Wakana

SPECIAL

「magic moment」
セルフライナーノーツ

2ndアルバム『magic moment』が完成しましたね。この作品は1枚通して表現したいものを見ながら作っていったんでしょうか?

はい。アルバム全体を通して表現したかったのは、タイトルにもした“magic moment”なんです。これは昨年11月にリリースした『アキノサクラEP』から始まって、12月のライヴツアーと共通して見ていたテーマでもあって。EPの制作に入る時に、ディレクターさんと話している中で出た“magic hour”が元になっているんです」

“magic hour”は日の出前や日没直後に、空がオレンジから紫へと変わっていったりする美しい光ですよね。

そうです。そこから、“magic hour”というテーマと向き合ってきた中で、移ろっていく瞬間っていろんなものに当てはめられるなって思い始めて。生きていく瞬間の全部が音楽に変わっていったら面白いんじゃないかな、というところを軸に、制作してきたんですよ

人生にある数々の“魔法の瞬間”が詰まったアルバムと言えそうですね。そんな作品について、1曲ずつ紹介してもらいたいと思います。

  • 01. breathing

    作詞:Wakana 作曲・編曲:夢見クジラ

    『アキノサクラEP』のオープニングを飾ったインスト「eve」に歌詞がついて、フルサイズになった1曲ですね。

    『アキノサクラEP』の段階で、フルサイズをアルバムに収録しようと決めていたんです

    たおやかで、自然の生命力を感じましたよ。

    サビが4回繰り返されるんですが、夢見さんからいただいたものを聴いて、サビとサビの間の間奏に入っている鳥の鳴き声のような音とメロディから、滝が流れていて、どんどん花が咲き乱れるようなイメージが湧いたんですね。それに、1stバイオリンの方の奥様がフルーティストで、レコーディングスタジオに寄ってくださった時に、吹いていただけることになったんですよ。その生の音が入って世界観が広がったな、と感じたんですね。そこから、映画『アバター』が浮かんだんです。それは歌詞のヒントになりました。例えば『アバター』の主人公って戦場で怪我をしてしまって、歩けないんですね。でもアバターと同期すると動けるようになる。彼が初めて同期して土をギュッと踏みしめるシーンを観て、これは気持ちいいだろうな、と思ったあの想いも込めていたりするんです

    歌い出しの<土を踏み生きて行く者>からそのシーンも連想させられますね。

    はい。地球には重力があって、ほとんどの動物は大地や空気、海の中の生物は水に寄り添って生きている。それは鳥もそうですよね。そしてみんな鼓動を響かせて息をしているんだなって。そうやって地球という場所で普通に生きていけるわけですけど、そこに別れを告げて<楽園へいざゆけ>と。<楽園>とはいえども、自分が知らない場所であり、そういう意味では厳しくもある。そこに足を踏み入れるんだ、っていう。それでもいろんな場所に踏み出していくんです

  • 02. 揺れる春

    作詞:Wakana 作曲・編曲:櫻井美希

    1曲目からテンポをぐっと上げて、イントロではピアノの瑞々しい音が響きます。

    この曲は、櫻井さんにいただいた時からとっても印象的で、特にワンコーラス目の始まりが大好きなんです。このキラキラした感じが、自転車で駆け抜けて、太陽をふと見上げたら眩しい光を感じた、という気持ちにしてくれたんです。そういった暖かさから春の曲にしたいなって。そして、A、Bメロの可愛らしい雰囲気から、サビでクールに変化する。そのサビで主人公を叫ばせたかったんですね。静より動のイメージだし、力強くありたくて

    それがサビの<駆け出した>や<君の叫び>という言葉に繋がったんですね。

    <駆け出した>や<叫び>っていう衝動。ドキドキするよね、ワクワクするよね、しかも君が今手にしているキャンバスは真っ白なんだから自由に描けばいい、衝動のまま行けばいいんだよ、って。そして、2番の<睫毛に触れたのは 昨日の自分の欠片>は涙のことで。涙は睫毛に当たってそこで一端留まるし、その自身から出た欠片は自分で拾い集めるんだなってところも含んでいるんですね。いろんなことがあって、いろんなことを感じるし、泣いてもいい。それでも駆け出せばいい、という想いなんです

    衝動のまま走っていく先にはいろんな想いがある。そう思うと、<「春の香り揺れてる」>という歌詞の“揺れてる”に心情を重ねてしまいます。

    春が来て、香りが揺れると共に、心や想いも揺れていることに気づくんだろうな、って。だから、浮かんだ言葉も“春の香りする”ではなく、<「春の香り揺れてる」>だったんです

