NEWS
RELEASE
NEW ALBUM「901号室のおばけ」
2024年11月20日(水)発売
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通常盤(CD)
VICL-66023 / ¥3,520(税込) -
封入特典(初回生産分のみ) : スペシャルイベント抽選応募シリアルA
- CD購入・ストリーミング / ダウンロード
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VICTOR ONLINE STORE 限定盤
(Disc1+Disc2(Instrumental CD)+28P PhotoBook)
NZS-986 / ¥6,050(税込) -
封入特典 : スペシャルイベント抽選応募シリアルB
- CD購入
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- 収録曲
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綺麗なままで
星の朝露
〇〇ちゃん
喫茶店にて
誰もいない駅
短くて長い詩
透明な私
本当のこと
知恵の輪
月のあさひへ
- CD封入特典スペシャルイベントご招待!
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- ①ミニライブ&握手会...抽選200名様ご招待
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通常盤封入シリアルAとVICTOR ONLINE STORE 限定盤封入シリアルBの1セットで1回応募可能
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- ②リアルサイン会...抽選200名様ご招待
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通常盤封入シリアルA、またはVICTOR ONLINE STORE 限定盤封入シリアルBのいずれか1つで1回応募可能
- 開催日
2025年1月25 日(土)
- 開催場所
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東京近郊エリア
詳しくは商品封入の応募チラシをご確認ください。
2024年11月20日(水)正午より公開
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CONVERSATION
柴田淳×武部聡志対談
音楽プロデューサーに武部聡志さんを迎えて、4年ぶりとなるアルバム『901号室のおばけ』が完成しました。初タッグを組まれたお二人ですが、お互いに最初はどういう印象をお持ちでしたか?
柴田淳(以下 : 柴田)武部さんは私の中で名プロデューサーだし、巨匠であり、凄い人というイメージが大きかったので、仕事に関しては徹底的に厳しくて怖い方なのかなって勝手に思っていたんです。
武部聡志(以下 : 武部)えっ?!ほんとに?(笑)。
柴田はい…だから、去年武部さんのラジオに出演させて頂いた時に「一緒にやりましょう」と言ってくださった時、もしかして社交辞令なのかなと思ったり…。
武部何を言っているんだ(笑)。
柴田だってまさかそんな凄い人から声をかけていただくなんて思ってもいませんでしたから。でも、いざ現場でご一緒させていただいたら、シンプルにすっごく優しくて。「遠慮せずに何でも言ってね」って、私が何でも言いやすい、話しやすい現場にしてくださったんですね。それは本当にありがたかったです。
武部僕はもちろん以前から、柴田淳さんはどういう曲を書いてどういう世界観を持っているのかということを客観的に聴いて知っていました。で、去年、僕のラジオにゲストに来てくださった時にいろいろと話をしていく中で、きっと僕が作る音楽の世界と柴田さんの音楽の世界がシンクロするんじゃないかと直感的に思ったんです。たぶん僕が求めているような音楽の世界を持っている人なんだろうなと。ですから、音楽的に良いものが作れるんじゃないかっていう予感があったんですね。ただその頃、彼女は救急救命士の学校に通っていた時だったから、それが落ち着いて音楽活動を再開してアルバムを作るタイミングで、「一緒にやりましょう」とお声がけさせてもらいました。僕は自分で絶対にうまくいかないなと思う人とは一緒にやろうなんて言いませんから(笑)。
武部さんが求めているような音楽を柴田さんも持っているんじゃないかと言っていましたが、それは具体的にどういったものなのでしょうか?
