キノコホテル支配人マリアンヌ東雲のソロプロジェクトが遂に始動。ヴィンテージのアナログ・シンセサイザー類に多彩なビートが絡む変態度の高いサウンドと、マリアンヌの個性豊かな歌声が唯一無二のムードを織り成す異色作。昭和40年代でも1980年代でもない、西暦2020年代の不穏な幕開けに相応しいプラスチックでクールなファースト・アルバム。

  1. 01

    脱出

  2. 02

    サバンナ

  3. 03

    MOOD ADJUSTER

  4. 04

    プールサイド・プリテンダー

  5. 05

    せつないあなた

  6. 06

    ガラスの時間

  7. 07

    裁かれる者たちへ

  8. 08

    グッド・バイ

  9. 09

    漂流のサブタレニアンズ

  10. 10

    絶海の女

 2019年6月に金字塔というべきアルバム『マリアンヌの奥儀』をリリースし、休む事無くコンスタントな活動を続けてきたバンド・キノコホテル。その支配人、つまり首謀者であるマリアンヌ東雲が、2020年2月のデビュー10周年に先駆けて今秋遂にソロプロジェクトを始動した。
 キノコホテルの全ての楽曲の作詞曲、編曲を手がけ、歌と電気オルガン、プロデューサーを務めてきたマリアンヌの「ソロ」と聞いて、キノコホテルと何が違うのか? と思う方も多いだろう。
 今回は、知る人ぞ知る名古屋アンダーグラウンド・シーンの重鎮である松石ゲルを共同制作者に迎え、キノコホテルではお馴染みであるバンドサウンドのアンサンブルから敢えて離れた試みがなされた。
 ヴィンテージのアナログ・シンセサイザー類に多彩なビートが絡む変態度の高いサウンドと、個性豊かな歌声が唯一無二のムードを織り成す、異色の作品となっている。
 独自のポップ性は失わないまま、実験性に富み、先鋭的で自由なグルーヴに乗った極上の楽曲が列んでいるが、特にマリアンヌのボーカルと各曲異なるリズムの親和性は、新しい魅力の発見の連続だ。
 作詞作曲はマリアンヌ、松石ゲルに加え、マリアンヌの友人でもある半田健人(俳優/音楽家)も2曲提供している。
 昭和40年代でも1980年代でもない、西暦2020年代の不穏な幕開けに相応しいプラスチックでクールなファースト・アルバム。

1.脱出 (作詞・作曲:マリアンヌ東雲)
都市の悲哀を歌ったドライでスペーシーなサウンド。宇宙時代のマリアンヌ東雲。キノコホテルとは違ったスケール感に鷲掴みされる。

2.サバンナ(作詞・作曲:マリアンヌ東雲)
肉食女子の乙女心を歌った軽快なパワーポップナンバーに年齢不詳のキュートさがいっぱい。アイドルグループにもカバーして欲しい。

3.MOOD ADJUSTER (作詞・作曲:松石ゲル)
本作のリード曲。マリアンヌと松石の鬼才同士が生んだ奇跡の一曲。言葉もリズムとしてたたみかけるようなスピード感はジャンルを超えた新しさがある。男性コーラスは、愛知県豊田市の消防団の皆様。女王様と下僕達という構図を思い浮かべてしまう。

4.プールサイド・プリテンダー (作詞・作曲:松石ゲル)
ニューウェイヴ調のサマー・ソング。平山みき『鬼ケ島』の影響ありとゲル氏は言っていたが、彼の息子の小学校のプールから着想を得た歌らしい。

5.せつないあなた (作詞・作曲:CARLOS ROBERTO)
(原題:SE VOCE PENSA/訳詞:松石ゲル)
ブラジルの歌姫エリス・レジーナでも知られるスタンダード曲に日本語を付けたもの。高速ラテンとテクノポップが融合したようなストレンジなグルーヴ。

6.ガラスの時間 (作詞・作曲:半田健人)
本作中最も歌謡を感じさせるバラードに、絶妙なアレンジが施されている。

7.裁かれる者たちへ (作詞・作曲:半田健人)
裁判ソング?モンドなリズム&ブルース?
口琴も使用したアレンジがなんとも言えない無気味さを醸し出す。突き放すようなボーカルに悶絶。

8.グッド・バイ (作詞:藤田敏雄 作曲:いずみたく)
今陽子が1972年にリリースしたマニアックな曲のカバーだが、原曲を超えたこの絶望感は21世紀にフィットしているのではないか。

9.漂流のサブタレニアンズ (作詞・作曲:松石ゲル)
洒脱かつ和風な匂いがするアーバンなボッサナンバー。松石ゲルとのデュエット。

10.絶海の女 (作詞・作曲:マリアンヌ東雲)
モノクロームな短編映画のようなドラマチックな曲で、アルバムは幕を閉じる。マリアンヌの新境地とも言える流氷レゲエとでも名付けたい寒々しいビートと旋律に戦慄。

Text by サミー前田

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