  • 03. where

    作詞・作曲:AlbatoLuce 編曲:高橋亮人

    スピーディーなアコースティックギターのストロークと4つ打ちのリズムが印象に残る曲ですね。

    イントロの“oh~oh~”というメロディが今までソロで歌ってきた楽曲と違う感じがしましたし、キャッチーで、いいな、と。歌詞も、響きを大切に描いている部分が大きくて、その言葉が乗っていく感じが美しいんです

    響きを大切にした歌詞の中で、例えば、大人になることで少し増えた傷を愛しいと感じている主人公は、自分らしさや居場所を見つけているんだろうな、と思わされましたよ。

    そうやって箇所箇所で歌詞に意味を見つけられますよね。曲全体を通したストーリーというよりも、ひとつひとつの言葉たちに意味があると思います。だから聴きやすい曲でもある。加えて、中音域をずっと行き来する歌も私の曲にはなくて。歌ってみたいと思ったんです

    歌は、演奏の鋭さに対して、リバービーでふわっとしていたり、ニュアンスとして囁くような感じがありますね。

    息を多く混ぜることによって出せる歌声を意識しながらレコーディングしました。それは、話している感じに近い歌。このアプローチはもっと研究したいですし、まだ先があるなとも感じています

    ブレッシーだったりエアリーな歌の中で、要所要所に強いアタックがついていて。心にパッと言葉が飛び込んできます。例えば2番Bメロの<構わない>の頭の音とか。

    ディレクションしてくださった方からもアドバイスをいただいたし、アタックは意識しています。サビも、アタックで生まれるリズムを音楽にすることができました

  • 04. 442

    作詞:Wakana、岡本愛梨 作曲・編曲:池窪浩一

    意味を探りたくなるタイトルですね。

    生まれた赤ちゃんが最初に泣く声の周波数が442Hzだそうで、そこからつけたタイトルなんですよ

    そうなんですね! ミディアムで大きなリズム感があって。少しフォーキーな雰囲気も感じる情熱的な曲だと感じましたが。

    元々は、インド的な曲だったんです

    シタールが反響しているような?

    そうそう。そこに日本語を乗せるの難しいな、と思っていたら池窪さんが、全然変えてもいいですよ、と言ってくださって。シャウトが似合うようなアプローチにしてもらいました。歌詞は、共作させてもらっています。内容についてまず、“歌を志した時、歌い始めた理由をテーマにしよう”といった話をしていたんですね。で、上げてくださった歌詞を見て、バッと私の中に言葉が出てきたんです。特に、岡本さんが打ち出してくれたサビ頭の<愛の声が聴こえた>というフレーズ。これにインスパイアされて<最後の碧に終わりを告げた時でも>という詞が出てきたし、私は“愛の声”を聴くために生まれたんだろうな、って思ったんです。そして、その歌声は全身を響かせて出しているもので。……生まれた時に同じ音で泣くというのが不思議で。それはなぜか?に想いを馳せた時、何かを成し遂げよう、と生まれてきて、初めの泣き声はそれを表現した歌声だな、って思えたんです。それはせっかく生まれたんだから、という使命みたいなもの。内容はそれぞれに違うけれど、何かをやるために生きようってところでみんな、初めての泣き声という歌を、同じ音で響かせているんだろうな、って

    曲の “喜びも哀しみもひとつに繋がって、溢れ出したものが歌である”という世界観は、Wakanaさんが歌う意味、使命が形になっているのかな、と思いました。

    その想いを歌詞にした、最後のサビのブロックは大事な部分です。曲の頭から、このサビのブロックまでで伝え切れてなかったことをここで出さなきゃいけないな、と思って書いたところなんですね。結果、曲を通して聴いた時に、腑に落ちるポイントにできましたし。それもあって曲のラストも歌声で終わりたかったんです

  • 05. ひらり ひらり

    作詞・作曲:サイレンジ! 編曲:久下真音

    切ない曲なんです。メロディの中で裏声になる瞬間にも切なさが出るんですよ

    はい。美しく、切ないミディアムスローな曲だと感じました。

    会いたいけれど、会えない人を思っている歌なんです。それは、離れてしまって会えないのか、勇気が出ないのか……。こういう他の方が描いた歌詞は、新鮮で、目線がいつも見ているところから変わるから、歌い方も変化をつけたくなるんですね。この歌は息を音にして、静かに聴いてもらいたかったんです

