中村 一義
Kazuyoshi Nakamura

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2020.02.12

ニューアルバム『十』セルフライナーノーツ

1.叶しみの道
このアルバム『十』を制作するときに、一番最初に思いついたのが、この『叶しみの道』というタイトルでした。それと同時に、今作はそういうものになるんだと、僕も知らしめられたんです。収録された10曲は、日常的なことから、宇宙レベルのことまでを歌っている、かなりふり幅が広い作品ということもあって、この曲もそれを体現するかのように、曲調も途中からガラッと変わるんです。さらに、タイトルである漢字の“十”を斜めにすると“×”になり、叶える×悲しみにもつながるんです。叶えるために、悲しみの道に行くということをこの一言で表せたのは、すごくよかったなと思っています。

2.それでいいのだ!
実はこのメロディは、10年前にできていたんです。でも、当時制作していたアルバムのカラーと少し違うと思い、温めていました。さらに、なんとなくデビュー曲(『犬と猫』)っぽい、当時のUKロックのような昔懐かしさがあったので、デビューから22年もの間、ずっと支えてきてくれているファンの方もいるからこそ、“俺たち、ここまでやってきたね”という感じが出せたらいいと思い、あえて『犬と猫』のオマージュのような曲に仕上げました。

3.十
実はこの曲、最初のサビのメロディに引っ張られて作った仮歌詞が、“No come come shadow”だったんです。それをデモで歌い、みんなにも聴かせていたせいで定着してしまい、なかなかサビの歌詞が乗らなくて苦労しました。そんな時に、メロディが連れてきたこの仮歌詞を訳してみたら、“影を入れるな”となり、そのワードに付随することがいろいろ思いついてきたんです。伝えたいことは、サビにあることがすべて。この10年で、震災や災害などを目の当たりにして、“絶対的なものはない”ということを実感する機会が多かったからこそ、ちゃんと自分にとっての大事なことを見極めて対話していくことが大事だと感じていて。勝手に“未来がこうなる”って言うのは、すごく無責任だし、言われてもしらけちゃうんですよね。なので、曲のラストはちょっとイヤミっぽくなっています。コワイ、コワイ!(笑)

4.神・YOU
前曲の『十』が、今の時代を描写しているとしたら、『神・YOU』は、その時代へと行く若者たちを描写しているんです。若い人達って、自分たちが若いころもそうだと思うんですが、たとえ遊んでいたとしても、その中に自主性があって、この未来がどうなるのかというのを考えながら行動していると思うんですよね。その気持ちを一貫して貫く純粋性のようなものを、この曲で歌いました。そのうえで、漠然と何かのせいにしてもしょうがないということを、『十』と『神・YOU』で歌いたかったんだと思います。タイトルの神とYOUは、イコールではなく、似て異なるものということで、“=”にフタをする形で“・(平行四辺形)”にしました。

5.すべてのバカき野郎ども
昨年、バンドメンバーだったヨースケ@HOMEが急逝してしまったんです。あまりにも晴天の霹靂で信じられなかったんですが、その直後に書いていた歌詞に“今日くらい今日ぐらい”という言葉がなんとなくメロディに乗ってきて、その後に“さぁ 飲もうぜ”って出てきたら、完全に“これはアイツのことだ”って思ったんです。“あぁ、これは(曲を)持っていかれたな”って思いました(笑)。その後、ヨースケのことをおもいながら書いていったらどんどん歌詞がハマって完成したんですが、いざ歌入れをしようと思ったら、泣いて全く歌えなかったんです。それから少し寝かして歌ってはみたんですが、どうしても泣いちゃうんですよね。なので、この収録されている曲も、鼻づまりの泣き声なんです。こんなことは初めてだったんですが、ニール・ヤングにもそういった曲があったなと思ったら、いいのかなと思い、そのまま収録しました。とはいえ、いつも笑っているヤツだったんで、すごく明るい曲になっています。きっとあっちで笑いながら聴いてくれていると思います。

6.レイン⚡ボウ
このアルバムのタイトル『十』が十字架のようにも見えるからこそ、あらゆる宗教的なことも勉強し直したんです。そこで見つけたのが、キリスト教の聖書の中で、キリストが亡くなる直前に1人で籠り、長時間祈りを捧げるシーン。籠る前に、弟子には“皆もちゃんと心の中で祈りを捧げなさいと”告げていたのに、いざ帰ってきたらみんなは寝ていて、キリストは心の中で“弟子たちは何をやっているのかわからないのです”と頭を悩ますエピソードがあるんですよ。もうこれほぼ、コントじゃないですか(笑)。でも、そこに人間らしさと愛らしさを感じたんですよね。とはいえ、宗教的なアルバムにはしたくなかったので、僕というフィルターを通し、100%僕のものを作りたかったので、このエピソードを引用しつつ、僕なりに解釈を変えて歌詞にさせてもらいました。ちなみにタイトルは、“Rain(雨)”と“Bow(弓)”の間に雷があるという絵にしたくて、合間に⚡を入れたタイトルにしました。

