸収したい、その人たちがいるシーンを見てみたい気持ちがありまして。我々にとってはとても刺激になるというか」

課長:「確かに、今はグッド・ミュージックが冬の時代だという気もするし、でも世界を見たら、新しいグッド・ミュージックが出てきているし。両方考えることがあるんですよね、複雑なところなんですけど。でも、このツーマンライブが、新しい刺激を発信するものになればいいなと思いますね。『おもしろい音楽、あるよ』っていう。いい音楽をやっているという自負はサポートも含めてメンバー全員にあって。自分たちがダサいと思うことはやりたくない、という気持ちが根っこにあります。川谷(絵音)が作詞・作曲をやっているというところもあって、何かしら川谷の世界観に共鳴した人間が集まっているので、そこを含めて感じ取って頂けるのは嬉しいですね」

真部:「商業音楽としては、分かりやすいものにする過程で、どうしても下品になりそうなところが生じてきてしまう。そこをどう処理するかというのは個人の感覚だと思うんですけど、DADARAYさんの場合は世界観をすごく上品に構築している気がして。それはもう、僕も目指すところはまったく同じなので。それはもしかすると、相当気をつけていらっしゃるんじゃないかなと思います」

課長:「そうですねえ。でも、やりたいことをやっているというのが、一番シンプルな答えで。ずっとプロデューサーも付けずにやってきたし。音楽に対する衝動をそのまま、変なストッパーもなくここまでやって来られたんです。川谷はいろんな意見も聞いているだろうし、彼がどんな遍歴を経てきたかは分からないんですけど、やりたいことだけをひたすらにやり続けてきたというのが、一番大きいですかね」

作曲者のカラーや世界観を、まったく新しい女性ヴォーカルに落とし込むというのは、どういう作業なんだろうなと思って(真部)

真部:「川谷さんの曲って、歌謡感はあるけれど昭和臭くないというか、コスプレ感がないんですよね。歌い手さんが変わることによって、演奏する側として何か違いを感じることはありますか」

課長:「僕はメジャーデビュー以来、ゲスの極み乙女。だけをやってきたので、DADARAYは初めて、川谷以外の、しかも女性ヴォーカルとやるバンドなんですけど。コピーバンド以来ですね、女性ヴォーカルとやるのは。川谷が作詞・作曲やレコーディングで関わっているので、川谷がいなくても川谷とやっている感はあるんですけど、やっぱりDADARAYのヴォーカルも好きなので、演奏しているときは正直、ゲスもそうなんですがあまりベースを聴いてる感覚ないですね(笑)。歌聴いてベース弾いてる感じというか。その歌が違うので。やっている感覚は変わりますよ」

真部:「なるほど。こっちも本当に、ヴォーカルというフィルターを通して音楽が変わっていくというのを、たぶん人生で一番実感しているというか。作曲者のカラーや世界観みたいなものを、まったく新しい女性ヴォーカルに落とし込むというのは、どういう作業なんだろうなと思って」

課長:「身内のことを褒めすぎるのもアレなんですけど、DADARAYのヴォーカルは2人ともそれぞれに特徴があって、すごく上手いんですよ。2人とも鍵盤を弾けるので、ゲスとはまた違う可能性の幅に広がりがあると思います」

真部:「幅が広がったことによる迷いみたいなものはありますか?」

課長:「うーん、川谷自身はあまり迷っていない感じがするんですけど。迷っているのかも知れないけれど、他人よりも迷っている時間が少ないのかな。わからないですけど。僕なんかが見ると、全然迷っていないように見えるっていう」

●真部さんは、ヴォーカルの活かし方で迷うことがあるんですか。

真部:「うちの齋藤は、特徴が無いのが特徴というか、なかなかおもしろいタイプで。こっちが提示する幅が本当に広いんですよ。僕にとっての選択肢がめちゃめちゃ多い。そういう意味で、場当たり的な対応ができないというか、こっちではっきりとしたビジョンをもって取り組まないといけないところがあって、それがいい感じに僕自身の修行になっているところはありますね。彼女が咀嚼できるものを提示しなきゃいけないなという、良い意味でのプレッシャーがあって。それに、楽曲に対する責任が増えますし。逆に、こっちが提示したものに対してとんでもないものが返ってきたときに、それをバグとしてうまく楽しめるようにもなっています」

課長:「話を聞いていると、相当ワクワクしそうな感じがするんですが」

真部:「いや、それは良いように言っているんですけど、たまにこう、うおおーって枕を殴ってから、形を整えて、寝る、みたいな時もあります(笑)」

高校時代に聴いていた音楽を聴くと、冷静に判断できないぐらい良さを感じてしまう。あのとき染み付いたものは大きい(休日課長)

●集団行動とDADARAYの、ヴォーカルを軸にした違いが見えてきて興味深い話題でしたが、真部さんが最初に仰っていた、歌謡曲の歴史の重さと向き合い、洋楽的なものを取り入れながらポップミュージックを作る感覚は、両者に共通点がありますか?

