the id : 2001.07.09

『 オムライスの日 』

こないだ、お父さんにオムライスを作ってあげた。
私は実家に住んでいながら、家事の手伝いをほとんどしない。自慢にならないことだと承知で言うのだけど。
洗濯機の回し方ひとつよく知らない私が、なんで人のためにオムライスを作ってあげることになったのかっていうと。

母がしばらく家を空ける用事があったもので、1週間ほど父とふたりきりの生活をした。
ちょうど兄がひとり暮らしを始めるために家を出たばかりだったもので、我が家は急にがらんとした感じになった。
父は寂しかったのかもしれない。何かにつけて私に話しかけてくる。
それを心のどこかで面倒臭く感じながらも、あまり冷たくもできないので曖昧に返事をしたりしながらやり過ごしていた。

我が家は昔から家族揃って食事をするということがめったになかった。
家族みんながそれぞれ時間帯の違う仕事をしているためにそうなってしまうのだけど、父は特に出張で何日も地方や外国に行っていることがよくある。
それが当たり前だったので、たまに全員揃ってしまうと妙にテーブルが狭く感じて「なんだ狭いなあ」と私は文句を言った。
でも父はそういう時いつも「嬉しいなあ。今日は全員揃った」とか言いながらビールを飲むのだった。

母が留守にするとき、家事全般をやるのはいつも父の役割になった。
というか、普段から家事を進んで手伝う人なので、ここぞとばかりに喜んでご飯を作ったり洗濯をしたりしてくれる。
今回もその調子で私は父に全部を任せるつもりでいたのだけど、ちょうど仕事がすごく忙しい時期だったようで、ふと気が付けば洗濯機の中は洗濯するものでいっぱいになっていた。
こうなっているのに、あの世話好きな父が何もしていないってことは相当忙しいんだ。
こりゃ私がやるしかないかなという気になった。

とりあえずお風呂に入りたい。じゃあお風呂を洗ってお湯を張ろう。
ついでにお気に入りの入浴剤を入れてくつろごう。
洗濯しなきゃ。じゃあ洗って干そう。
でもどうやってやるの、と母の携帯に電話をかけたけど繋がらない。適当にやっちまえ。
ざっと掃除して、ゴミを捨てて、飼ってる小鳥の水も取り替えた。
気付けば夜中だった。
お腹減った。
ご飯食べたい。まずたまってる洗い物を片付けよう。
冷蔵庫の中を覗くと微妙に色々ある。あ、オムライスならできるかも。

と。そこへ父が帰ってきた。
風呂上がりにビールを出してあげた。
「お腹減ってんの?」一応聞いてみた。
減ってると言うので、本当は1人前作る予定だったオムライスを2人前に変更した。
材料も最小限しかなかったので本当に何の変哲も無いただのオムライス。
父のぶんを作っているとき、塩こしょうを多く振りすぎてしまったので、これはちょっと辛いかもしれないと思ったのだけどそのまま出した。
「辛いかもよ」と言いながら差し出すと、父は「うまいうまい」と言ってむしゃむしゃ食べた。
父のぶんを作り終えて自分のぶんに取りかかった。二つ目だからさっきより要領を覚えて上手にできた。
実際、美味しかった。私が父の横で「なんだ、うまいじゃん」と言って食べていると、すでに食べ終えた父が「うん、うまい!ピリっとしてて。」と大きな声で言った。なんだ、やっぱり辛かったんじゃないかと思ったけど言わなかった。

食べ終わって、お皿を洗った。
こんなに色々家のことをやったのは、本当に初めてだった。
父は疲れてるようで、リビングで横になったまま本格的に寝てしまった。この時すでに私の持ってる親切心は全部使い果たしてしまっていて、布団を敷いてあげたりするほどの気力は残っておらず、もうそのままにしておくことにした。夏だから、風邪はひかないだろう。

自分が入りたくて湧かしたお風呂と、自分のために入れた入浴剤、自分のためだったオムライスが、なぜか父を喜ばせるものになってしまった。
次の日の朝、ベランダに干してある洗濯物を見てまたまた父は驚き喜ぶことになるんだけど。

家事って疲れるんだなあ、毎日やるのは大変だ。
家族って必要だなあ、ひとり暮しになったお兄ちゃんはどう思ってるんだろう。
何はともあれ、お父さんとふたりっきりは結構照れた。

*maaya*