《第2回》 石川智晶VS高橋良輔

9月30日にアイルランドでレコーディングを行った2ndアルバム 「誰も教えてくれなかったこと」。を発売する石川智晶。
毎月ゲストを迎えて本音トークを繰り広げるこのコーナー。
第二回目は『装甲騎兵ボトムズ』を手掛ける高橋良輔監督とのツーショット。
人生論から恋愛トークまで、幅広い話題についてきたんのない意見が飛び交う対談となりました。



石川「今日はご自宅からいらしたんですか」

高橋「そう。朝、仕事をしてからこっちに来ました。夜はダメなんですよ。僕は朝型でね、 そのせいか先日人間ドックに入ったら、数値がすごく良かった(笑)。少しメタボですけど、 やや小太りの方が長生きするんですよ」

石川「監督は長生きしそうですよね。私は早死にするんじゃないかって思っていて(笑)。すごく細かく考えちゃうタイプだから」

高橋「でも、それがストレスにならなければいいんじゃない?」

石川「私はストレスになっちゃうんですよ。では、今日は健康の秘訣についてお話しましょうか(笑)」

高橋「よかった(笑)。僕はアニメに詳しくないんですよ」

石川「何をおっしゃるんですか」

高橋「専門的なアニメの話はできないですから。僕の年齢でアニメに携わってきた人は みんな、アニメをやるために生まれてきたみたいな人たちで、その人たちに比べると 僕はフラフラッとこの世界に入ってしまった方なので。最初に虫プロに入ったんですけど、周囲に比べて漫画やアニメーションに対する知識が全然足りなかったんですね。
それでいきなり挫折しちゃったんです。しかもその後、15年ぐらいアニメを熱心にやっていない時期があって、再びアニメの世界に戻って来た時には、アニメーションを取り巻く状況がまったく変わっていたんです。その頃は、テレビ界にアニメが定着していましたしね。
今から必死にアニメの勉強をして、みんなを追いかけるのは無理だなって、そこでの勝負を諦めちゃったんです。でも知識や情報がないということは、よく言えば何にもとらわれていないということなので、そっちに賭けてみたんです。すると場合によっては、個性的に見える。そしたらみんなが勝手に誤解して、『高橋良輔のアニメーションは、シェアは大きくないけれど安定感があって個性的だ』という評価につながった。じゃあ、これでいいかなって(笑)。だからアニメに詳しくなる必要もなかったし、アニメの潮流を追いかけることもなかった。『ハルヒさんってどこの人?』みたいなスタンスで、アニメをやっていけるわけです(笑)」

石川「私もハルヒさんの仕事は来ないですね(笑)」

高橋「ガンダムをやっていましたよね」

石川「ええ、どちらかと言えば『少年危うい系、一人考え込む系』のアニメ作品の仕事が多いですね。けして頑張ろうとは歌わないみたいな(笑)」

高橋「ガンダムはロボットものというよりも、ガンダムという一つのジャンルですからね」

石川「そうなんですよね。どこを切ってもガンダムなので、ガンダムの楽曲を作る時は、あまり作品にくっついちゃってもダメだし、離れてしまってもダメな気がします。楽しいんですけど、すごく大変でもありますね。私はちょうど中学生の時に『ボトムズ』をテレビで観ていた世代なんですよ」

高橋「そうかもね。僕が飲み屋さんにいると、だいたい石川さんぐらいの年齢の人が 『監督でしょ!?』って声をかけてくるから(笑)」

石川「監督はたくさん作品を作られていますが、自分の世界に人を引き込んでいく術みたいなものって、あるんですか」

高橋「自分がこういうことをやりたいなと思って売り込んでも、今までの経験からすると、仕事に直結することって少ないんですよ。ただ、プロデューサーの方が同じような仕事をしていると飽きちゃうみたいで、『たまには良ちゃんとやってみるか』って感じで、5年に1本ぐらい僕に声がかかるんです。でも、オリジナルだと5年に1本で十分なんですよ。だから僕、作品数は多くないんです」

石川「オリジナルを作るにあたって、いろんな人の力を借りるわけですよね」

高橋「こんなものを作りたいなと思った段階では企画書しかないわけで、企画書は商品ではないですからね。最初にシナリオライターと企画書やプロットを練って、絵のイメージが欲しいとなるとアニメーターにキャラクター・デザインを頼んで・・・と、段々と人が増えていくんです」

