the id : 2008.6.2
日本を飛び立ってから、このベッドに横になるまで、いったい何時間を要したのだろう? 成田からアムステルダムまでが12時間、トランジットしてカイロの空港までが9時間、そこからタクシーでホテルまで移動して…と、ぼんやり頭の中で計算してるうちにもう目覚ましが鳴った。
ベッドに入ってからたった1時間後の起床。睡眠…とは呼べないな、これは仮眠。でも重くむくんだ身体を叩き起こして服を着る。だって今日は、夢にまで見たピラミッドを観に行くんだもの!!
ニューシングル「トライアングラー」大好評発売中にこじつけて(おっと。「あやかって」?)更なる三角形とのコラボレーションを求め、はるばるエジプトまでやってきた。さかもっさん、あれ三角形じゃないどすえ、四角錐どすえ、なんていう突っ込みはいっさい受け付けませんのであしからず。
テレビや教科書の中では何度も見たことがあるピラミッド。でも実際にこの目で見る日が来るなんて。世界中の遺跡、世界中のふしぎ、世界中の匂いや音、景色、食べ物、そして人。短い人生の中で少しでも多くのものに出会いたいという夢を、私はいつも追いかけ続けている。なんたって子どものころクイズ番組「世界ふしぎ発見」のミステリーハンターに憧れていたくらいだもの。仕事で世界中を探検できるなんて素敵すぎる!(でもレポーターさんがどっかの国で虫を食べているところを見て私には無理かもとあきらめたのだ。)だから今回のピラミッドとコラボ計画は最高に嬉しいミッションだった。
朝、7時。
ホテルを一歩出ると街はもう人と車で溢れかえっていた。ひっきりなしにあちこちで鳴るクラクション。車線はあってないようなもので、道幅いっぱいに並んだ車が我先にとぐんぐん割り込み合う。一台に何人もの人が体を小さくしてぎゅうぎゅうに乗り合わせ、それでもおさまらず車体の外にも数人しがみついている。車の列と並んで荷台を引いたロバも行く。そんなラッシュアワーの車道にすごいタイミングで飛び出し横切る歩行者たち。乾いた風は砂と香辛料の匂い。タクシーの車窓から眺めるすべてがこれまで触れたことのないようなものばかりだ。
ビルの立ち並ぶ近代的な街の中心部を走っていたはずが、気づくとその向こうに大きな三角形のシルエットが見えていた。あれ、もしかして…?
そう。こんな街の真ん中に、こつ然と現れるピラミッド。噂には聞いていたけれど確かにこれは不思議な光景だ。砂の風のせいか、排気ガスのせいか、空気が霞がかかっているのでかなり近づいているはずがまだシルエットにしか見ない。距離感もつかめなくて、まるで蜃気楼みたいに、本当にそこに存在しているのか疑いたくなるような違和感。
でもその三角形の足下までたどり着いたとき、想像以上の圧倒的な存在感にことばも出なかった。階段状に積み重ねられた岩の1段目だけですでに私の身長ぐらいの高さがあり、頂上は天に届きそう。触れてみると石の表面は意外にもツルツルしていてなめらかな肌触り。何千年も前にこんな大きなものを建てた人たちがいて、今もこうして立派にそびえ立っていて、まだ謎がいっぱいあって、周囲は都会の喧噪で、朝から観光客だらけで、でもお墓で。あんまりにも大きすぎるのと、あんまりにも長い歴史の流れに、なんだかよくわからなくなる。
ああ、これだあ!見ること、触れることですべてがつながる感じ。
私の中にあった平面の知識が、デコボコの現実感をともなって目の前にそびえたっている。これだから旅が好き。この世界が好き。知らないことに出会うのが好きでたまらない。知ったつもりになっていた概念を、思いきりぶちこわしてくれる感覚にゾクゾクする。
むかしむかしの王様が、永遠の命にあこがれて、こんなに大きなお墓を建てた。いつか蘇るときのためにたくさん準備して、ミイラまで作った。結局肉体は蘇らなかったけど、ピラミッドの存在感とともに永遠にその名を世界中に知らしめたのだから、ある意味願いは叶ったということなのかもしれない。代償として、自分のお墓にこんなに多くの観光客が足を踏み入れることになって騒がしくなってしまったけど。
古代エジプト人たちにとって三角形は、「永遠の命」を意味する特別な形だったという。「トライアングラー」も永遠に人々の耳と胸に残る曲となりますようにー!
つづく。
*maaya*