武部僕は使い捨てられていくような音楽よりも、人の心に深く潜っていくような音楽が好きなんですよ。今まで自分が作ってきた作品もそうだし。それに映像的な音楽も好きなんです。言い換えれば、曲や詞の世界から景色が思い浮かんだり、絵が見えるみたいな音楽。柴田さんはそういうものを持っていると思ったし、そういう部分が僕と共通の感性があるんじゃないかなと。だから、絶対にうまくいくと思っていました。
柴田ありがとうございます。
そして今年に入って、一緒に創作活動が始まるわけですね。
柴田はい。今年の3月に救急救命士の国家試験を受けて、学校を卒業して慌ただしく過ごしていたんですけど、ようやく4月、5月でホッとして、音楽活動を再開したのは6月から。そこからコアな創作活動が始まったんですよね。ホントに久しぶりの曲作りなので右も左もわからない状態というか、極端な話、曲ってどういうふうに作るんだっけ?みたいな状況に陥っていたので、私の中では“武部さん、助けてください”って感じでした。
武部まさに猛暑の時期に一緒に作業していたよね。確か最初のミーティングで今までのお互いのやり方とかを話し合ったんですよ。
柴田はい。そこで「デモテープはどういうふうに作ればいいですか?」と訊いたんです。今までそんな感じのものを作ったことがないんですけど、何せ私は打ち込みとかできないし、ちゃんとした機材を揃えたプライベートスタジオもないし、デモテープを作る技術を持っていないので。そしたら武部さんは「そんなのはなくていいよ。ボイスメモでもいいし、何でもいい」って言ってくださって。
武部シンガーソングライターの人は自分の作る曲や詞に拘りがあるじゃないですか。その拘るポイントってアーティストによって違うわけで。自分で完璧に打ち込んでこういうメロディー、こういうコード、こういうサウンドってところまで作り上げた状態でプロデューサーやアレンジャーに聴かせる人と、家で鼻歌のようにピアノで弾いているだけって人もいるわけですよ。そこでまずはどっちがコンフォタブルに作れるのかっていう話をしたんですね。で、柴田さんはしばらくぶりに曲を作るから、きっと鼻歌みたいに作った方が彼女自身が楽だろうなと思ったんですよ。
柴田その言葉を訊いて、今までの柴田淳を認めてくれるんだなと思って凄く嬉しかった。
武部だから、1曲が纏まるのに時間がかかるんだったら纏まらなくてもいいから、例えばAメロの出だしはこんな感じとか、サビはこんな感じでもいいから、そのかけらだけでも投げてほしいと僕は言ったんですね。だけど、それは柴田さんのプライドが許さなかったんじゃない?(笑)。
柴田いえいえいえ…(笑)。かけらを渡すだけって逆に失礼だと思って。
武部そこで実際にリハーサルスタジオに入って、彼女が自分で思い浮かべた曲をまず自分でピアノを弾いて、ラララで歌ってもらったんですね。で、その横でそれを僕が譜面に書き取るわけです。そこから今度は僕がピアノで弾いてみて、「こういう世界になるんじゃない?」っていうようなやり取りをしていったんですよ。
柴田私の拙い曲を清書のようにピアノで弾いてもらったんですけど、それが私の予想を遥かに超えた素晴らしく華麗なピアノの響きだったんですね。私の中にあった不安はそこで全部吹き飛びました。
そこでお互いの感性をマッチングさせるという…。
武部いや…僕自身の感覚を強調するというよりは、「柴田さんがこういうことを考えているんじゃないの?」って投げかける感じですね。
むしろ曲のイメージを汲み取る?
武部そんな感じです。汲み取って形にするみたいな。
柴田最初は私、自分からメロディーをなかなかうまく出していけなかったんですよね。それを武部さんが「こういう感じかな?」ってピアノで弾いてくださって、そこで自分の中に溜まっていた音がバァ~っと溢れ出てくる感じで作っていきました。
武部結果、柴田さんから出てきた楽曲は、アルバムの収録曲の倍くらいあったかな。
柴田ええ。あ、もっとあったかも。それでどの曲を選んでいいのかもわからなくなっていたので、曲選曲もお願いしたんです。曲を全部聴いてもらって「この曲がいいんじゃない?」って道しるべになってくださった。アルバムの方向性を示してくれたんです。
その方向性とは?