課長:「確かに、真部さんの作品には、日本独特なのか真部さん独特なのか分からないですけど、ジャパニーズポップを感じますね。でも、テンプレートには嵌っていない」

真部:「そうですねえ。まあ当然、はっぴいえんどに始まり、ムーンライダーズ、ピチカート・ファイヴ、菊地成孔さんといった、J-POPに対して挑戦的に何かを成し遂げた人たちがいるので、その系譜上で自分も学習してきたというか、リスペクトしてきたんですが。なんでしょう、僕は単純に、自分が好きな音楽と、自分がやっている音楽との乖離みたいなものがあるのかもしれないです。邦楽に関しては、音楽というよりも文化として受容して、洋楽は純粋にリスニングをして。その整合性が取れないまま来たのかなあ、という感じがします」

課長:「僕も邦楽とはずっと距離があって、中学に入ったときに友達から、女の子と話したいんだったらJ-POPを聴いた方がいいよ、って言われたんですよ。で、一応聴いたんですけど、結局あまり自分の肌に合わなくて。宇多田ヒカルさんは、以降もずっと聴いていたんですけど。それからはずっと洋楽、最初は主にビートルズから、親父がプログレ好きだったので、マイク・オールドフィールドとかイエスとか、そういう方向に向かっていきました。大学に入って心機一転ベースを始める、ということになってからですね。邦楽を徐々に受け入れるようになって。みんなコピーをやっていたので」

真部:「思春期に邦楽を聴いていなかった、というのはおもしろいですよね」

課長:「だから、高校時代に聴いていた音楽をあらためて聴くと、もう冷静に判断できないぐらい良さを感じてしまうんです。アレンジどうこうじゃない、みたいな。あのとき染み付いたものは大きいな、と思いますね」

真部:「課長さんや川谷さんが出てきたときに、この人たちは職業作家だったりスタジオミュージシャンだったりするんだろうな、というクールなイメージを抱いていたので、そういう熱い話が聞けて嬉しいです」

課長:「クールとは割と真逆かも知れないですね。川谷も僕も同じ軽音部にいたんですけど、オリジナルの曲でライブハウスとかに出ていると、外バンって呼ばれるんですよ。職業作家なんて話にも出なかった。もう外の世界というか。軽音部時代はどちらかというと衝動でやっていた感じです」

真部:「僕も大学の軽音楽部に騙されて入ったんですけど、そこで出会った人たちと組んだバンドが、進行方向別通行区分というバンドだったんです。ドラマーの西浦(謙助)さんもそのときからの付き合いなんですが。メンバーの就職などがあって進行方向が続けられなくなったときに、相対性理論を始めようかなって。ベーシストがいない! というところからベースを弾くようになり」

課長:「相対性理論、めっちゃ聴いてました。大学院に行ったんですけど、院試(大学院受験)のときにすごい聴いていて。だから図書館が思い浮かぶんですよ(笑)。やっぱりみんながコピーバンドをやっていて、僕も“LOVEずっきゅん”をやったり」

真部:「うわあああ、やめてー(笑)」

課長:「中毒という言葉がしっくりくるというか、やたらに聴いていましたね。そういうフォロワーみたいな人もいっぱいいたのかな。」

やってみないと分からない。取り敢えずレコーディングして、MVも撮ってって、漠然と船出したんですけど(笑)(休日課長)

●若い頃に邦楽に対して距離を感じながら、アーティストとしてそれぞれにキャリアを重ねて。奇しくも2017年に、それぞれに新しいバンドを始動させてメジャーデビューしたわけなんですが、日本のポップのフィールドで勝負するというのは今、どういう動機があったのでしょうか。

