第12回 GUEST:
Producer 菅野よう子
いよいよあと1人!というところでそのまんま放ったらかしだったこのコーナー。お待たせしました。最後の1人でゴザイマス。出るぞ出るぞという雰囲気の中、やっぱり出たぁ〜菅野よう子っ!て感じですかね。我がプロデューサー。私のデビューの時からなので、気がつけばもう知り合って7年もたっていたのですね。わたくしもう観念して、この人には何も包み隠すことなく全部見せてしまっていますので、そういう人から見た私像を聞くのはいささか怖いんですけど、まあ良い機会だからね。
カンノさんの恐るべきところは、その動物的な勘の強さだと私は思う。それは仕事の面でもそうだし、人を見て何か感じ取る力だったり、ここぞというときの判断力だったり。よく言う「女の第六感」というレベルではなくて、野生時代の勘をいまだ持っている貴重な人間って感じ。
誰だって、食べ物も人も生き方も、ナチュラルなものを好む。だけど作為的なものが多すぎるこの世の中では、何が自然なのか見分けるのさえ困難です。本当は体は正直で、我慢できないことに抵抗したり、嫌なことがあるとしょぼくれたりしているはずなのに、私たちは心も体もドーピングしまくって、ごまかしながら何でもないようなフリをすることができる。それが今の時代では当然のことのような気がするから。 カンノさんの場合はそれを、見えないしっぽとヒゲでしっかり見分け、正直に反応することができる。そして何か感じたときは、それを心から信じてる。勘に従うことで、より一層勘が鋭くなっているという感じ。自分が何を欲していて、何を選ぶべきか、常にわかっているように見える。これって実はホントに難しいことだし、きっとそうできる人は少ないはずですよね。
だからカンノさんの前では何か隠そうとしたってムダ。どうせ見透かされていて、こっちが恥ずかしくなるに決まってるんだから。更に思ったことはすぐ口に出す(そのくせ何言われてもなぜか憎めない。ほんっとずるい!)、動くもの全部に興味を持つコドモネコのような好奇心がある、超タフ。こういう壁を作らせない感じが、カンノさんの周りに人を集めているのかな。カンノさんの自然な人柄に触れて、集まる人もみんな自然でいられる。私がこれまでいつもマイペースに、自分という存在を感じながら歌ってこれたのも、そんなカンノさんとの出会いがあったからなのです。

(illustrated by maaya.)

回答者:Producer 菅野よう子
1)ふだん何と呼んでいますか?
他人行儀なニュアンスで、坂本さん。

2)初めて会ったのはいつ?その時の第一印象は?
坂本さん高校一年生。劇団の先生に伴われて。歌ってもらうかどうか、まずは会って本人の人となりを見てから決めようと。
雑談の中で、もう反抗期は終わったの?と不用意に聞いたら、なんて失礼なことを聞くのこの人は!という目でキッとにらまれた。その眼を見て、この小娘には<自分>があって、<自分>の気持ちに嘘はつけないな、とわかった。

3)それに比べて今の印象は?
全然変わってません。
全部顔に出てます。ははは。

4)坂本真綾を○○にたとえると?
わらびもち。プニュプニュしてうすあまい、粉まぶしたくなる。
泥付き野菜。根っこがある、植え替え可能、化学肥料でゆがんでない。
サル。腹丸だしでキャーキャー騒ぐ、そのくせ知らない人がくるとすぐビビって隅に隠れようとする。わりと小銭にうるさい。
ギターのコードならDメジャー。明るいのだがちょっと懐かしい、陰影がある。