    歌始まりの曲ですが、冒頭のブレスから深くて、そのブレスも歌になっています。そしてAメロの<静けさ><優しさ>の2箇所のみ、声質を変えていますね。

    その2箇所は追っかけメロディとして捉えたんですね。で、<静けさ>は幻聴というか、そばだてた耳に君の声が聞こえたかもしれない、くらいのニュアンスを表現したんです。そして歌で、日本語をしっかり届けたくて。“where”にも通じますが、中音域の響かせ方を変えていく必要があったんです。中でもBメロの<時が止まったまま もう君は>は、同じ音が続くのにメロディとして成立していて。そこで表現できるものって何だろ?と考えていたんですけど、メロディが歌を導いてくれました

    その後の<夕暮れにかすんだ>は歌声に儚なくも美しい波があって。

    そうなんです。“かすむ”も、息づかいでどういう表現にもできるんですよ。色気を出すことも、怖さも出せる。ここでは“かすむ”というワードが本当に美しいものだなと思って。それに、歌詞ではDメロも好きです。<たやすく愛と名付けないで>っていう、愛で終わらせたくない、という想いがね

    離れた今も残っているこの想いがどれだけ大切かを表現していますよね。

    私は“愛”という言葉を軽く受けとったことがないし、簡単な言葉ではないと思うけれど、他人から一言で済まされるのは嫌っていうくらいの気持ちがこのフレーズに描かれているんですよ

  • 06. アキノサクラ(Acoustic ver.)

    作詞:斉藤 慶、平 義隆 作曲:斉藤 慶 編曲:内田敏夫

    EPの表題曲でもあった「アキノサクラ」のアコースティックバージョンが収録されました。

    12月のライヴでパーカッショニストの(中北)裕子さんに参加していただいて、この音大好き!って感じていたんですね。だから、アルバムで叩いてほしいと言っていたら、実現しました。編成は歌とパーカッション、アコースティックギター、アコーディオン、バイオリンで、テンポもオリジナルから落としています。アレンジをしてくださった内田さんは、Kalafinaの時に『音霊』でお世話になったギタリストでもあって。今回再会したわけですけど、内田さんのおかげで、より切なくそして温かい曲になりました。さらに内田さんの会社の方が、 間奏で“UH~”とか“AH~”っていうスキャットを入れてみませんか?と提案してくれて。スキャットとギターを重ねるのも、新鮮で楽しい気持ちで歌えました

    歌も<笑い合ったね>の“い”の部分が温かかったり、このバージョンになったことでの新しい表情も入っています。

    はい、ファルセットのニュアンスを変えてみたりしています。それも、EPリリース後にライヴで歌ってきて、私の曲への理解も変わってきているから。そのニュアンスが出せました

  • 07. myself

    作詞・作曲:AlbatoLuce 編曲:伊勢佳史

    ピアノと弦と歌が軸になって進んでいくスローナンバー。包み込むような歌声が心地よかったです。

    最初はもっとピアノを中心にしたアレンジで、静かな感じだったんですよ。楽曲を聴いた時、“アメイジング・グレイス”のような崇高な印象を受けて。その中で、暗くならないように、そして、感情をむき出しにせず、曲を理解した上で落ち着いて歌うことを意識したんです。だから息の使い方を大切にしながら、喋る時に近い声で表現しました

    この曲も低音から中音域が中心で。A、Bメロが柔らかく包容力のある歌、そしてサビでエモーショナルになっていきますね。

    サビは、プリプロよりも強くなりましたね。そのプリプロでは裏声も使っていたんですよ。でも、喋る声、って決めてたこともあって、ファルセットもやめました。こういう歌は、隅々まで隠せないから本当に難しいですし、チャレンジでした

    これだけスローな曲って、少ない音のアンサンブルで進む箇所は特に、歌でリズムを作っていく必要もあるんじゃないですか?

    グルーヴをどう作っていくか、は歌う中でのポイントでした。レコーディング中も一度、クリック(テンポのガイド音)を曲のテンポの倍のスピードで出してもらったんです。で、曲に慣れてきたところでクリックを消して歌いました

    詞としては、誰もが抱える弱さ、に触れつつ、そういう弱い心、震える心を見せずにいた時期を超えた自分が、自身の辿った軌跡を振り返っていると捉えていいんでしょうか?

    歌詞の中にある、<あなた>は自分自身でも、特定の誰か、でもいいと思うんです。その中で、迷いや不安、弱さを抱えていた時期を超えるというよりそれらと共に生きるというふうに捉えています

    なるほど。最後のサビに<愛してた事>とあって。過去形になっていますね。

    その意味は私も考えたんですよ。毎日生まれ変わっていくわけで、あの時の自分を好きだったし、今の自分も好き。その中には、弱い自分もどこかにいるんだな、って思ったんです

  • 08. 君だけのステージ

    作詞:Wakana 作曲・編曲:武部聡志

    ライヴで聴いていた「君だけのステージ」がようやくCD音源で届きました!

