ビクターヴィンテージシリーズについて

ビクタースタジオ FLAR MASTERING WORKS
マネージャー 秋元秀之

リマスタリングとは

 CDやレコードを制作する為のマスターテープの状態は、音楽のジャンルや当時作られた環境等により一定ではありません。“アナログっぽさ”たっぷりなものから、そうでないものまで、まちまちです。また、時代を越えた今の補正が必要なものもあります。

 これら過不足あるマスターに対して、プロデューサー(ディレクター)の判断のもと、ブラッシュアップの方向性を決め、形にするのが“リマスタリング”という作業です。これはマスタリングエンジニアというクリエーターが、実際に耳で聴きながら、その人の感覚や感性で判断して音と音楽づくりをおこなうものです。

 料理に例えるなら、「素材の良さを生かして料理する」ということで、ものによってはそのままで、ものによってはじっくり煮込んで、しかも重要なのは最終的に“美味しいか”で、それら総ては料理人次第…と同じです。

 FLAIRには、総てに高いスキルを持ちながらも、それぞれに得意ジャンルを持つ多くのエンジニアがいます。そして彼らは素材である“原音”を熟知しています。

アナログマスターの魅力

 マスター(マスターテープ)には“デジタル”と“アナログ”の2種類があります。CDがメインの近年では、ほとんどのマスターがデジタルです。そして、それらのデジタルマスターはCDと同様のスペックで記録されています。

 CDは今から25年前に定められた規格で、サンプリング周波数が44.1kHz、ビットレートは16bitと、現在ではスペックだけみると決して高いものではありません。デジタル情報ではサンプリング周波数の約半分が実際に記録される音の帯域となり、それ以上の高域に関してはフィルターでカットされます。CDフォーマットは44.1kHzですから、その半分、つまり22.05kHzでフィルターがかけられています。つまり、デジタルのマスターには、おおよそ20 kHz以上の音は残念ながら記録されてはいません。

 それに比べて、アナログは機械それぞれの特性にもよりますが、フィルターでカットされる事無く、特に高域は自然な状態でリニアに録音されています。つまり、アナログマスターには膨大な情報が込められているのです。「原音の魅力を伝える」ためには、アナログマスターの存在は重要です。

アナログテープの取り扱い

 アナログマスターであれば総てがOKという訳ではありません。折角多くの情報が記録されていても、取り扱い方によっては、魅力を引き出すどころか逆に悪くもなってしまいます。まずはレコーディング当時の録音特性の正確な把握が必要で、再生する時の環境判断が非常に重要です。また、アナログテープ特有の“サー”というヒスノイズも処理の仕方を誤ると伸びているはずの高域を逆にマスキングしてしまいます。加えて、経年変化によりテープ自体が劣化しているケースもあり、アナログマスターの取り扱いは非常にデリケートです。

“アナログっぽさ”とは?

 アナログマスターを使用すると全てがアナログっぽくなるのでしょうか。物理的に“アナログ”なのと“アナログっぽい”のとは実は違うのではないでしょうか。

 今回のテーマは、アナログマスターを使用しただけの物理的なアナログ状態にとどまらない、聴いて感じる“アナログっぽさ”です。そのアナログっぽさは“臨場感”や“空気感”や“あたたかみ”です。しかもそれを“音楽”として伝えたい。この本来の“アナログ感”をFLAIRは目指しています。

[ CLOSE ]