服部 良一
東京の屋根の下~僕の音楽人生 1948-1954 [ビクター編]
#1-CD
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01
東京の屋根の下 / 灰田 勝彦
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02
恋はバラの花 / 灰田 勝彦
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03
南の恋唄 / 暁 テル子
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04
これがブギウギ / 暁 テル子
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05
三味線ブギウギ / 市丸
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06
白薔薇の歌 / 服部 富子
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07
鬼のブギウギ / 暁 テル子
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08
涙の花くらべ / 竹山 逸郎/服部 富子
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09
恋のジプシー / 暁 テル子
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10
懐かしのタンゴ / 山口 淑子
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11
リラの街角 / 灰田 勝彦
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12
沙漠の花嫁さん / 服部 富子
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13
銀座カンカン娘 / 高峰 秀子
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14
わが夢わが歌 / 灰田 勝彦
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15
バイバイ上海 / 服部 富子
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16
いのちむなしく / 平野 愛子
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17
夜来香 {夜来香=イエライシャン} / 山口 淑子
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18
想い出の白蘭 / 山口 淑子
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19
恋の長崎 / 市丸
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20
銀座お洒落娘 / 服部 富子
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21
ワン・エン・ソング / 灰田 勝彦
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22
ハロー王さん / 服部 富子
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23
銀座カンカン娘 / ビクター・スインガース
#2-CD
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01
霧のサンフランシスコ / 服部 富子
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02
アメリカ土産 / 服部 富子
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03
思い出のユーモレスク / 服部 富子
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04
東京よさこい / 市丸
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05
女ひとりのブルース / 轟 夕起子
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06
大阪娘 / 服部 富子
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07
雨のビギン / 小畑 実
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08
花よりタンゴ / 市丸
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09
アリラン・ルンバ / 服部 富子
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10
夢よいづこ / 灰田 勝彦
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11
チャッカリ・ルンバ / 久慈 あさみ
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12
時計のささやき / ナンシー梅木
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13
チャイナ・ムーン / 渡辺 はま子
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14
恋のハバネラ / 淡谷 のり子
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15
あの夜のワルツ / 服部 富子
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16
東京やんちゃ娘 / 宮城 まり子
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17
恋は陽気にスィングで / 宮城 まり子
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18
霧の夜汽車 / 小畑 実
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19
青い夜のタンゴ / 小畑 実
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20
バイバイ東京 / 服部 富子
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21
お酒の歌 / 暁 テル子
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22
東京シンデレラ / 宮城 まり子
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23
君懐しのトランペット / 生田 恵子/tp:和田 真三
ビクターの歌い手だからこそ生まれた、まさにエンタテインメントな楽曲の数々
携帯電話の着メロとして「東京ブギウギ」が10代の女の子のバッグから流れたり、井上陽水の「銀座カンカン娘」のカヴァーがFMから聞こえてくる・・・2002年春のことです。
服部良一のサウンドが、時代遅れなものではなく、また、日本のポップスの先駆者としてのみ評価されているのでもなく、今、この日常に生きていることを実感し、彼のサウンドにインスパイアされたミュージシャンの多さに、改めて驚かされます。
以前、日本コロムビアから発売された『僕の音楽人生』(3枚組) に収録されなかった、ビクター時代の優れた作品を、ひとつにまとめたアルバムを作りたい、そう思ったのは、そんな時でした。
柔軟な発想と大胆なアプローチに支えられた、コロムビア時代にはない愉快な楽曲、ビクターの歌い手だからこそ生まれた、まさにエンタテインメントの数々が、こうしてまた脚光を浴びる・・・なんと幸福な体験でしょうか。
(解説:高橋正人)
日本のポップス歌謡界に燦然と輝く偉業
伊藤 強(音楽評論家)
「銀座カンカン娘」は、実に鮮明に覚えている。昭和24年夏、神奈川県鎌倉市の由比ヶ浜海岸に、木製の5メートルほどの塔が建った。こちらはその海岸近くにあった、旅館を改修した引き揚げ者の寮に住んでいたのだが、その塔から日中休みなく「銀座カンカン娘」が流れて来たのである。あとになって分かったことだったが、この木造の塔はレコードの宣伝としてはじめて考案され、建てられたものだったそうで、これはレコードの宣伝としては画期的なことだったという。こうなると、こちらはいやでも覚える。「あの娘可愛や、カンカン娘~」という歌い出しのところは、何かといえば口をついて出る。歌手が高峰秀子だということはすぐに知ったけれど、作曲が服部良一だということを知ったのは、ずっとあとになってからである。なにせ中学生だったのだから。とはいえ、服部メロディのモダンさは、印象的で記憶に残った。灰田勝彦の鼻にかかった甘い声で聴く「東京の屋根の下」は、中学生ではあっても、まだ見ぬ銀座への憧れや、日比谷、浅草といった地名への憧れを増幅させてくれたのである。
そしてブギだ。ブギのリズムは、空腹だった当時の日本人の胃袋を直撃したといわれたほどである。アメリカ生まれのそのリズムで、服部は、戦後の日本の歌謡曲に旋風を巻き起こした。それも単にリズムを使うのではない。なんと「三味線ブギ」である。もっとも日本的な楽器と、芸者歌手の市丸を起用しての作品だ。コロンブスの卵だといえばそれまでだけれど、新しい音楽は、そのような異種交配から生まれるものだ。服部は、ジャズにとらわれない、柔軟な感性で、歌謡曲に新しい地平を開いたのである。
服部良一といえば、戦前、戦後を通じて、日本の歌謡界に燦然と輝く作曲家であり、とくに、いわゆるポップス歌謡と呼ばれる分野では、他の追随を許さない。若くしてクラシックをメッテルに学び、同時にジャズのプレイヤーとして活動していたキャリアが、その作曲に生きている。そして、やはり明治生まれの日本人としての気骨も兼ね備えた男だったのだ。
この2枚組のアルバムは、DISC 1が「銀座カンカン娘」そしてもう一枚のDISC 2が「アメリカ土産」というタイトルになっている。もちろんそれぞれに歌のタイトルではあるけれど、DISC 2は、実際に服部が渡米した時の印象を元に作られた作品が多い。なかでも、実妹・服部富子の作品に印象が強い。良一は、実妹・富子には、格別の愛情があったのかもしれない。なにせ、「アメリカ土産」である。当時はなんといっても、憧れの国。そこを、作曲家として訪れ、その土産の曲が妹に渡される。歌手にとって、こんな幸運は滅多にあるものではない。そしてこの2枚組のアルバムで、富子の作品は全45曲中、13曲を数える。いかに兄・良一が、妹のために精力的に仕事をしたかが判るというものだ。
いずれにせよ、これまで欠けていた、服部良一のビクターでの業績が、ここにまとまった。戦後の混乱期と、そこから立ち直り、次に来る高度成長期を迎えるための準備の時、ひとびとが、どのような歌に親しみ、励まされ、あるいは慰められたか、このアルバムを聴くことによって、知ることが出来る。ここに収められた作品が発表されてからは、ながい時間が経過しているけれど、メロディは、すこしも古びてはいない。そして、それこそが、このアルバム、言い換えれば、服部メロディのすばらしさである。