    一昨年の10月からライヴで歌ってきた曲ですしね。曲と詞を制作していたのは、その年の9月くらいでした。そんな曲を今回、レコーディングするにあたって、豪華なミュージシャンの皆さんが参加してくださったんです。特にドラムのカースケ(河村“カースケ”智康)さんは、憧れの人でもあって。音で包み込んでくれる感じが素敵なんです。で、ずっと歌ってきた曲でもあるし、バンドさんがレコーディングする時、私もヴォーカルブースに入って、同時に歌いました。そのライヴ感が心地よくて。歌は、同じ日にもう一度本番を録っているんですけど、一緒に歌った時の感覚が残った中、歌えました

    クリアな歌声ですよね。

    この曲の歌に対するイメージが鮮明にあったし、ライヴで歌う中で、いい瞬間を何度も味わってきたんですね。だからあの時のクリアな歌を目指したし、そこに行けました

    改めて歌詞を読むと、<列をはみ出して 泳ぐ魚が見えたよ>という1行目から引き込まれました。水族館が好きなWakanaさんらしい切り口であり、込められたメッセージも強くて。

    1番は、水槽を前にしていて思ったことを描いているんですね。例えば、鰯の群れが泳ぐ水槽の中に1匹だけ逆行している魚がいたり。そうやって反対に行く子は目立つわけですよ。それを見ながら、はみ出したこの子には何が見えるのだろう?って考えたことがあったんです。人間に置き換えてみると、学校で、授業に出ずにひとりさぼる姿に重なったり

    右向け右だけではなく、意思と意味を見いだせるなら、はみ出す人生もありですよね。

    すべてに対してはみ出すのではなく、やってみたいことに挑戦するのもいいよ、って。私も学生の頃にそういった経験があって、それは凄く勇気がいることだったし、すがすがしくもあり、不安な気持ちもあったんです。でも経験を積んで大人になった今でも、あの時の決断も自分の想いも全部間違っていなかったと思える。だから真っ直ぐな気持ちで、やりたいならやればいいって言える。それに、10代だけじゃなくて、20代、30代……年齢を重ねていっても、いる場所からはみ出して何かを叶えようとする想いってあるだろうし。私も10年後は違う悩みを持っているだろうから。そして、みんな自分の目線でそれぞれの人生を主人公として生きている。さらに、会社とか学校とか、自分がいる世界の中で、円滑にいくために協調性を持って、とかいろいろ考えながら生きている、という部分もこの詞に込めているんです

    だからこそ、毎日出逢う人とか、手の届く範囲の人に何かをするために走り出している。

    そうなんです。2番は、自分が育った場所を思い描いていて。私は福岡で育って、その頃は東京に出たくてたまらなかったんですよ。でも、今は大好きで。離れてわかることってありますよね。家族に対してもそう。だから、あの時のウズウズしていた自分に、外に出たいよね、わかるよ、って。その情熱を今も自分の人生で輝かせればいいし、家族とか友達がいたから、自分はここにいるんだな、っていうことを改めて考えた時に、<初めて誰かを守りたいと思ったとき 自分を愛してくれる人のため 今があるんだ>という言葉が出てきたんです

  • 09. オレンジ

    作詞:Wakana 作曲:岩越涼大 編曲:藤本和則

    『アキノサクラEP』にも収録されていた「オレンジ」がアルバムにも入りました。

    レコードレーベルのA&Rの方がこの曲を好きでいてくれて、薦めてくださったんです(笑)。私も好きな1曲ですし、言ってもらった言葉に力をもらって、入れることにしました

    アルバムのこの位置に入ったことで曲が新鮮に響きました。例えば、「君だけのステージ」では生まれた場所で抱いた情熱に想いを馳せているわけで、その後に「オレンジ」を聴くと、よりノスタルジックで温かい気持ちになったり。

    本当に曲順で印象って変化しますよね。学生の頃、ウズウズしていたところから都会に来て、今生活するこの場所でオレンジ色の朝日を見ながら……っていう。この“……”の部分に来る想い、それは、がむしゃらにやってきたな、あの時があるから今があるな、とか、そういうことをアルバムの中で聴く“オレンジ”はより鮮明に思い出させてくれたりして

    さらには、「オレンジ」で歌われている〈あなたの笑顔に逢いたいから〉と、「君だけのステージ」での〈笑顔を届けられたら〉というところも繋がっていて。Wakanaさんの歌う原動力も伝わってくる。

    はい。できることなら悲しい顔よりも笑顔のほうがいいですからね!