石川「いつも大体、同じ人と組むんですか」

高橋「僕の場合は比較的、昔から付き合いのある人が残っているんですけど、富野(由悠季)さんなんかは新しい才能と仕事をしたいという気持ちが昔から強い方だったから、彼のところは人が変わりますよね。『ボトムズ』の場合は、キャラクター・デザインを塩山(紀生)さん、メカデザインは大河原(邦男)さん。周辺キャラクターを新しい人に頼んだりすることはありますけど」

石川「同じ人に頼むのは、やっぱり信頼関係が強いからなんですか」

高橋「仕事の関係が終わっても、普通の日常生活でも付き合うでしょ。そうするとなかなか関係を切れない。僕はアニメーションをやっている中では個人的な付き合いが多いし、人間関係を切れないタイプですね。僕自身、シナリオ書きで生活をしていた時期もあったので、自分でできる部分もあるんだけど、自分の作りたい作品を自分以上に書いてもらおうと思った時には、信頼するライターの才能に頼るんです。もちろんやりたいことは明確に提示しますけど、作品に関わってくれる一人一人の才能を引き出して、集合体として大きくなった方が自分の作品が膨らむという考え方なんですよ」

石川「監督さんによっては全部、自分でやらないと気が済まない方も多いですよね」

高橋「多いですね。たいがい監督自身が絵が好きで、昔からコツコツ描いてきた人が多いからじゃないかな。宮崎(駿)さんは、日本で有数のアニメーターですからね」

石川「音楽も監督さんが仕切る場合が多いんですよ。デモテープの段階からこれは違うとか、こうして欲しいというオーダーがあったりして」

高橋「手塚(治虫)さんの時代から、なぜか音楽通の人が多いんですよね。手塚さんは仕事場でしょっちゅうクラシックをかけていましたし、高畑(勲)さんは楽譜が読めるし、宮崎さんも音楽の好みが決まっているみたいだし。居酒屋で演歌をがなっているのは僕ぐらいで(笑)」

石川「監督は音楽をどうやって決めるんですか」

高橋「プロデューサーが引き合わせてくれた音楽家に全面的に頼るんです。ただその前に『こういう作品だよ』っていうのを、いっぱいしゃべっておいたりはしますけどね」

石川「人と組む時に、才能はあるけれど人間的にそりが合わないとか、人間的にはいいけど仕事では上手くいかない時は、どうするんですか」

高橋「僕はよく『監督は嫌いな人がいないでしょ』って言われるんだけど、千人いたら一人ぐらいしか嫌いな人はいないんです。人を裏切って嘘つきで、ケチで博打が上手くて。博打が上手いっていうのは逃げ足が速いってことですから。そういうヤツが今まで一人二人はいたけれど、仕事をしたくないほど嫌いでもない。アニメーションをやっている人に悪い人はいないんですよ」

石川「ホントに?」

高橋「悪人にもなれない人がやっているんですよ、アニメーションは」

石川「なるほど。私は生理的に合わない人はダメなんですよ。特に歌を録る時はストイックになっているので、周りにいる人を選ぶんですね。でも基本的に、仕事というのが真ん中にあっての人付き合いなので、実はスタッフそれぞれのパーソナリティにまで深く触れてはいないんですよね。だからひょんなことで、『あの人、すごく細かいんだよね』みたいな話を聞いたりすると、『へえ』って思ったりして。そういう部分に気が付かないわけです。それが今回、アルバム作りで2週間ほどアイルランドに行って合宿生活みたいな毎日を過ごしたんですが、すると初めて『この人にこういう面があったのか』って(笑)。でも真ん中に仕事があっての人間関係なので、私はスキルが高い人ならば、一緒に仕事をしたいなと思うタイプなんですけど」

高橋「自分では人付き合いは上手くいっていると思っていても、どこかで恨まれていることもあるかもしれない。悪口ではないんだけど『あの人、こうだよね』っていうのを言っちゃうと、それが相手の耳には悪口だと届いてしまったりしてね。でも『あの人、こうだよね』っていう話をまったくしないではいられないでしょ。だから僕は、陰で言われたらイヤだろうなということは、陰でも言うし表でも言うことにしたんですよ(笑)」

