30年も音楽の世界で歌詞を書き続けてくると、リスナーの世代によって森雪之丞のイメージはかなり違うようだ。

ボーナス・トラックをお聴きいただければ分かるように、Rockの洗礼を受けRockのバトンを握りしめていたのに、なぜかドリフターズが作詞家のデビュー作となってしまったヤヤコシイ奴なので、無理もない。

89年に再結成したサディスティック・ミカ・バンドを手掛けてから、90年代は居場所をRockに構えられたのは幸いだった。そうでなければ、アーティスト達とも出逢えず、このアルバムに収録されている多くの作品を生み出せなかったことになる。

それ以前の80年代はいわゆるヒット・メーカーとして、シブがき隊、浅香唯、風見慎吾、BaBeといったアイドルや、ドラゴンボールZやキン肉マンなどのアニメ主題歌を書いていたわけだが、もちろんその時代にも好きな作品はたくさんある。

例えば、不思議系アイドル斉藤由貴が歌ったこの『悲しみよこんにちは』は、高橋留美子のアニメ『めぞん一刻』のオープニング・テーマだったこともあり、当時の代表作ということになるだろう。作曲は安全地帯の玉置浩二。彼とは、同じく斉藤由貴が主演した『スケ番刑事(デカ)』のエンディング・テーマ『白い炎』でも共作した。


『悲しみよこんにちは』はフランソワーズ・サガンの小説『Bonjour tristesse』の邦題だが、“感情”を擬人化して、結果、自分自身に語りかける手法が洒落ているのではと、試してみた作品である。歌詞中にある「私の元気負けないで」も「今度悲しみが来ても友達迎える様に微笑(わら)うわ」も、そんな意図の中から生まれたフレーズである。もちろん、それは僕が発明した表現手段ではなく、浜口庫之助さんがお作りになった『涙くんさよなら』のオマージュであることは明確だ。


さて、ウクレレだけをバックに、つじあやのが可憐に歌いあげるヴァージョン、僕はかなりの“お気に入り”である。谷中プロデューサーやスタッフと一緒に決めた曲順も良く、まるでコース料理の“箸休め”のシャーベットの如く、リスナーの耳と心をリフレッシュしてくれるに違いない。