WORKS
PROFILE
INFORMATION
佐山雅弘の音楽旅日記
MAIL
佐山雅弘の音楽旅日記
毎回、彼の全国各地での旅のエピソードをお送りします。
新撰組入隊の巻 後編 京都にて

さてさてやって来ました京都ラグ。ポンタボックスの前身ともいえるT-5トリオではじめてお邪魔したのはまだ北山に店があった。その後山下洋輔さんとの合流打ち上げで事件が持ち上がったり、森山威男さんの童謡に涙したり、古谷充さんに感動的、なおかつ大笑いの(とても大阪的である)お話をうかがったり、ふらりと飲みによるとブッチャーがいて目黒のセッションがいきなり具体化したり、まだまだ数え切れないが、煎じ詰めればライブハウスというもののミュージシャンに対する正しいあり様を黎明期から今に至るまで姿勢と実践ともども持ち続け、狭いながらも日本ジャズフュージョン界に少なからず影響を与えている店なんである。前置きが長くなったが、ことほど左様にいつも来るたびに思い出話や新しい出会いで夜更けから早朝になるのだが、この度だけは打ち上げもそこそこに翌日に備えて四条木屋町高瀬川沿いににわざわざとった宿に帰る。そして待望のオフ、新撰組史跡巡りのスタートである。

まずは予習をかねて明治維新歴史資料館へ。いろんな小説で何通りも学習しているはずの維新史があらためて整理されるとともに、天誅組など、後から見ればタイミングの悪い決起もあの沸騰する時の流れの中ではむべなるかな。手柄の効率よりも命を懸けることが青年たちのメインテーマだったことがよくわかって涙。となりの丘を登って竜馬墓所へ詣でる。卒塔婆奉じ代わりの石版サービスとそこに書かれたメッセージ(ともよべぬ代物)には鼻白むとはいえ中岡慎太郎と並んだ石塔には黙祷。

となりが高台寺なのでいきなり寄り道。北の政所をしのぶ、、、というのはちょっとウソで、小雨のなかの見事な庭園にしばしゆったりとしたひと時を自らにご褒美。おねね様、木造の真下に埋葬されているのは今回初めて知って羨ましいやらこわいやら。

壬生寺に車を置くついでに土産物屋で新撰組入隊許可証を買う。店のおばちゃんに近藤勇の名代になってもらい、僕の名前をいれてもらって今日から新撰組隊士である。資料館で制服と鉢金代わりの手ぬぐいで写真もとってあるし。

壬生屯所跡(最初期滞在所、後、芹沢〜新見組駐留)を見学。芹沢鴨暗殺現場をみる。真っ暗だったろう庭先をしのんでくる沖田総司がみえるよう。

斜め向かいの前原邸(試衛館組=近藤チーム屯所)はいまも何かの会社で、中には入れなかったものの、覗き込んだ広い前庭に隊士の訓練を夢想。

南下。伏見を通り過ぎて寺田屋に着く。おむかいの蕎麦屋で鴨南蛮など食べながら薄くあけた窓格子越しに寺田屋を窺う。偵察隊士の気分。当の旅館に入ってみると竜馬遭難一辺倒でつまらぬ。薩摩藩士9人が烈死した、いわゆる寺田屋事件のほうに僕は興味があって、有馬新七が打って側にまわった幼馴染と串刺しになった刀跡を見たかったのだが、目当てをつけていた一回は壁じゅう竜馬案内で少々白けた。目の前の船着場は勿論いまはないけれど、さらさらとした水の流れは、鴨長明ならずとも人の世のなにものかに思いは馳せさせられる。

池田屋(永倉新八ら活躍)、近江屋(竜馬暗殺)はそれぞれパチンコ屋と旅行会社になっており、前の道に小さい石塔がたっているだけだが、酢屋(竜馬潜伏)は、材木商だったことを受けて木工品の店になっており、二回に少しだけ解説など置いてある。

分不相応ながら締めくくりにと、千花でお食事。いやぁうまかった。全ての料理、全ての器、お給仕の間や物腰、なんてったって素晴らしかった。

鱧の真子というのは初めて食べたが、こんなうまいものがこの世にあるのかと思った。慶応から明治にかけての作で、いまはもうこんなに薄い磁器はつくれまへん、という杯の、唇に吸い付く感触は飲むたびに感動した。

酒を飲み、料理をいただくというのは、こんなにも快楽なものか。こんな所の味やもてなしに慣れてしまったら人間がだめになる、と、連れてくれた友人に言うと、“こういう、本当にちゃんとしたところで男をみがくのだ。”ふむ、立派な一人前の男であれば、金持ちとかそういうことではなくて、おのずから恥ずかしげのない立ち居振る舞いが出来るはずであって、京都の老舗というのはそこを見込んで人をもてなすのだ、という気もしてきた。

ごあいさつにいらした先代は永田基男さんとおっしゃって、割烹という場を料亭と同じ高みにもちあげた方らしい。昭和21年、戦後間もなくの創業だそう。着の身着のまま野心と理想に命を懸けた新撰組に浸るはずが、いつの間にやら勤皇側に行ってみたり、果ては究極のグルメを味あわせてもらったり、そもそも趣味の観光に本業をからめるところからして不純なんではあるが、楽しい一週間だった。最終日は大阪ダルマードで、普段(というより上京前の自分、つまり本来の“素”)の自分に帰る店で等身大の打ち上げをして(と言ってもここの料理はとても美味しい、為念)空間軸、時間軸、心軸三方向ともに大きく広げた旅から戻ってきたのだった。
Copyright(c) 3 VIEWS / Victor Entertainment, Inc. All rights reserved.