5)あなたの知っている「坂本真綾伝説」
16歳、生まれたときからそうしてるようにマイクの前で歌っていた。
17歳、サラッと書いてきた<パイロット>の歌詞の新鮮な感性に驚かされる。
18歳、大人が寄ってたかって、歌手坂本真綾を演出しようとして、あなたはとまどっていたと思う。
19歳、しばらく会わないでいたら、緑のマニキュアをしてスタジオに現れ、一同ドキドキする。
20歳、トンネルをいくつも抜けた。
21歳、大学を卒業できないかもと言いだし、もしできなくても他人にどうこう言われる筋合いのものじゃなく、自分の問題、と突っ放す。その後、心配しながら見守るうちひょっこり卒業。守られてるな、と思う。女子会で数々の暴言を吐く。
22歳、そろそろ独り立ちさせようと、あまり構わないようにするが、実は気になってしょうがない。

6)最近発見した坂本真綾の新たな一面
なんの後ろ盾もなく、芸の力だけで数々のオーディションを勝ち抜いて、ミュージカルや吹き替えの役を得てる。加えて、そういう試練を乗り越えてきたという慣れや業界ズレがない。結構たくましー。

7)これだけはやめて欲しいと思っていること
レコーディング合宿中、みんなのためにサラダを作ろうとしたらしくレタスを手に取り、野菜って洗剤で洗うの?と聞いた。
それから我々は彼女の料理がこわい。
野菜は水で洗ってください。

8)あなたと坂本真綾の共通点・似ているところはありますか?
おとこらしいところ。
レコーディングなどで本気になってくると、口調がぞんざいになるところ。

9)坂本真綾の一番の魅力は?
水っぽーい声。水滴がいっぱい。
日本語、英語、どっちも区別なく同じように発音が美しく、品がいい。マイクを通して言葉を伝えようという姿勢にブレがない。
ちょっと誉めすぎたので苦言もひとつ。
自分で作った歌詞くらいは覚えるように。

10)坂本真綾にご自由にメッセージをどうぞ。
せかいいち愛してるぜっ、と大きな声で言ってやる。<エッチな意味ではない>
言葉で何でも表現できて分析できる、という方向に過剰に進みつつある世の中で、不安定で形にならない、水っぽい作りたてのわらびもちのようなオマエの魅力をどうやってお客さんに伝えていくか、いつもいつも考えているよ。
CDを買ってくれる人たちは、どこがいい、とはっきり口にできないところをきっと好きになってくれてるはず、と思う。それから、痛いとか辛いとか苦しいとか大騒ぎすることでしか伝えられないこと、絶対にある。 だから我慢しないで騒ぎなさい。これからもね。
最後に、オレの気づかない魅力を見つけて育ててくれる人たちとの出会いを、大事にしていってほしい。いつでも自由に飛んでいい。
オマエが選んでいい。もう大丈夫だから。

11)坂本真綾にキャッチフレーズを付けるなら?
少年アリス。



あらっ?あららっ?!なんかちょっと誉められすぎじゃありませんか私!?いやぁ〜最後にカンノさんに頼んでよかったぁ〜、おかげでうまくまとめていただきました、このコーナー。あはは。
以前スタジオで、誕生日別の占いの本をみんなで回し読みしていて、それぞれの欄を読んで「当たってるぅ〜」と盛り上がっていたのですが、カンノさんのところにはこんなような事が書いてありました。
「身近な人を、そして数えきれないほどたくさんの人々を、幸せするために生まれてきた人。人を楽しませることが大好きで、それを職業にし、支持を得る」
当たってるぅー。彼女は、もちろん音楽という方法でたくさんの人に喜びを与えているわけだけど、それだけじゃなく、カンノさん自身の持っている不思議な威力によって私たちはみんないつも楽しく仕事をしているから。スタッフやミュージシャンに本気を出させる名人。この人が望むようにやってやるぜ!とみんなのヤル気スイッチを押す名人。どんな事もおもしろくなるように改造する名人。カンノさんのまわりでは、いつもすべてが弾んでいて、みんなが楽しいと感じている。
そんな師匠のもとで7年も過ごしている私は、すぐ近くでカンノさんの仕事っぷりを見ながらたくさんのものを盗んでいる。それは音楽的なことというよりも、むしろ生き方であり、考え方なのである。