石川「それはすごい作戦に出ましたね(笑)」

高橋「落ち込んでいる人がいた時に、陰で『アイツはこうだからダメなんだよ』って言っておいて、会った時に『能力あるんだから頑張りなよ』って言っちゃうと恨まれちゃうかもしれないけど、面と向かって『そんなにビクビクしているからダメなんだよ』って言ってしまえばいいと(笑)。一応これは僕なりの恨まれないための予防策なんですけど、火に油を注いじゃう時もある (笑)」

石川「人付き合いは難しいですよね(笑)。監督は普段、どんな時にアイティアが浮かぶんですか」

高橋「僕の場合は、人と話していると脳が活発に動いていいアイディアが浮かぶ事が多いんです。打ち合わせで何かアイディアを発表しなくちゃならないっていう時に、朝まで何もなくて、電車の中でも思いつかなくて、会議が始まっちゃっても何もないってこともよくあるんです。しょうがないから世間山話をしていると、突然いいアイディアが浮かんでくる。すると、さも前々から考えてきたかのように発表したりするわけです(笑)」

石川「私も『さも』というところはよくありますよ。一週間前から考えてきたような顔をして、瞬間に思いついたことを話すってことは(笑)。端から見ると、すごく深刻そうに見えるようなことでも、実はそんなに深く考えてやっていなかったりするんです」

高橋「一人で考える時間と、みんなで仕事をする時間のどっちも必要だよね。それと瞬発力の部分と、熟慮の部分。『ボトムズ』の予告編は僕の仕事だったんだけど、喫茶店に1時間いて、45分は漫画や新聞を読んでダラダラと過ごしていて、残りの15分で切羽詰まって作っていたんです。予告編なので何か引っかかるものがあればいいわけで、いろいろ考えるよりもそのままの方が恥知らずになって、弾みが出るんです。でも一方で、この作品は『これでいける』という判断をしなくちゃいけない仕事の時は、じっくりと腰を据えて作業をする。シナリオやコンテを一つずつ確認して、構成は大丈夫か、適正なセリフが入っているか、それは魅力的なセリフかというのをいろんな角度から何度もチェックするんです。そっちの作業はどちらかと言えば技術的な領域ですね」

石川「音楽はアーティストとプロデューサーが同じ感覚を共有できないとダメですね。私はここ4年ぐらい同じメンバーでやっていて、今は人を変えないでどこまでやれるかという気持ちでいるんですけど、今に至るまではプロデューサーを何度か変えましたね。根っこのところで合わないと難しいし、それとはまた別の次元で、男性と女性のプロデューサーでは異なったりもするんですよ」

高橋「今は、野崎圭一さん?」

石川「そうです」

高橋「僕は音楽についてはよくわからないけど、アニメだといい絵を描く人といいアニメーターは微妙に違うんです。絵が上手くてもいいアニメーターとは言えないし、いいアニメーターでも魅力的な絵を描くとは限らないんだよね」

石川「音楽も同じだと思いますよ。音大を優秀な成績で出た人がいいピアノを弾くかというとそうでもなくて。プラスアルファの、その人が持っている魅力がストレートに出せる人の方が聴き手の心を動かす音色を奏でたりしますから」

高橋「僕はね、自分がやっていることは刺激物だと思っているんですよ。ノイズも刺激物だけど、全部がノイズだとイヤになっちゃうわけで。いい刺激物を作らないと、観る側の心をチクチクしたり、いい気持ちにさせたりできない。その刺激物を作るにあたって、自分も含めてスタッフがいつも万全というわけではないでしょ。この人のこの部分はいいけど、こっちは目をつぶろうとか、時には自分で自分のダメな部分に目をつぶることもある。僕はいつも「100点でなくても70点ならいいや」というところで作っている。だからストレスが溜まらないのかもしれない」

石川「刺激物・・・いい言葉ですね。私も野崎さんも、お互いの顔を知ってるところから、もう15年以上の付き合いをしているので、極端に言えばお互いに黙っていても流れ作業でアルバムを1枚作れるんですよ。でもそこに刺激物みたいなものがないと、いい作品は出来ないんですよね。同じメンバーでやっているというのもあるんですけが、何かキラリと光るものがないとダメで。そこが課題だったりしますね」