7.イロトーリドーリ
最近になって、僕が育った下町界隈にも再開発が進んできているんです。僕が小さな頃は、下町の雰囲気にどこかサイケデリックなものを感じていて、“この路地を一本曲がったら、でっかい怪獣がいる”と思ったりと、想像力を膨らませてくれていたんですよね。そんな街並みが一気になくなってしまうのは、どうなのかなと思うんです。それに、毎日飼い犬のゴンと一緒に散歩をしていると、知らない人と喋らない日がないんですよ。人懐っこい人が多いからこそ、話しかけてくれる人も多くて、おのずとトーク力も上がり、コミュニケーション能力も磨かれました(笑)。そんな人たちと交流ができる街を、守りたいと思い、この曲を作りました。デビュー当時だったら、絶対に作らなかった曲だと思うし、こういうことも言わなかったと思うんですけどね。大人が言わなかったら、誰が言うんだということで、思い切って書くことにしました。

8. スターズー
この曲の主人公は、ちょっとチャラい、星座にシンパシーのある子なんです。だって、サビで「ウェーイ!」と叫んでいますからね(笑)。でも、ただふざけているのではなくて、ものすごくピュアなヤツが、星空を見て純粋に喜んでいる姿を描きたかったんです。サウンドも、4小節や8小節でまわすのが通常なんですが、この曲は10小節なんです。“うわ、イカれてるのができた!”と思い、テンションが上がりました(笑)。この曲はライブで盛り上がれる曲なので、みんなで歌ってもらいたいですね。

9.イース誕
ゴンと散歩をしていると、街には良い人しかいないなと思うんですが、ニュースでは親が子供を殺すようなことも日常的に溢れているじゃないですか。それを見ていると、何のための親だろう、なんのための子供だろうと思うんですよね。それは、他のことすべてにも当てはまることで、どんなことにも、どんなものにも、〇〇のためという原因があるんです。それは、ちゃんと言っておきたいと思い、メッセージとして歌詞に込めました。実はこの曲は、すでにバックトラックだけは存在していたんです。そこにいつか曲をつけたいなと思っていたんですよね。そんな中、移動で高速道路に走っている時に、メロディと歌詞が一緒に出てきたんです。この曲ばかりは偶然を引き当てた、“助かった!”という感情で生まれました(笑)。タイトルは「イースター」にかけて、再誕という意味も込めて、『イース誕』となりました。

10.愛にしたわ。
この曲を作る前は、このアルバムのシンボリックなものを作りたいと思っていたんですが、いきなり歌詞も曲も一緒に出てきたんです。その時に、このアルバムを作るために、この曲が生まれてきたんだと思ったんですよね。それに、この『十』を締めくくる前に、僕が出した答えをちゃんと示さなくちゃいけないと思ったんです。そこで、中村一義は“愛”にした”ことを、歌にしました。それは時代に対しての、過去のことへの、宇宙のことへの、日常への返答でもあるし、代替えがない答えが愛だと再確認したんです。とはいえ、どちらかが愛と言っても片方が愛じゃないと感じたら、それは愛ではないですよね。両方の人が“これは愛だ”と感じたところに、抽象的だけども、愛を感じられるのかなって思ったんです。それが、『十』という“二本のビックライツ”で出来た“中央の点”なのかなという答えに繋がりました。もちろん、あくまでも僕個人の考えなんですけどね。


ボーナストラック 
叶しみの道(Acoustic Live at Myonichikan on June 27,2019 小谷美紗子&三井律郎)
小谷美紗子ちゃんと、三井君がギターで参加してくれたこの日のライブは、あのバカ、ヨースケの通夜の日だったんです。でもアイツのことだから、通夜の場所にいるかもわからないし、「ここでライブをやっているよ」って言ったら来ちゃうヤツだから、「一緒にいるかもね」と言いなが本番がはじまったんです。そこでこの『叶しみの道』を演奏したら、やっぱりなんとなくいるような…というか、ここにいたように感じたんです。そんな、彼を感じられるトラックだなと思ったので、ボーナストラックとして収録しました。


TEXT:吉田可奈

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