『IDS!アイドリングストップ!20周年Special LIVE
“ Thanksgiving〜これからもよろしく〜”』
ライブレポート
『IDS!アイドリングストップ!
20周年Special LIVE
“ Thanksgiving
〜これからもよろしく〜”』
ライブレポート
坂本真綾のファンクラブ20周年記念イベント『IDS!アイドリングストップ!20周年Special LIVE “ Thanksgiving〜これからもよろしく〜”』が5月24日と25日の2日間行われた。場所は山梨県の富士山の麓にある野外音楽堂、河口湖ステラシアター。実はここ、ファンクラブ会報のアンケート企画で“思い出に残っているファンクラブイベント”として1位に選ばれた2019年3月の『坂本真綾IDS!EVENT2019 15th Anniversary SPECIAL “ The End Of The Winter ”』の開催地。その声に応える形で実現したのが今回2度目となる河口湖ステラシアター公演である。東京から会場までバスで移動するオフィシャルバスツアーも多くの申し込みがあり、車中では坂本真綾本人からのメッセージ動画が上映されたり、記念グッズが配られたりと楽しめる要素が盛りだくさん。今回のレポートでは開演前から少し雨がちらついていた初日の24日の様子をお伝えする。
野外音楽堂ではあるものの、雨が降っても安心な可動式屋根がある河口湖ステラシアター。半円形のすり鉢状になった客席と屋根の隙間から、森のグリーンが見えておりモダンなデザインと自然が調和していてとても素敵だ。開演時刻を少し過ぎ、バンドのメンバーがステージに登場すると、大きな拍手が沸き起こった。ピアノの音色が会場にそっと広がっていき、坂本真綾が真っ白なセットアップの衣装で登場。「風待ちジェット」の爽やかな曲調からライブがスタートすると、みんなで手と手を合わせるような振り付けもバッチリ決まって、オープニングから温かなムードに包まれた。「皆さん、ようこそお越しくださいました!」と笑顔で挨拶した最初のMCでは、今回のセットリストを「時計の針」をイメージして組んだと教えてくれた。朝起きてカーテンを開けた時から、陽が落ちて夜が深まっていくまで、そんな時間の流れを音楽で表現しながらみんなで同じ時を過ごしていこうというのである。こうしたコンセプチュアルなライブも、坂本真綾のファンクラブイベントならではの楽しみだ。


そんなコンセプトから「午後の日差しの強い時間帯に相応しい曲」として選ばれたのは「nina」と「世界のひみつ」と「Drops」。どれもこの日がライブ初披露の新曲である。「nina」と「世界のひみつ」の疾走感溢れるサウンドに、お客さんの初めて生で聴けた嬉しさと胸の高まりが加わって、会場の熱気がグッと上がった。5月21日にリリースされたばかりの「Drops」では、坂本がコーラス部分をお客さんにマイクを向ける場面も。みんなの声がひとつになって、初めてこのアンセムは完成するんだと実感した。
中盤もポップな曲調とキュートな歌声で魅了した「DOWN TOWN」、昭和歌謡っぽいメロウなムードの「失恋カフェ」、ウッドベースとピアノと憂いを帯びた歌声に聴き入ったバラード「君の好きな人」など、ファンにはたまらない選曲が続く。四つ打ちのバスドラから始まった「30minutes night flight」もまた、時間旅行にぴったりでロマンチックな世界観のギターロック・ナンバー。デビュー30周年を迎え、コンスタントに楽曲をリリースしてきた彼女なだけに、ライブで聴くのは10年ぶり?15年ぶり?なんて曲もザラにある。自分が長く好きでいる曲を久しぶりにライブで聴けて嬉しいという感覚も坂本真綾をずっと追いかけるファンの醍醐味でもあるだろう。


そんな坂本真綾、現在は「30周年企画MAAYA’s BEST SONG〜あなたの一番好きな坂本真綾の曲を教えてください〜」という投票企画が進行中で、TOP10の中間発表がされたばかり。MCでその話題に触れ「『Be mine!』(中間発表4位)がダークホースじゃない?すぐに原さん(原昌和/the band apart)にも連絡したら喜んでいました!」と報告。現時点ではかなり票が割れているらしく小声で「何回か投票できます!」と言い「そしたら最終発表が面白くなるかも?」とワクワクしている様子を見せた。
終盤、このイベントの初日限定の選曲として披露された「夜」では、バンドの音と呼吸を合わせて凄まじい集中力で歌い上げていく姿が印象的だった。そこから一転、軽やかなステップで楽しそうに届けてくれた「Once upon a time」。ピンクのシースルーのドレスも華やかなムードにとても似合っていた。更なるハイライトだったのは、もともと制作時に富士五湖周辺をイメージしていたという「アイリス」。麗しい声とメロディの中に恋心を閉じ込めるような切ないラブソングが、ロマンチックに披露された。パープルのライトが会場を照らし、この曲だけの世界観を生み出していく。それはとても贅沢な時間だった。坂本真綾は年齢を重ねた今、バラードを歌うときに、穏やかな透明感で深く心に染み込んでいくような声の魅力が更に増した。誰にも話せないような想いを綴った「アイリス」に心を寄せて愛聴してきたファンも多いことだろう。ファンクラブの歴史は彼女の音楽に心を寄せてきた人たちの歴史でもあるのだと、つくづく感じた。


「ファンクラブの20周年企画は今日と明日で最終日です。それとオーバーラップして始まったデビュー30周年。25周年のとき以上に、ただただ感謝の気持ちです。私だけでは絶対に到達できなかった30周年。皆さんが応援してきて良かったと思えるような1年になるように頑張っていきます」。そんなMCの後の「ユニバース」ではステージ後方の壁が左右に大きく開き、屋外の降り注ぐ雨の中に光が差した。そしてこの日、「時計の針」をイメージしてセレクトされた最後の曲は「ループ」だった。MCの中で「何かが終わる瞬間、何かが始まっています」という言葉もあったが、夜が来て、終わりではない。1日の終わりには新しい1日が始まるんだというメッセージを伝えてくれるのがこの曲だった。総立ちの客席に、彼女の穏やかで優しい歌声が降り注ぐ。たとえ何かが終わっても始まることがあると、そう思えたら、希望だと思った。こうしたセットリストひとつにも坂本真綾のストーリーテラーとしての手腕が発揮されている。
更にこの日は「皆さんに宇宙初発表する情報があります!」と、「坂本真綾30周年記念SPECIAL LIVE」の開催が発表された。2026年4月18日(土)、19日(日)、東京有明アリーナにて。少しずつ情報を読み上げる度に「おお!」「おお〜っ!」と客席から大きな歓声が上がった。最後の曲は「ポケットを空にして」で、このファンクラブイベント限定の旗を全員で振りかざしながら大合唱し、「私、SNS始めたからさ!」と笑いながら会場にいるみんなで記念撮影をして終了となった。5月の河口湖の涼やかな風と共に、また新しい思い出が刻まれた坂本真綾のファンクラブ20周年記念イベントだった。さあ、ここからはデビュー30周年を楽しもう。


テキスト:上野三樹
撮影:羽田誠
坂本真綾 30周年記念SPECIAL LIVE
開催日:2026年4月18日(土)・19日(日)
会場:東京有明アリーナ
※詳細は後日お知らせします。