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『坂本真綾「M30〜Your Best〜」
プレミアムアコースティックライブ』
ライブレポート

『坂本真綾「M30〜Your Best〜」
プレミアムアコースティックライブ』
ライブレポート

2026年1月30日に『坂本真綾「M30〜Your Best〜」プレミアムアコースティックライブ』が開催された。これは昨年10月にリリースされた、30周年記念ベストアルバム『M30〜Your Best〜』を購入した方の中から抽選で500名が招待された一夜限りの特別なライブ。会場となった府中の森芸術劇場ウィーンホールはウッディでクラシカルな雰囲気の内装で、ステージの背景にはパイプオルガンが備えられている。集まった観客たちは、開演前から静かに幕が開けるのを待っていた。

まずステージに登場したのは松本圭司(Piano)と外園一馬(Guitar)。今回のアコースティックライブは、パーカッションやウッドベースを含まない、坂本真綾を含めて3人きりというミニマム編成がポイントだ。ピアノがたっぷりとしたイントロの音色を響かせ、ギターがそこに重なると、ナチュラルなベージュのドレスを身に纏った坂本が軽やかに登場。大きな拍手の中、「30minutes night flight」を1曲目にライブが始まった。彼女がゆったりと伸びやかな声で歌い始めた途端、このホールは小さな宇宙船になったような一体感で3人が奏でる音楽を受け止めた。アコースティックながら曲が持つビート感をしっかりと表現するピアノとギターの演奏が心地良く広がっていく。

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「こんばんは、坂本真綾です。今日はベストアルバムを買っていただいた方の中から抽選で500名の方に来ていただきました、すごい倍率だったと聞いています。ここにいる皆さんは早くも今年の運を使い果たしちゃいましたね!」、最初のMCで冗談を言ってみんなを笑わせた。ちなみに今回のアコースティックライブでは、ベストアルバムの時に人気投票でランキングした50位〜31位の20曲の中から応募者が再投票を行い、上位5曲をカウントダウン形式で歌っていくという。というわけで5位の「30minutes night flight」に続いて届けられたのは、4位にランキングした「ユニバース」だ。重厚感のあるピアノの音色と、熱気溢れるリードギター、そこに神聖なる祈りのような歌声が加わって素敵な演奏だった。いつものライブのように舞台セットや照明やヴィジョンなどの演出があるわけではない、だからこそ極めてシンプルにダイレクトに音楽を感じることができる。その全ての音が贅沢に、耳に、心に届いている感覚。

続く「Q&Aコーナー」ではみんなから事前に募集した「坂本真綾に聞いてみたいこと」に答えていく。初っ端から、質問が書かれた紙を見ながら「たいした質問がなくってね〜」と真綾節を炸裂させてみんなを笑わせつつ、「歌手デビューしたての頃の自分にひとつアドバイスをするとしたら?」という質問に、こんな風に答えてくれた。「芸名でデビューしたら?とは思いますね。まだ16歳で自分が確立していない思春期の私が、本名のまま活動していたから色んな反応を受け止めきれないこともありました。芸名というワンクッションがあれば、もうちょっと楽だったかもなって思うこともあります。でもその一方で、自分の名前が何かの作品にクレジットされていたりするのを見ると夢を成し遂げた感じがして嬉しくなったりもします」と。その他、ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』に出演した際のエピソードや、「板橋区で行った方が良い名所は?」に「そんな場所はない!」と即答したり(笑)、たくさんの質問に答えて楽しませてくれた。「落ち込んだ時にどうやって前向きに気持ちを切り替えますか?」の質問には「その方法はいまだにわからない」としながら、「ただ私にとって『書く』という行為は没頭できることで、歌詞を書くこともセラピー的な効果があります」と話してくれたことも印象的だった。

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トークコーナーを終えると、爽やかな疾走感のあるピアノのイントロとともに3位の「走る」が披露された。生き生きとした風が走り抜けるようなサウンドと共に、楽しそうな笑顔で歌う。一方で、2位に選ばれた「gravity」では繊細な音の重なりが作る彩りをまざまざと感じ取れるような、うっとりとするひとときだった。客席の両脇の柱を飾るステンドグラスの仄かな灯りが、この曲の抒情的な魅力を引き立てていた。

そして今回のアコースティックライブで聴きたいというリクエストが1番多かったのは「Tシャツ」。「皆さんマニアックですね!」と言っていたが、2001年にリリースされたサード・アルバム『Lucy』に収録されている1曲。研ぎ澄まされた素直な言葉で綴られたラブソングが今もなお、胸に刺さっているというファンもきっと多いことだろう。30周年の今になって坂本が歌う「Tシャツ」は格別の味わい深さと、変わらないエモーションに溢れていた。こうして5曲を演奏した後に、サプライズで「菫」を披露してくれたのも忘れられない。ギターとピアノが交互に印象的なフレーズを奏でると、その真ん中で優しい表情の彼女が温かな歌を届ける。坂本真綾という人がアーティストとしても一個人としても、時に悩んだり葛藤したりしながら前を向き、歩み続けてきたからこそ表現できる深い愛情を感じる、感動的なラストだった。

終盤では4月18日と19日に東京・有明アリーナで開催する30周年記念ライブについても語ってくれた。「1日目は北川勝利バンド、2日目は河野 伸バンドで、セットリストも異なる2日間。リハーサルが本当に大変だけど、その大変さを乗り越えてやる意義があると思う。ぜひ2日間どちらも観にきてください!」と。ライブは本当にその日限りの特別なもの。皆さんの大きな拍手と共に幕を閉じた、贅沢でプレミアムなアコースティックライブの光景を胸に刻みながら、坂本真綾のデビュー30周年を締めくくる記念ライブがますます楽しみになった。

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テキスト:上野三樹
撮影:梁瀬玉実