武部アルバム・トータルでご一緒させていただくってなると、バランスを考えるじゃないですか。全編が同じトーンにならないように、ある曲はディープな暗いもの、ある曲は希望の見えるものとか。だからまだ歌詞がない段階で、曲が呼んでいる世界を広げてヴェリエーションがあるようなものにしたいなと思いました。また、昨今のJ-POPにあるようなわかりやすさみたいなものに囚われたくないなと思ってね。J-POPの悪しきフォーマットみたいなものがあるじゃないですか。AメロがあってBメロがあってサビがあって、物足りないから大サビがあって、間奏後のサビは一回落ちて…みたいな(笑)。
柴田ええ、ええ(笑)
武部みんなどこかでそういうことに縛られながら曲を作っていると思うんですよ。僕はそういうんじゃない曲作りがいいなと思っていました。
柴田アレンジしても何にしても武部さんが私の曲に対してどう感じるのか、どの曲をチョイスしてくれるのか楽しみでした。私なら選ばないところを「ここ好きなんだよね」って言ってくれたのも嬉しかったし。そういう部分で、たぶんファンの人も今回はひと味違うって感じてもらえるんじゃないかな。そんな新鮮さも絶対にあると思います。
歌詞作りについてもお訊かせください。
柴田歌詞作りに関しては、これまで私がやってきたような1曲書いては籠って、詞を書いて歌って…というやり方ではなかったんですね。今回はレコーディングが始まってオケを録っている時からすでに歌詞を書き始めたんです。で、1日2曲歌入れして、また歌詞を書くという繰り返し。だから今までとは何もかも違ったので、本当に記憶にないくらいがむしゃらでした。
武部作業的な流れとしては、曲がまずあるじゃないですか。その曲からインスパイアされて僕がサウンドを作る。今度はサウンドからインスパイアされて彼女が詞を書く。そのリレーションがうまくいったんじゃないかと思うんですよね。
柴田書いた歌詞は、一度武部さんにチェックしてもらったんだけど、私としては武部さんの率直な感想が欲しくてお願いしたんです。でも、人の感想をもらった上で書き直したり、アドバイスを取り入れたりというのは初めてだったから、難しかったですね。何故かというと、狙い始めちゃうんですよ、みんなが気に入るように。しかも、こんな感じがいいのかなって思いながら書いていると、だんだんそれが嘘っぽくなっちゃって(笑)。うわぁ~難しいなあと感じながらトライしていました。
武部ヘンな話ですけどね、僕は普段、歌詞を直すんですよ。
柴田えっ、そうなんですか?
武部直すというと凄く失礼な言い方になるかもしれないけど、結構徹底的にやったりする場合もある。でも、今回は僕のサウンドを聴いてインスパイアされて出てきた彼女の言葉を大事にしたいと思ったんですよ。彼女もそれだけのキャリアを積んでいるわけだし、これだけの人生経験もあるわけだから、そんなに外れたものは出てこないという信頼感もありましたし。柴田さんが表現したい言葉とか世界とかは凄く尊重したいと思ったんです。
柴田嬉しいです。
武部だから歌詞の感想を訊かれて、例えば、「この言葉はもっと前に来た方がいいから、1番と2番のワードを入れ替えた方がいいよ」とか、「メロディーを乗せた時に譜割的に食った方がいいよ」とか、そういうことは言いましたけど、根本的な歌詞をざっくり変えるみたいなことはさほどしなかったかもしれませんね。
歌詞が入ることによって曲に情感も膨らみますしね。
武部そうですね。そして歌が入ることでさらにね。
はい。その歌入れはどうだったんですか?
武部柴田淳の声って、泣いているんですよ。
そうですよね。濡れてますよね。
武部それが魅力じゃないですか。だから、その声の泣いている感じ、濡れている感じは大事にしたいと思っていました。
柴田今回は歌のセレクトもお任せしたんです。
武部そういえば、歌のセレクトだけは自分でやりますから!って、言い切ってたよね?(笑)。
柴田はい、そうでした(笑)。初めてのミーティングの時でしたよね。その時は初めてご一緒するので不安だったから、つい言ってしまったんですよ。
武部あははは…(笑)。でも僕から「騙されたと思って歌のセレクトも委ねてみない?」って言ったんだよね。
柴田それで私は自分のやるべきことだけに集中して、歌おうと思いました。後はとにかく、武部さんにお任せしようと。
武部歌って正解はないですからね。これが正しい、これは間違っているとかではなくて、多分に好みもあったりするじゃないですか。そういう意味で言えば僕が選んだ歌は僕の好みだったりもするけど、でもそれ以上にその向こう側で聴いている人のことを想像しながらやっているわけだから、個人的に僕だけの好みで選んでいるわけじゃないんですけどね。それと柴田さんはスイッチが入ったら集中してガーっと歌うタイプだから、その良い瞬間を上手く逃さないように、と思ってやってました。
柴田私自身が“柴田淳”をまだわかっていないので、私ってこういう歌も歌えるんだとか、いろいろと今回教えてもらえたなというか…。何か今までに見えなかった景色が確実に見えたという感じなんですよ。自分でセレクトしていたら絶対に見られなかったと思うから。詞曲作りにしろ、歌入れにしろ、上手くいえないけど自分の中のキャパシティーが広がったような気がします。
話が前後してしまいますが、レコーディングに参加したプレイヤーは武部さんのセレクトですよね?
