《女声合唱団 彩の会》から《彩》が分かれて二年目。初めて委嘱した曲が「火の山の子守歌」でした。あれからもう六年もたったというのに、初演まえの練習の情景が、今でもありありと昨日の事のように思い出されます。
忘れもしない、あれは新宿文化センターの地下リハーサル室での練習でした。あの曲集は8曲から成り、その中の最後に収められているのが、タイトルの曲「火の山の---------」でした。8分の6拍子のゆったりとした、新実さん独特の、それはそれは優しさをたたえた子守歌です。
夜が くばる やさしさの便り
あおい 鐘が 鳴りはじめたら
火の山のふもと ナルコユリ咲く
ささやかな風に 吹かれてひとりで
月の ひかり 縄ばしごおりる
指を ひらく 影法師よ ねむれ
「この月の光はお母さんなんだよ。そのお母さんが、静かに指を開き手を差し伸べて、地上の自分に向かって、優しい子守歌を歌ってくれているような気がしないかい?」
そういう栗山先生の言葉に、二年前に亡くなった故郷鳥取の母のこと、幼い日の自分と、子供のこと---------。さまざまな思いがこみあげてきて、しらずしらずのうちに頬には涙がつたっていました。後奏のピアノのアルペジオが終わり、最後の和音が静かに鳴ったあとの沈黙------。ふと、周りを見ると皆同じ思いのようで、それぞれの目に光るものがありました。多分栗山先生の目にも------。
これまでいろいろな歌を歌ってきましたが、こんなに胸を熱くして歌ったことは後にも先にもありません。この日から「火の山の子守歌」は、大好きな"白青"の中でも特別な一曲となりました。
こんなに優しく人の心の琴線に触れる、美しいメロディを書いた新実先生もすごいですが、これしかないという歌詞をつけた谷川雁さんは、ただただ敬服の一語に尽きます。
|