高橋「最近はどんなものを作っているんですか」

石川「今、制作中の作品は、ゲームのエンディングなんですが、自分でそのゲームをまずやってみてから、最後にこういう音楽が流れるだろうなというイメージを元に作りました。今回、制作サイドからテンポを140から138に落として欲しいと言われ、たった2なんだけど、それに応えました。細かなことですが、あくまでも希望通りに。やはり作品ありきですから。タイアップがある場合、私の中の100点と制作サイドの100点は少しずれていたりします。それはそれで良いと思います。要求通りの、ジャストミートの楽曲を作ると喜ばれるかというと、意外に面白くないなという反応をされることもあるんです。要求よりもちょっと違うものを作った時の方が『ああ、これいいね』って言われるんですね。双方にとってサプライズ感がある楽曲の方が、結果的にいい作品が出来たりするんですよ」

高橋「わかりますよ。『ほど』の問題なんだよね。僕には『ここまでやると、この世界はリアリティを失う』という境界線があるんですよ。でもそれはなかなか人と共有できないんだな」

石川「そういう時はどうするんですか」

高橋「そこの部分だけ自分で微調整するんです。コンテだったら具体的に自分で絵を描いて、その通りに直してもらうんです。そういう指示を出すことって、僕の場合はすごく少ないし、なるべくやらないようにしているんだけど、でもこれをやっちゃうと『ボトムズ』じゃなくて『ドラゴンボール』になっちゃうよっていう時だけは、やっぱり自分の意志を通す。それは自分にしかわからない感覚なんでね」

石川「『ボトムズ』みたいな作品は、ファンの思い入れも強かったりしますよね。監督はファンの気持ちもくみ取って、作品作りをするんですか」

高橋「俺の作品なんだから好きにやっていいじゃないかっていうタイプではないですね。たぶん他の監督よりは、観る側のことを考える方だと思いますよ。 『ペールゼン・ファイルズ』のシリーズに関しては、従来のファンは違和感を持つだろうし、他のレギュラー達はどうなっているんだって思う人もいるだろうと思っていて、『言い訳はこちらで』ということで、1年以上かけてその欠けたものは月刊誌で連載していたんです(笑)。だって他の才能と一緒にやりながらも、言葉にもできない感性というか、ヒダヒダの部分は自分の意志を通して作品を作っているわけでしょ。だったらそこがいいと認めてくれたファンに対しては、何でもサービスしますという気持ちなんです。次作を作る時に、従来のファンがこうすると喜んでくれるかなというのは、やっぱり考えますよ。ただこの方法は諸刃の八重歯で、これを業界全体がやってしまうと、ある層にだけ向けた作品作りになってしまうので、結果的には縮小していきますよね」

石川「私の場合は、ファンの思いをくみ取るというよりも、その前にアニメの制作サイドの意向というのがありますからね。アーティストというよりも職人のような感じなのかもしれないけど」

高橋「僕はいい作り手というのは、量をこなせる人なんじゃないかと思うんですよ。量をこなせるだけの技術と熱量がないと、本当に自分が作りたいものを作る時に力不足になっちゃうんですよ。無駄なエネルギーがあるぐらいの方が、いざ勝負という時に自分のものが出せる。だから量をこなせる人は、それだけで才能があると思うんですよ。僕はその点ちょっとエネルギー不足」

石川「自分の中の制作工場は、常に稼働させておかないとダメだとは思いますね。だからお正月みたいに休む時期があるとダメなんですよ。どっぷり休んじゃうと、なかなか自分のペースに戻れない。かといって、スケジュールがガチガチだとストレスを感じてしまってお休みをしたいなと思うんですけどね(笑)」


石川「ところで、監督の作品に私は男の色気を感じるんですよ。『ボトムズ』の主人公・キリコは全然笑わないでしょ。あれば当時、衝撃的でした」

高橋「今風に言えばセクシーですよね。あのキャラクターには吉川惣司の血が相当入っていますから。吉川は作り手としてセクシーなんですよ。ものすごく神経が尖っていて、なおかつパワフル。世俗的なことには執着しないしね。吉川以外のみんなも、自分の何かを『ボトムズ』にくっつけていると思うんです。僕はおしゃべりだから、無口なヤツって女にモテていいよなって思うんだけど(笑)」

石川「監督が感じる男の魅力って何ですか」

高橋「難しいな・・・。男の魅力は、最終的には頼りがいがある人だね。僕の仲人をしてくれた虫プロの常務がいたんですけど、彼は42才で仕事中に亡くなったんですが、彼は僕だけでなく、誰からも頼りがいのある男だと思われていた人物でした。その人に男の魅力、色気を感じていましたね」