武部そうです。ずっと一緒にやってきたような大御所ミュージシャン…いわゆる僕らの世代とかね、そういった人たちじゃない、今ちょうど40代の意気のいいミュージシャンというか、今一番日本の音楽界で求められているミュージシャンが、この柴田淳の楽曲にどういうアプローチをするか? こういう曲を聴いた時にどういう反応するかも見たかったんだけど。みんな活き活きとしたプレイをしてくれたと思うんですよ。シブいプレイとかツボを押さえたプレイというよりかは、何か新しい息吹を加えてくれるような演奏を聴かせてくれました。
柴田それも凄く新鮮でした。素晴らしかったですよ。
アルバムを聴いて改めて武部さんは音の詩人だなと思いました。サウンドも詩を奏でているなと。サウンドメイクはもちろんですが、武部さんのピアノの演奏から涙の雫を感じたり、心の憂いを感じたり…。それこそ先程おっしゃっていたように楽曲から映像が見えてきてその楽曲に入り込みやすかったです。心にじんわりと沁み入ってくるアルバムでした。
武部それはありがとうございます。自分の持ち味はそこにあるっていうのをこれだけ長くやってきてようやくわかってきたんですよ。
柴田えっ?!
武部長くやってきてもまだまだわからないことがあるんだよ。でも僕は凄いテクニックがあるわけじゃないし、上手いピアニストなんていっぱいいるじゃないですか。素敵な今どきのサウンドを作る若者もいっぱいいるわけで。その中で自分の持ち味をちゃんと出せるような作品にしたいなと思いましたし、それが上手くハマったと思うんですよ。彼女も気に入ってくれたしね。
柴田はい。だって、一緒にやってみたら本当に凄いんですよ!! 武部さんの音楽の幅って、それこそ宇宙みたいに想像を絶するくらい広いんです。しかもこの短期間でこのバランス、この幅ですよ。だからこそ、多彩な色合いに満ちたアルバムに仕上がったと思います。私としてはもう充実感しかありません。今までこういう方に逢ったことがなかったから、本当に嬉しかったです。
最後に『901号室のおばけ』というアルバムタイトルについて教えてください。
柴田レコーディング中に引っ越しをしまして、今回の楽曲はその前に住んでいた部屋と今住んでいる部屋で作ったものなんですよね。それでアルバムのタイトルを考えていた時に創作していた場所=マンションの部屋だなってふと思って、そこから広げて発想していったんです。共同住宅って上下左右にいろいろな人が住んでいるじゃないですか。そこでいろいろなことが起こったりする。住んでいると思っていたら、住んでいなかったり。たまたま外を歩いていて、ふとマンションを見ると空き家だと思っていた部屋に電気がついていてびっくりするみたいな。そういう不思議なことって世の中に多々あるよなあって思って考えました。もしかするとおばけがいるかもねっていう(笑)。
武部僕はこのタイトルがついて、もしかしたら『901号室のおばけ』は柴田淳なんじゃないかって思ったんだよね。
柴田うふふふ…。今となっては創作中の記憶がないくらいなので(笑)。そう思ってもらっても一向に構わないし、いろいろな想像を膨らませてもらえたらいいなと思います。
武部そういうふうに深読みできるタイトルですよね。で、アルバム収録曲にもいろいろと深読みできる楽曲が揃ったんじゃないかと思います。
柴田ですね。
武部早く柴田淳ファンに聴いてほしいね。どういうふうに受け止めてくれるか楽しみですよ。
柴田はい、本当に楽しみです。早く聴いてほしい!!