  • 10. Happy Hello Day

    作詞:Wakana 作曲:春日章宏 編曲:兼松 衆

    感謝と幸福がいっぱい詰まった歌始まりの曲ですね。

    “Happy Birthday”とか誕生日を祝福する歌があるように、逢えた日をお祝いする曲があってもいいよね?と思ったんですよ。それに、いただいたメロディを聴いて、ライヴで歌う景色がはっきり見えたから。ありがとう、今日逢えたね、よかった、という想いを歌詞にしました。生の弦のカルテットの響きが美しくて、兼松さんが弾いてくださったピアノも本当に格好いいですよね。レコーディング現場で弾く姿も格好よくて、荒ぶっていらっしゃいました(笑)

    どんどん大きな歌になっていった先の最後のサビで、複数人のハンドクラップが入ってくるという構成もスケールを感じさせてくれます。

    このハンドクラップは、兼松さんと私以外にも、マネージャーさん含め周りのスタッフさん……みんなでクラップしたんです(笑)

    ライヴとか、聴いた人といったこれからいろんな人のクラップが重なって、より大きな曲になっていきそうですね。そういう意味では、サビの中の<君と逢えた>と<僕らは手を繋ぐ>というラインの“君”と“僕ら”という表現に、歌を届ける時のWakanaさんの想いが表れている気がしました。

    歌う時は、大勢の人を前にしたライヴ会場であっても、あなたと私、一人ひとりとの語り合い、という想いでいますし、それぞれの日常にはいろんなことがあるだろうけど、今はみんなで楽しく歌おうよ、という気持ちになるんです。だから、他のサビで<手を繋ぐよ>と描いていたところも、落ちサビでは<手を繋ごう>にしたんです。逢えたねありがとう、手を繋ごう、って。そして、きっとこれから先もあなたと私は逢えるし、手を繋げるはず、っていう想いの表れなんですよ

    その気持ちからか、最後のサビは歌がより強く響いていますね。

    はい、むちゃくちゃ心と力がこもりました。<今生きている>の“生”を歌う時、一番荒ぶっていました(笑)

  • 11. magic moment

    作詞:Wakana 作曲:SIRA 編曲:兼松 衆

    アルバムと同じタイトルの曲が最後に来ましたね。

    SIRAさんに、“magic hour”というテーマで作曲をお願いして、曲をいただいた時の仮タイトルも“magic hour”だったんですね。その曲に歌詞を描いてから、タイトルを決めたんですけど、これはアルバムを象徴しているし、表題曲だな、って思えたんです

    8分の6拍子のこの曲が持つ壮大さ、未来へ続いていく伸びやかな歌も含め、「magic moment」がラストに来たことで、1枚のアルバム作品としてまとまった感じがしましたよ。

    それは自分自身でも感じました。しかも、旅は続くという気持ちになる曲ですし、この曲にある<さあ行こう>っていう気持ちが、1曲目の “breathing”に繋がっていて、また戻っていけるんです

    「magic moment」の<高鳴る音さえ>という言葉も、「breathing」に描かれている<高鳴る胸><鼓動>とも繋がっていますしね。

    そうなんです! 大人になるってみんな言うけれど、いつから大人なんですか? 楽しいことを考えて、その日暮らしだと大人じゃない? 夢を見てはいけないんですか?という気持ちで歌詞は描いたんですよ(笑)。それはファンタジー小説を読んだ後に感じる、冒険したい、っていう気持ちに近いもの。サビでリズムが変わるんですね、そこに謎めいた感じが込められたな、と思えたし。だからリアルな言葉じゃいけないな、ということで、少し浮ついた感じにしたかったんです

    浮ついた、ですか?

    先のことをしっかり決めているわけじゃないけれど、行こうよ、っていう(笑)、大人が言うところの、地に足をつけていない浮つき。この主人公は夢を見たいんです

    曲調も相まって、人生を感じる曲だな、と思ったんです。<最後の場所は決めたよ>というラインがありますね。その後に<何処か遠く>という言葉もありますが、これから行く道は決めてないけど、たどり着きたい先は見ているというか。

    この主人公は地図とかそういった確かなもの、行動をしばるものを必要としていなくて。ただ、最後に目を閉じる場所は絶対ここがいい、ということは決めているんです。そして、それは遠い場所ではない。遠くに行くのは、最後の瞬間までにやりたいことのひとつ。この奇跡とも言える瞬間瞬間を重ねるのが生きることなんですよね。最後の場所に行こうとしているわけでなく、それまでの人生を行くぜ!っていう歌です

TEXT:大西智之