松田 美緒 meets DEEP SAMBA
カルナヴァリスタ/Vida Calnavalista
ボーダレスに飛躍する日本とノルデスチの“ニュー・ウェイヴ”が邂逅
ブラジル北東部(ノルデスチ)の音楽がかなり面白いことになってきている一一とは、ココ数年の間にいろんな角度から伝えられてきた。ブラジル音楽のルーツをロード・ムービー的に追った映画『モロ・ノ・ブラジル』や、モロッコの音楽家とのコラボレートで世界的な注目を集めたベルギーの越境ジャズ・ロック・バンド=シンク・オブ・ワンが、続くプロジェクトとしてノルデスチに乗り込んだり、また最近、日本のワールド・ミュージック愛好家の間でも関心が高まる南仏・オクシタニアの音楽家にも、ノルデスチの音楽シーンと深いつながりを持つ者が多かったりと…。直接的・間接的を含め、様々なベクトルが申し合わせたようにブラジル北東部のあたりに集中しつつあるのは、間違いない。
ところが、肝心のノルデスチ自体の最新動向は?となると、実はまだまだブラック・ボックス状態にある。そのほとんどが地元のインディーズ・レーベルでCDを制作していることもあり、世界中のCDを比較的容易に手にすることができる日本でも、なかなか簡単には音源などを入手できない状況にある。そんな中でもやはり、かの地では90年代のマンギ・ビートに匹敵する(あるいは超える)音楽的“ビッグ・バン”が進行中であることを伝えてくれたのが、独自の嗅覚でいち早くノルデスチに足を運び、本作でもプロデュースを務める久保田麻琴が昨年にコンパイルした刺激的なオムニバス盤『ノルデスチ・アトミコ Vol.1』だった。土着性を失うことなく継承されてきた、サンバの原型でもある強靱なリズムと、フォホー、シランダ、フレーヴォ、マラカトゥなどといった多種多様な音楽スタイルが、最新のエレクトロニクスや録音機材と直結することにより、ノルデスチ特有の“うねり”や“なまり”を保ったまま進化を遂げつつある。本作と同時発売されるコンピ第2弾『ディープ・サンバ~ノルデスチ・アトミコ・ドイス』は、よりノルデスチの先端部分にフォーカスした過激な内容となっているので、未体験の方はぜひ併聴してみて頂きたい。
そして、この松田美緒の新作『カルナヴァリスタ / 松田美緒 meets DEEP SAMBA』は、上記のコンピの中でも際立った個性を放っているノルデスチ新世代のキーパーソンたちを随所に迎えた、実にスリリングな内容となっている。昨年リリースされた彼女のデビュー・アルバム『アトランティカ』も、そのタイトル通りに、大西洋を跨いでポルトガルのファド~カーボ・ヴェルデのモルナ~ブラジルのサンバなどに通底する音楽的共通項やサウダーデ(郷愁)の感情を浮き彫りにしようとした、メロウだがとても野心的な作品だった。しかし、今回の『カルナヴァリスタ』ではよりダンサブルでエッジの立った音を得て、『アトランティカ』の端正さとはまた違った表情をみせている。と同時に、ノルデスチの新鋭たちにとっても、日本からやってきた女性シンガーをコラボ相手に迎えて、自分たちの持ち味を違ったベクトルから発揮する好機となったはず。結果的にこの作品は、双方の新たな魅力を引き出しつつも、より幅広い層に双方の面白さをアピールしうる決定打的な1枚、となったように思う。
(2006年6月 吉本秀純 / CDライナーより抜粋)