各収録曲について(試聴ボタン有り)
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武部これは一番苦労した曲だったね。
柴田はい。この曲の歌詞を一番最初にトライしたんですけど、だんだん訳がわからなくなって上手く書けなかったんです。そこで武部さんからは「狙わなくていいよ」とアドバイスを頂いて、そこから気持ちを切り替えて書いたんですね。サウンドが物凄く爽やかだったので、前向きな気持ちで迎えた朝に聴きたい曲だなって思って。そこでふと想い出したのが病院実習をしていた頃、自転車で通っていたなあって。雨上がりの朝露に濡れた清々しい朝に自転車に乗りながらこの曲がBGMとして流れたら、今までにないくらい爽やかな気持ちになれるんじゃないかって思ったら、こういう歌詞になりました。
楽曲を聴いた時に、例えば、間奏の力強いドラミングが歌詞と呼応しているというか、歌詞にあるポジティブな決意みたいなものを助長させる感じがしました。
武部先程も話していましたが、オケを録っている時は実際には歌詞はないんですよね。だからそれはミュージシャンそれぞれが曲の世界をくみ取ってキャッチして、これはこういうアプローチがいいと思ってプレイしてくれた結果ですよね。
それはアルバム全体から感じ取れることで。ミュージシャンたちの表現豊かなプレイに魅了されました。
武部若いミュージシャンならではのフレッシュな感覚がほしかったし、結果いい仕上がりになったと思います。
正直、これまでの柴田淳さんにはあまりなかった爽やかなポップ感に驚きました。
武部今回僕が一番心配だったのは、この曲を聴いた柴田淳ファンに怒られないかなって(笑)。
柴田それは絶対にないです(笑)。むしろ喜んでくれると思いますよ。
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イントロで聴こえてくる不協和音のような音が不穏さを醸し出していると思っていたら、冒頭の歌詞が「握りつぶした~」「捻り千切った~」ですからね(笑)。深い闇を感じさせるサウンドとメロディーと歌詞が柴田さんらしいなと(笑)。
柴田あはははは…。私もあのイントロの音をスタジオで聴いた時は凄く嬉しかった。
武部デモテープには全曲仮タイトルをつけていたんだけど、これは「呪怨」という仮タイトルだったんですよ(笑)。そういうイメージをお互いに持っていたから。ちょっと怖い世界なんだけど童話とか寓話みたいな、そういう怖さ。実際のホラー映画みたいな怖さとはちょっと違う夢のある怖さっていうのがいいなと思っていました。
柴田ダークファンタジーみたいな感じ。
武部そう。ファンタジックで夢のある怖さ。別にお互いに話し合ったわけじゃないんだけどね。あ、確かこの歌詞は書き直してもらったね。この歌詞に至るまでのやり取りがいろいろあったから。
柴田ああ…そうでした。書き直したかもしれません。アルバム制作のスケジュールが凄かったので余計なことを考える時間もなく、ただただ書いていたので、曖昧な返答になってしまうんですけど。でも、今思えば書き直しながらもいい意味で期待を裏切るというか「そう来たか!」って思ってもらいたいみたいな…。それはたぶん自分にとっていい方向に向かっている、いい化学反応が起きているという感覚があったからなんでしょうね。
武部これはリズム録りの時、ミュージシャンに大好評だったんですよ。
柴田嬉しいです。
武部ギターのアルペジオのパターンとか凄い難しいんですよね。だけど、それをやるストイックさがこの曲に合っているというか。
柴田これは最後の方のレコーディングでしたっけ?
武部ううん…2回目くらいかな。それで「ガットギターが好きだ」って言っていたんだよ。
柴田あっ…そうでした。「いいね、いいね」って言っていたのを聴いていて、その時私は歌詞を書かなきゃって必死だったので。だからそこはちょっと悔いが残るんですよ。ミュージシャンの皆さんから放たれる一瞬一瞬のサウンドを一緒に味わいたかったなって。
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武部この曲の仮タイトルは「ゴージャス」だったんですよ。これはジャジーでちょっとスタンダード性がある曲なんだけど、歌詞が上がってきた後にアナログレコードの針のノイズを最終的にプラスしたんですよね。で、これは珍しく僕が間奏でピアニカを吹いてる。
柴田そうですよね。素敵な音色で。 武部;普通だったらギターソロを入れるとか、そういう感じに仕上げるんだろうけど、なぜかわからないけど、ピアニカを入れようと思ったんですね。しかも僕自身が吹くっていう。
それはメロディーに誘われたんですか?