石川「そういう男性に、私はなかなか巡り会えないんですよ(笑)。頼りがいのある人だなと思うと、最近は女性だったりしますからね(笑)。監督は今ある自分の姿って、若い頃に自分が望んでいた姿だったりするんですか」

高橋「僕の日常は、比較的自分が望んでいた姿かもしれませんね。僕は終戦の2年前に生まれて、母一人子一人で育ってきたので、母親の望みは大会社のサラリーマンだったんですね。それが安定して食べていける道だと信じていた時代でしたから。でも僕は3年でサラリーマンをやめてしまって、虫プロに入って、でもそこもやめて。その頃に、虚業で生きていきたいなと思ったんですよ。そういう意味では、それに近いところで今も呼吸ができていますから。周囲の人々に支えられて、その中で結構楽をしながら好きなことができている。それと年齢が年齢なので、最近は誰からも怒られなくなったしね(笑)。以前だったら「寝ないでやれ!!」とか言われたけど」

石川「アニメ業界も夜遅くまで作業があるんですか」

高橋「もちろん、楽をしているのは僕だけだよ(笑)」

石川「音楽業界は、以前は朝8時までなんてこともよくあったけど、今はデジタル化が進んで遅くても深夜の2時ぐらいには終わるようになったんですよ」

高橋「石川さんの作品は、野崎さんが送ってくれるんですよ。僕は音楽についてはよくわからないけど、言葉というところでいうならば、僕とはずいぶん違う感覚だなと思ったんです。僕は論理的に物を考える方なので、最初にイメージがあって言葉を当てはめていくんですけと、智晶さんの文章は言葉がいくつか浮かんで、そこから全体を構築していくように感じられたんです」

石川「そうですか。私はまず起承転結のある小説を作るんですよ。そこから言葉をマイナスしていって、歌詞を作っていくんです。理由付けをする言葉や説明をする言葉をどんどん取っていくんですね。「悲しい」だったら、聴き手が何かしら想像できる部分を残して、それらをつなげていく感じで作っているんです」

高橋「そうか、言葉を取っている作業を見ていないから、そう感じたんだね。僕はアニメーションを作っていて、何か参考にならないかなと思った時に手にするのが、開高健さんの本なんですよ。彼はすきまく言葉を足しているような作り方でしょ。僕はあっちがいいんですよ。アニメの予告編を作る時は、その方法なんですね。「俺のために死ね」っていう言葉を何とかするために、埋めて、埋めて、埋めていって、その中でこの言葉が目立つように作るんです」

石川「ありありとわかる歌詞をのせた場合、それがアニメとともに流れた時、映像やストーリーを必要以上に邪魔する気がするんですね。それもあって、今の言葉をマイナスしていく作り方に至ったんですよ」

高橋「なるほど、それぞれが干渉し合ってダメって時もあるからね。予告編を作る時に『早くコメントを下さい、そうしないと絵が集められないんです』って言われるんだけど、『絵は好きなものを集めておいてくれ』って言うんです。するとスタッフが困った顔をするんだけど、まったく関係ないコメントを合わせた方がいいって時もあるんだよね。なんだかんだとアニメの話をしちゃったね(笑)。今日は恋愛の話をしようと思ってきたのに」

石川「恋愛ですか!?」

高橋「最近『ちゃんとした恋愛をしたか』という話で盛り上がったことがあって。そしたら意外にみんな考え込んじゃうんだよね」

石川「ちゃんとと言われるとね。『ちゃんと』って、ボロボロになるようなって意味なんですかね」

高橋「パートナーとして 上手くいっている典型と言えば、僕とかみさんなんですよ。40年以上一緒にいるけど、ほとんどケンカはしない。でもカミさんと恋愛をしたのかというと、よくよく考えると恋愛にまで至らないうちに結婚したような気がするんです。でもね、付き合っている間にしょっちゅうケンカばかりしていた相手もいるわけです。未熟な男女が親しくなってある関係までいくと、大概はつまらないことで傷つけ合いますよね。その相手の良いところなんて一つも思い浮かばないんだけど、折に触れその時のことが思い出されるんです。あれが僕の恋愛だったのかなって」