真部:「実は集団行動が人生初メジャーデビューで。僕はそもそも、プロデューサー気質の、メタで冷めている人だと思われがちで。自分がプレイヤーとして前面に出ない活動が多かったですし。そこに対するリベンジではないですけど、自分の熱量をぶつける場所が欲しかったんです。熱量を持ってやっているんだということを、ちゃんと見せたいなと。事件性がないと成り立たないようなものではなく、『音楽作品としてクオリティの高いものを、熱量を持って出すにはどうしたらいいか』ということを模索しているので、DADARAYさんみたいにシンパシーを抱く人に出会うことも、自分の目標の一つです」

課長:「DADARAYのバンド名はそもそもダダイズムから来ているので、既成概念を破壊するという思いがあるんですけど、シーンの中でどこだと言われると難しいですね。『女性ヴォーカルで何かやってみたい』と僕も川谷も考えていたので、思いが合致したところでDADARAYが始まったんですけど。やっぱり、やってみないと分からないよね、というところはあります。取り敢えずレコーディングしてみよう、MVも撮ってみよう、みたいな感じだったので。この舟はどこにいくんだろうって、漠然と船出したんですけど(笑)」

真部:「取り敢えずやってみよう、でメジャーデビューするのって、僕らたぶん稀有ですよ(笑)」

課長:「そうですよね。でも、川谷も僕もキャッチーさを常に意識していて、何かしらキャッチーさがないと、というのは考えています。それをどう綺麗に見せるか、というのが拘りたいところで。それこそ、安易なテンプレートに当てはめる方法でキャッチーを目指したくないっていう」

真部:「逆に、趣味性を高くしようと思えば高くできる人が集まっている中で、キャッチーさを上手にコントロールしているところに親近感を抱くというか」

課長:「確かにそうですね。みんな技量もあるんで、やろうと思ったら相当コアなこともできるんですけど、じゃあ『それが果たしてやりたいことなのか?』というとまた違って。だから、自然にキャッチーをやりたいんですよね。何かそこで捨てているわけではないし、精神衛生的にも良いですし。かっこよくキャッチーなものを入れたいという共通認識が、結束力にも繋がっているというか。人間としてはバラバラなんですけど(笑)」

真部:「それを目指しているんですよ(笑)」

(2バンドで)全然違うライブになるでしょうね(休日課長)
シーンに回収されることのない2つのバンドが、同じ場所に会することに意味がある(真部)

●対バンムードを煽るような質問になっちゃうかも知れないんですけど、ウチのバンドはこれがあるから負けない、という部分をそれぞれに教えていただけますか。

真部:「集団行動は、キャリアを積んだ人たちが趣味でやっているバンドみたいに見られるケースもあるんですけど、そんなことはなくて。自分でもびっくりするほどフレッシュな音楽をやっていますので、かつて一緒に活動していたメンバーを含みながら、自分の作風がこれまでとはまったく違う方向に変化しているのを感じていて、楽曲の力、人の力をダイレクトに感じられるプロジェクトだと思っています。音楽が好きな人も、好きじゃない人も両方楽しめるようなライブを、って言ってきているんですけど、その両方に訴えるという意味では、負ける気はしないですね(笑)」

課長:「DADARAYは、女性ヴォーカル2人のライブでの声の化け方が本当に異常なんで。音源は音源で良いんですけど、ライブで観る伝わり方というのはまた別物じゃないですか。ウチの女性陣2人に関しては、僕は絶対的な自信を持っています。凄まじいです。真部さんが仰っていた、普段音楽を聴かない人にも伝えたいというのは、僕らも思っていることなので。僕も最近、舞台とかを観に行くようになって。やっぱり生で観るものの良さというのは確実にあるなと改めて思うようになって。でも、体験しないことには分かりませんからね。たまたまライブに連れてこられた人も、今後もライブに行ってみたいって思わせたいですね。そのためにも、ウチの女性陣に負けないように、僕もベース、頑張ります!」

真部:「色々お話できて、共通点もいっぱい見えたんですけど、ツーマン当日は、一匹狼VS一匹狼みたいになると思うんですよ」

課長:「確かに、全然違うライブになるでしょうね」

真部:「シーンに回収されることなく活動している2つのバンドが、どこかしらの共通点を持って同じ場所に会するということに、僕は意味があるなと思います」

課長:「2カ所でご一緒できるというのが、また嬉しいですね。ツアーですからね。僕らも進んでいるので、その時その時のDADARAYをみせられたらいいなと思います」

(インタビュー・テキスト:小池宏和)

■真部脩一×休日課長コメント動画