武部たぶん。メロディーとコードに呼ばれた部分があると思いますね。
柴田あのピアニカとガットギターの音を聴いた時にアンティークな喫茶店が見えたんですね。それが歌詞に反映されたんだと思います。
武部それと今回発見したことは、こういうジャジーなものって柴田淳の声に合うなってことでした。
柴田それは嬉しいですね。私、ジャズ的な感じの曲って好きなので。
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武部こういうマイナーな泣きメロといわれるようなメロディーは彼女の声に合うんですよね。
そうですね。
武部実は他にも彼女が作った曲にはマイナーな曲は多かったし、中にはもうちょっと下世話でアップテンポなマイナーな曲もあったんだけど、それは今回外したんですよ。
その中でこの曲を選曲されたのは?
武部この曲はマイナーだけど、ちょっと希望が見えるというか、前に進んでいく的なニュアンスにしたいなと思って選んだんです。
柴田そういう前に進んでいくニュアンスは私も感じてて、電車とかホームみたいなイメージで歌詞をつけていったんですけど。実はね、この曲は今までの私の音楽人生の中で初めてのことがありまして…。それは歌詞が足りなかったっていう…(笑)。
武部あはははは…そうそう、歌ってみたら文字が足りなかった(笑)。
柴田1番の大サビの「こっそり」ってところと、2番の大サビの「それでいい」ってところ。ブースに入って何回も歌ってみて“あれ?あれ?”って(笑)。「えっ…歌詞がな~い!!」って(笑)。
そんなことがあるんですね(笑)。
柴田あったんですよ(笑)。しかもその時は、声の調子もよくなかったので…。
武部仕切り直して次回にしようってことになった。
柴田あの時は今回のレコーディングで唯一、脂汗をかきました(笑)。
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武部仮タイトルが「アカペラ」。
まさしく、ですね(笑)。
武部これこそ彼女が家でボイスメモを使って宅録した曲。それを何ヴァージョンか送ってもらったんですね。
柴田前にもお話しましたが、最初はスタジオに入って私がピアノで思い浮かんでいたメロディーを、私がピアノで弾いて武部さんに聴いていただくというやり方をしていたんですけど。その時、4時間で5曲くらいしかできなかったんですよ。もう日が暮れちゃうし、埒があかないと思って。それで家でボイスメモに録音して、宅録1、宅録2…みたいな感じで幾つか作ってお渡ししたんです。
武部幾つかいただいた宅録のデモテープはワンコーラスしかなかったんですけど、それを3コーラスの構成にしようと思ったんですよね。
柴田はい。そういうところも監督してもらいました。
武部1コーラス目は完全にアカペラで、2コーラス目はピアノと一緒に。そして3コーラス目からは少しゴスペルの匂いのするようなオルガンが入ってっていう。そういう3つのストーリーを作ろうと思ったんです。
讃美歌のような感覚も感じたんですけど。
武部そうですね。アカペラにしようと思った時に童謡寄りにするか、ソウルフルな方向にするか…どっちにももっていけるわけですよね。メロディーだけだと唱歌みたいにも仕上げられる。だけど、なんとなく彼女の声…ビブラートの感じを考えると唱歌というよりは、ちょっとソウルフルな匂いがあった方が活きるんじゃないかなと思って、ちょっとゴスペルなところを目指したのかもしれませんね。
柴田歌詞はあまり重く捉われたくないんですけど、人生の最後の瞬間を想像して描きました。どんな人生でも目を瞑ったら、愛おしく思うんだろうなと。辛かったことも全部“ありがとう”って言いたくなるような…。例えば、凄く苦労をしている人と、何も苦労していない人と…人それぞれだから一概には言えないけど、私はいろいろなことが起きて苦労していればしているほど、最後に自分の人生に対して幸せや愛おしさを感じるんじゃないかなって思うんですね。それが私らしいなって。そういうことを想いながら歌にしました。
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柴田不倫の歌です(笑)。
イントロのベースの音からグッときました。
武部そうですね。サウンドを作っていく中で僕の中では“男と女”みたいなテーマでした。だから低音の楽器が男役っていうイメージがあったんですね。
柴田私は最初からアダルティーだなと思っていました。この歌詞は私の中で背伸びして男女の歌を書いてみたんですよね。
武部この曲だけかな。最後にAメロに戻って終わろうとしたのは。
柴田そうですね。
武部最後にAメロに戻って歌うのはいいなと思って、その場でメロディーとコードをちょっと変えながら…。
柴田はい、その場でメロディーを考えましたよね。
メロもサウンドも歌詞も一体となって凄くインパクトのある終わり方でした。最後の部分の歌詞なんて、口角がフッと上がって不敵に笑う女性の唇が浮かびましたから。女性は強い、怖いなと(笑)。
柴田うんうんうん(笑)。
武部オケ録りが終わって彼女が家に持ち帰って肝になる歌詞を書いたと思うんだけど。悲しい不倫の歌じゃない気がしたな(笑)。