石川「ちゃんとした恋愛って、「悲恋」なんですかね。最近の人は、そういう恋愛をしたがらないみたいですよ。そもそもちゃんとした恋愛って、面倒な恋愛なわけでしょ。自分の生活や仕事が脅かされたり、狂ったりする。でもそうなったら困るから、それなら一人でいる方がいいって思ったり、自分の生活は守り、仕事はバリバリこなしながら、時たま会ってちょっとした愚痴を言ったり、癒されたりする関係がいいとか。私はそんなの本当の恋愛じゃないって思うんだけど」

高橋「いま僕が恋愛だとか言い出したら、家庭も仕事もみんな壊れちゃいますね」

石川「ハハハハ、それはそうでしょ。でもちゃんとした恋愛というくくりならば、本来それらを壊すぐらいの恋愛ということなんだと思いますけど」

高橋「ちゃんとした恋愛はコワイな(笑)。理想としては、家庭にヒビぐらいは入るけど、形までは壊れないところかな」

石川「最近の女性の間では、頼れる男性がなかなかいないというのが困ったところなんですけど(笑)。私ぐらいの年齢になってくると、目の前にいる男性が、私がもっとも守って欲しいと思っているところは、たぶん見えてないんだなってことがわかっちゃうんですよ。だから頼れない。でも頼っていますよっていう風に相手には思わせるんですけどね。それで相手が『俺は頼られているんだな』といい気持ちになっているのを見ている(笑)」

高橋「僕はどんな女性が理想かって言われると困るんだけど、頼れる女性はあまりかわいくなかったりして、2つの要素は、一緒に成り立たないよね。かわいい中にはひ弱さというのもあったりするわけだから」

石川「そうですね。女性は強さをアピールしちゃダメ。本当はできるんだけど、何でもどんどんやってしまうと、明日はもっと、明後日はもっともっとって、強さを求めらてしまう。そうすると、自分が辛くなっちゃうんです。だからあえて、任せるところは任せて。あえて何もやらないようにしているところはありますね。余力を残しつつ、「私、わかんない」みたいな(笑)、そこだけ女子になって、周りに動いてもらっちゃう(笑)」

高橋「僕はその男性版だよ。「これ、わかんない」って言っているとさ、その知識があるヤツがそこを埋めてくれたりする。僕はアニメの知識がないということを、才能がないと思っていた時期もあったけど、そうではなくて引き出しがなかったんだよね。引き出しがないなら、ある人から借りればいい。一つずつ全部自分でやっていると、本当にやるべきこと、やりたいことができなくなっちゃったりするんだよ」

石川「監督とはいろんなお話をしたいと思っていましたが、まさか恋愛の話がでるとは思っていませんでした(笑)」

高橋「僕は普段、石川さんぐらいの年代の人と話をすることが一番多いんですよ。僕と同じ年の人は、同じ空間にいませんから。普通の会社ならば定年退職している年だからね」

石川「そんなに長く働けていいですね。私はいつまで働けるのかなって考えたりしますよ。あと4、5年かなとか。段々と表に立たなくなって、奥に引っ込んでいくとは思うんですけど」

高橋「すごく楽観的に考えれば、自分で働きたいと思えば、ずっと働いていられますよ。私はお店を開いていますっていう暖簾さえちゃんと掲げていればね。だってね、誰かが何かをやりたい、何かを作りたいと思った時に、その人自身が持っていないものは、どこからか調達してくるしかないんだから。商売を考えたり、場を構築する人は、自分で何かをやるんじゃなくて、人や物を移動させたり、何かに光を当てたりすることで仕事を組み立てていく。その時に『石川智晶があった』って誰かが見つけてくれるから大丈夫ですよ」

石川「わかりました。赤い炎を出さずに控えめに青い炎を出しながら、暖簾だけは掲げておきます(笑)」





高橋良輔 プロフィール

1943年生まれ。’64年、株式会社虫プロダクションに入社。
主な作品に「W3(ワンダースリー)」「どろろ」「リボンの騎士」。
退社後、サンライズ創業初期に「ゼロテスター」(監督/’73)、
「太陽の牙ダグラム」(原作・監督/’81)、「装甲騎兵ボトムズ」(原作・監督/’83)、
「蒼き流星SPTレイズナー」(原作・監督/’85)、「ガサラキ」(原案・監督/’98)、
「幕末機関説 いろはにほへと」(原作・総監督/2006)、
「装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ」(原作・監督/2007年)
「装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ 劇場版」(原作・監督/2008年)など。




《Letter of thanks : 高橋良輔監督さま》

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