柴田この歌詞の主人公は諦めてませんからね(笑)。タイトルは、誰にも知られてはいけないことだし、だからこそ誰にも紹介されないし、いなかったことにされるので、「透明な私」っていう。
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武部この曲はデモテープを録るリハスタでの作業の時から絶対にアルバムに入れようと思ってました。最初の段階から1コーラスいったら転調して歌っていくというのを思いついてその場でやったのを覚えてますね。
サウンドを作る上でピアノとヴァイオリンとアコーディオンのマッチングが凄くグッときました。
武部収録曲を10曲選んでから、それぞれの楽曲に合う楽器編成を考えたんですけど、この曲はその3つの楽器でいこうと。
柴田しかも、これ一緒に録ったんですよ。
武部ピアノとヴァイオリンとアコーディオンと歌とで、せーので同録。
だから臨場感を感じたんですね、きっと。
武部そうかもしれませんね。この曲はオケを録る時点で歌詞もできていたので、同録もありだなって思ったんですよ。
柴田実はね…私はこの曲を武部さんに聴かせた時に変な曲だなって言われるかなって思ってたんですよ。
なぜですか?
柴田変だから(笑)。
武部でも、変なものをやらないとね、やっぱり意味はない(笑)。それは絶対に人と違うことだから、それこそやるべきことだと思うからね。
それは個性ですからね。
武部そう。この曲はコードと歌メロが凄くぶつかっているところが何か所かあるんですけど、普通の感覚だったらメロディーとぶつかっていたらコードの方を変えるんですよね。そうしないと音が濁るから。でもね、僕はぶつかっているのがいいって思ったし。彼女に「ほんとにそれでいい?」と訊いたら、彼女も「それがいいんです」って言うし。だから、スタジオでこの曲を弾いて聴かせてくれた段階で、これはこのままにした方がいいなって思ったんですよ。
柴田ありがとうございます。
武部綺麗に、濁らないようにしちゃったら、凄く面白くない。つるんとした感じになっちゃうなと。
柴田こういうところをわかってくださる方なんですよ。
武部逆に音楽的な知識があると、それが良くない場合もあるじゃないですか。綺麗に整えなくちゃいけないとか、ここはぶつかっているから音が濁るとか。でも、そうではないところに音楽の良さがあることを今回、僕自身も学びました。
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武部これは僕が一番好きな曲なんですよ。
柴田私も好きで何度も聴いちゃうんです。
その理由は?
武部こういうコードワークは普通しないだろうっていうコードワークがあるから(笑)。
柴田(笑)
武部そういうところと、サビのメロディーが凄く暗いんだけど、そこが呪文のように心に残ってくるというか。
柴田仮タイトルは「暗黒の世界」ですからね(笑)。
武部そうだった(笑)。だから、そういう呪文的な感じも面白いなと思ったしね。アレンジもピアノの音色みたいなものをちょっとクラシカルなものにしたいなと思ってました。これもミュージシャンが「凄くいいなあ!!」ってレコーディングの時に結構喜んでいた曲だったんですよ。
柴田はい。武部さんのピアノもホントに素晴らしかったあ。
武部これはアレンジャーやプロデューサーによって違うんだけど、僕の場合はレコーディングの時に弾き直さないんです。人によってはオケを全部録った後に自分だけ居残って、例えばピアノを丁寧にきっちり弾き直す人もいるんですよ。でも、僕はオケと一緒にやった演奏を後でもう一度弾き直さない。もちろん中でも一番いいテイクを選びますけどね。なるったけテイクは少なく。だから今回のレコーディングでも5テイク以上演奏した曲はないんじゃないかな。だいたい3~4テイク。
柴田見ているこっちからすると、1テイクでも素晴らしいから何でもう一回やるの?何がダメなの?って。
武部中には一回やってみて、もうこれでいいじゃんっていうのも何曲かありましたけどね。
柴田綺麗に弾けたからって感動するものでもないし。
武部歪なものでも人の心に訴えるものがあればその方がいいわけだし。演奏も歌もそうなんだけど、輝く瞬間ってあると思うんですね。その輝く瞬間を切り取るのがプロデューサーの仕事。
柴田あとこの曲でいうと、曲順を変えたんですね。もともと9曲目にあった「透明な私」と入れ替えて「知恵の輪」を9曲目に持ってきたんです。というのは、「知恵の輪」はサビが2回続いていくんですけど、それがどんどんドラマチックになっていって、そこにクライマックス感を感じたんですよね。それって凄く重厚感のある終わり方だし、そこに充実感も感じるので、ここでどっしりと着地して、ボーナストラック的な感じで「月のあさひへ」をどうぞ!っていう流れにしたかったから。
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この曲は昨年10月に柴田さんが出演された舞台『ETERNAL GHOST FISH』内で歌われた楽曲ですね。
柴田はい。一回、舞台で発表している曲というエピソードもあるので今回のアルバムの創作過程とは違うじゃないですか。なので、ちょっと特別感があるから、先程話したようにボーナストラック的な感じで聴いていただければ嬉しいです。
この曲はどのようにして生まれたのですか?
柴田この曲はお芝居のラストに歌う曲なんですけど、当初、演出家の西田大輔さんから「曲を書けますか?」と訊かれた時に、初めての舞台だし演じることで精一杯だったから最初は「無理です」とお答えしたんですね。でも、一度はそう言ったものの色々考え直して、やっぱりシンガーソングライターなのに曲を書かないのは恥ずかしいなあと思って。 意を決して西田さんに「最後に自分の曲で歌いたいです」って深々と頭を下げてお願いしたんですね。実はその時はすでに別の方が作った曲が用意されていたから余計に申し訳なかったんですけど、その曲は他の役者さんが歌う構成に変えてもらったんです。それで、この曲はクライマックスで歌う曲ですし、私が演じる婉蓉(エリザベス)が最後に「ありがとう」という気持ちで死んでいくというシーンにふさわしい曲にしたいと思って作りました。で、歌詞は演出家の西田さんが書いてくださったんだけど、「一日で書けます」って言われて、凄いなあと。合作というのもやったことはなかったので嬉しかったですね。
武部お芝居の演出家の人っていい詞を書く人が多いよね。
舞台設定が1930年代のお話で、ラストエンペラーの溥儀の妻・婉蓉のミステリアスな物語だということもあるかとは思いますが、大陸的な匂いのするサウンドが豊かな情感を彩っていますね。
武部聴かせてもらった時にピアノと弦でやろうと直感的に思って、大人数のストリングスをフィーチャーして美しく仕上げたいなと思ったんですね。綺麗な歌詞だけど、不思議な世界だしね。
エンディングのピアノでキラキラ輝いている水面が浮かびました。
柴田ですよね! この曲に限らず、こんなにも全曲、音の情景が浮かぶ作品も今までなかったから。ファンの人たちはきっと驚くんじゃないかなと思います。
柴田淳(以下 : 柴田)これは一番最初に作った曲です。実は毎回毎回アルバムを作るたびに曲の作り方を忘れた…みたいなことを言ってるんですけど、今回は久しぶりの創作ということもあってスーパー曲の作り方わからーん!って感じで(笑)。何を作ってもこれがいいのか悪いのかが全くわからない状態だったんです。それであともう1曲作ったぐらいの時にピタっと創作の手が止まってしまって…。そしたら武部さんが「2曲でも十分」と言ってくれて、物凄く励ましてくださったんですよね。で、確かこの曲は私の記憶が正しければ、サビを思い浮かんだ時、自分でこれいいかも!って思ったような気がするんですけど…。歌詞はオケを聴いて書いていくんですけど、レコーディングが始まって1日に2曲の歌入れという作業ペースだったので、もう必死で書いていくという感じでした。
武部聡志(以下 : 武部)最初に聴いた時にメロディーが綺麗で美しかったんですよね。ただ、キーが凄く高くて、それでちょっと下げたんですけど、それでも結構レンジが広い曲で…。たぶんこれが柴田淳史上一番音域の広さがある曲かもしれないですね。
柴田確かにそうですね。
武部そこで僕は王道のバラードというかオーソドックスなバラードでいい歌にしたいと思いました。